「人と違う」「誰にも言えない」「わかってもらえない」と悩んでいる「あなた」に読んでほしい!〔本と漫画 厳選6作品〕

飯田一史のこの本オススメ! 第2回「多様性を知る物語」

ライター:飯田 一史

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多様性を認めよう、とよく言われるようになりました。それでも世の中の多数派と違うことをまわりの人に言えなかったり、言っても理解してもらえなかったり、バカにされたりすることは現実にまだまだ存在します。ムリに自分から言う必要もないのですが、知ってほしくてもネガティブな反応が返ってくるのがこわくて言えない​こともあります。

そんなときに読むと心の支えになってくれたり、わかってほしい人に読んでもらうことで多数派側からでは見えにくい世界や気持ちを理解してもらう手助けになる物語を紹介します。

発達特性を持つ人たちの内なる世界を知る

落ち着きがなく思いつきで行動したり、注意力が散漫で忘れ物・落とし物や遅刻をしがちだったり、かと思えば自分が好きなことには過度に集中してしまってまわりの人から話しかけられても聞こえていなくて結果的に無視して誤解を招いてしまったり……こういうタイプの人は発達障害の一種、ADHD(注意欠如・多動症)である可能性があります。

また、こだわりが強く、自分の好きな対象については突き詰めて知識を吸収する一方で、人から言われたことを字義どおりに受け取り、「行間を読む」「空気を読む」「表情を読む」のが苦手だったりするタイプの人はASD(自閉スペクトラム症)の可能性があります。

ほかの知的能力には問題が見られないのに、生まれつき字を読むのが苦手だったり、漢字をいくら書いてもなかなか覚えられなかったり、計算ができなかったりする場合、LD(学習障害)である可能性があります。

黒柳徹子の自伝的小説『窓ぎわのトットちゃん』やマンガ大賞2024を受賞した泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』は、ADHDやASD、LDといったことばを使わずに、発達障害や学習障害を持った人たちの世界を描いている(と思われます)。
どちらも、とてもあたたかい気持ちになる作品です。

『窓ぎわのトットちゃん』
作/黒柳徹子 絵/いわさきちひろ 講談社
『君と宇宙を歩くために』
作/泥ノ田犬彦 講談社

まだ自分を客観視できる年齢ではなかったり、「自分の特性を知って対処法を知りたい」というよりは「自分みたいな人がまわりにいない」ことで落ち込んでいたりする小中学生でも、作品世界に居場所、仲間を見つけられるかもしれません。

また、こうした特性を自分や周囲が認識していて、苦労しているという自覚があるけれども医者に診てもらったことがない場合には、素人判断をせずに精神科に一度相談してみたほうがいいと思われます。

ジェンダーとセクシュアリティの多様性を描く物語

七都にい『ふたごチャレンジ』では、二卵性双生児の姉あかねと弟かえでが「男らしく」「女らしく」という押しつけに反発し、転校を機に入れ替わって生活します。あかねはサッカー大好きでスカートが苦手、かえではお絵かき好きでかわいらしいドレスを着るのにあこがれています。

生物学的に女で性自認も女性のあかねは、「女の子はおしとやかに」というジェンダーロール(性別ごとに「こうあるべき」と考える社会規範)に違和感を抱いているけれども、恋愛対象としては男子が好きです。生物学的には男であるかえでは、女の子のような格好が好きで、性自認もおそらくは女性で、恋愛対象もどうも男子のようです(少なくとも序盤でははっきり断定されていません)。

「家事をするのは女の仕事」的な性別役割分業の押しつけや、「女性だと○○できない(させられない)」といった性差別の問題も扱っているし、ジェンダーやセクシュアリティのことも扱っている作品です。

『ふたごチャレンジ!』
作/七都にい KADOKAWA

児童文庫を卒業した中高生なら、『君が落とした青空』や『交換ウソ日記』シリーズなどのヒット作を持つ櫻いいよの『世界は「」を秘めている』が近いテーマを扱った作品としておすすめです。まわりが求める「かっこいい女子」枠を演じつづけてきた玉川つばさと、きれいなものを身につけるのが好きな男子・雨宮凪良が出会い、本当のきもち、自分で自分らしいと思える振る舞い方に気づいていく物語です。

『世界は「」を秘めている』
作/櫻いいよ PHP研究所

また、ウェブで連載され、Netflixでドラマ化もされて欧米圏の10代を中心に熱烈に支持されているコミック(グラフィックノベル)にアリス・オズマン『ハートストッパー』があります。『ハートストッパー』では、ゲイのチャーリーとバイセクシュアルのニックのふたりを中心に、レズビアン、トランスジェンダー、他者に対して性的欲求を抱かないアセクシュアルのキャラクターも登場します。そんな彼らが、学校や家庭で差別や偏見、無理解に直面しながらも、愛や関係性を育む姿を描いていきます。

チャーリーには摂食障害があり、ままならないメンタルヘルス(心の健康)との付き合い方についても掘り下げています。

『HEARTSTOPPER』
作/アリス・オズマン 訳/牧野琴子 トゥーヴァージンズ

外からは気づきにくい「見え方」の違い

多くの人とは色の見え方が違う色覚障がい(色覚特性)を持った主人公・信太朗を描いたのが志津栄子『ぼくの色、見つけた!』です。小学生のときに、色の認識がまわりのひとと異なることで描いた絵を同級生にバカにされた信太朗は、色覚障がいについて隠すようになります。

『ぼくの色、見つけた!』
作/志津栄子 絵/末山りん 講談社

「色の見え方なんて、そんなに苦労するものなのかな」と思う人もいるかもしれません。でもたとえば色覚障がいがあると就くことが制限される仕事もあります。

日常生活でも困っている場合や、フラストレーションを抱く場面も少なくないと思います。たとえば私はある講演のあとで「パワーポイントのスライドで白地に赤い字で強調されると、ほとんど見えない」と言われたことがあります。こちらは「目立つように」という意図でやったことが、色覚に特性がある人にとっては逆効果なのだと知り、非常に申し訳ない気持ちになりました。とはいえ、自分がそうは見えていないものに対して適切に配慮することは今でもむずかしく感じています。

信太朗は特性ゆえに、ほかのひとはなかなか気づかないことに気づけるとわかり、それを活かすようになります。「できない」「違う」ことをネガティブに捉える見方もありますが、人と違うからこそできることがある、と捉えることもできます。

きれいごととして他人からそう言われても当事者にはあまり入ってきませんが、困難がふりかかっている物語の登場人物たちがなんとかその道を見つける姿を読むと、全然感覚が違うはずです。こういうところにフィクション、小説ならではの力があります。

「人と違うことを活かして、何かできないといけない」わけではない

もちろん、「人と違うことを活かして、何かできないといけない」という考え方をする必要もありません。何かができてもできなくても、人とどこかが違っても同じでも、他人が認めてくれようがくれまいが、自分を責めたり、卑下したり、思い詰めたりしなくていいと思います。

「何かが他人よりできるひと、前向きに考えられ、取り組めるひとのほうがすばらしい」という考え自体が多数派のものです。それにしたがわないといけない理由はありません。小説やマンガを通じて「いろいろなひとがいるんだな」と実感でき、物語に浸ることで少し気がラクになれたら、それで十分すぎるくらいではないでしょうか。

「人と違う」ことに悩むあなたにも、そうした人を理解したいあなたにも、寄り添い、気づきを与えてくれる物語があります。モヤモヤしているとき、うまく言葉にできない何かを抱えているときに、手に取ってみてもらえたらと思います。

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いいだ いちし

飯田 一史

Ichishi Iida
ライター

青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』『ウェブ小説30年史』ほか。JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。

青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』『ウェブ小説30年史』ほか。JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。