子どもへの「読み聞かせ」が足りない! 堀井美香アナが“駄菓子を配って絵本の読み聞かせ“をする理由

シリーズ「令和版駄菓子屋」#7‐1番外編 ~アナウンサー・堀井美香さんインタビュー前編「読み聞かせと駄菓子」~

フリーアナウンサー:堀井 美香

お土産に駄菓子をたっぷり用意して、全国各地の子どもたちを訪ねて読み聞かせを行う、堀井美香さん。  撮影:タナカヨシトモ
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コクリコがこれまで取材した駄菓子屋は、全国13軒。子どもの居場所になるさまざまな令和版駄菓子屋を取材してきました。

取材したすべての駄菓子屋さんたちはみな「駄菓子はいいよね」と口を揃えて言います。駄菓子があるだけでふんわり心がほぐれて、どんな世代のどんな間柄でも自然と会話が生まれる。そんな魔法のような力を駄菓子は持っているのかもしれません。

今回取材したのは、50歳を機にTBSを退社し、フリーアナウンサーとして活躍する堀井美香さん。堀井さんは、全国の図書館や児童養護施設を訪れ、読み聞かせ活動を行っています。お供として、車にたっぷりの駄菓子を詰め込んで!

堀井さんの活動と、子どもたちに駄菓子を持っていく理由を聞きました。

堀井美香(ほりい・みか)PROFILE
1972年生まれ、秋田県出身。1995年にTBS入社、2022年退社しフリーアナウンサーに。現在はさまざまなナレーションを担当するほか、自身で朗読会も開催。ジェーン・スーさんとのPodcast番組『OVER THE SUN』は世代やジェンダーを問わず大人気となり月間リスナー80万人。

※1回目(全2回)

読み聞かせが足りていない場所とは

2022年、27年間勤めたTBSを退社して、フリーアナウンサーになった堀井美香さん。独立後は「読むこと」を活動の柱とし、「yomibasho project(ヨミバショ・プロジェクト)」と題して、舞台での朗読や子どもへの読み聞かせを続けています。

「大きなホールでたくさんの人を前にする《朗読》と、小さな図書館や児童養護施設で子どもたちを相手にする《絵本の読み聞かせ》。独立したら、そのどちらもやっていきたいなと思っていました」(堀井さん)

最初の読み聞かせの舞台となったのは、広島県尾道市因島(いんのしま)の絵本ギャラリー。2022年7月、「こどもとえほんの会vol.1」が開かれました。

堀井さんの読み聞かせイベント「こどもとえほんの会」は2022年にスタート。最初の舞台は広島の絵本ギャラリーだった。  写真提供:堀井美香

「絵本が大好きな子どもたちが集まってくれて、目をキラキラさせながら物語を聞いてくれる。それが何よりの癒やしになりました」(堀井さん)

図書館の読み聞かせでは、子どもたちに好きな絵本を選んでもらうことも。

「悩みに悩んで抱えきれないくらいたくさんの本を泣きそうな顔で持ってくる子がいたり、『次はこれ読んで!』って、分厚い乗り物図鑑を持ってきたりする子がいたり」(堀井さん)

読み聞かせ風景を、楽しそうに話してくれる堀井さん。

しかし、「図書館での読み聞かせは、もちろん素敵な機会です。でも、『読むことを届けられる場所が、ほかにもあるのかもしれない』という思いを、どこかで感じていた」と語ります。

実は堀井さんは、かねてから日本児童養護施設財団に寄付をしてきました。子育てがほぼ卒業に近づき、自分自身に少し余裕が生まれ、何か社会に還元できたらと思ったときに見えてきたのが児童養護施設で暮らす子どもたちのことでした。

「お母さんの膝のうえで、読み聞かせをしてもらっている子どもたちがいる一方で、そうじゃない子どもがいる。もちろん、施設で生活していても、子どもたちは職員の方にたくさんの絵本を読んでもらっています。もし私が読み聞かせに行くならば、手が足りてないところなのではないかなと思ったんです。

そして、何よりお邪魔にならないように伺わなければならない。そういった施設には伝手(つて)もなかったですし、手探りだったのですが、まずはやってみよう、と」(堀井さん)

堀井さんの小さな読み聞かせイベント「こどもとえほんの会」は、全国の図書館だけでなく、児童養護施設にも活動のフィールドを拡げていきます。

いろんな子どもがいてみんなおもしろい

児童養護施設からの依頼で訪問をしているのかと思いきや、「地方でのお仕事が入ったときなどに、前日に立ち寄れそうな施設を調べたりして、私から直接連絡をとってお願いしているんですよ」と、堀井さん。

タイミングが合い、快く受け入れてくれる施設があれば訪ねていく、というスタイル。数冊の絵本と、たくさんの駄菓子を用意して施設へと向かいます。報酬はなく、もちろん完全ボランティアの活動です。

子どもへの読み聞かせは、さぞなごやかで素敵な時間だろうと思ったら、「本当にいろいろなことが起こって、おもしろいんですよ!」と堀井さん。  撮影:タナカヨシトモ

図書館の読み聞かせ会は絵本好きな子どもたちが多かったものの、ほかの場では読み聞かせを心待ちにしている子ばかりとは限りません。

「そもそも、読み聞かせって子どもたちにとったら、そんなにありがたいことでもないんですよね。自分の子どものころを思い出すと、そうだった気がします。演劇や演奏会を無理やりに見せられても、退屈だったような……(笑)」(堀井さん)

そんな子どもたちと対峙する経験は、堀井さんにとってとても刺激的です。

「いろいろな子どもたちがいます。子どもたちって正直なので、明らかに退屈そうにしている子もいますよ(笑)。

読み聞かせが始まっても寝そべったままの子。読み始めた途端に『ねぇ、それっていつ終わる?』なんて手厳しい質問をしてくる子。

そうかと思えば、彼らにとっておもしろいお話が始まると、みんな最前列を陣取ろうとぎゅーぎゅーに集まってきたりして、本当にみんなかわいいんです」(堀井さん)

絵本を広げる堀井さんと、一筋縄ではいかない元気な子どもたちとのやりとりが目に浮かびます。

「私は、自分の余った時間で小さな読み聞かせをやらせてもらっているだけで、本当に自己満足の活動なんです。

何かを与えるどころか、私のほうが、子どもたちからたくさんの気づきや想いをもらっている。帰りの車の中でハンドルを握りながら、いろいろなことを考えます」(堀井さん)

それでも堀井さんが子どもたちに絵本の読み聞かせを続けるのには、ある思いがあります。

「物語の世界にはたくさんの感情があります。『悲しいってこういうことなんだ』とか、『これは怒ってるんだ』、『意地悪されるとこんな気持ちになるんだ』とか。

物語を読めば、自分の気持ちを言葉で整理できるようになって、それはきっと生きる力になる。願わくば、今日のお話が記憶のどこかに残っていてくれて、いつか何かの助けになったらいいなって思うんです」(堀井さん)

「物語からは、豊かな感情を教えてもらうことができる」と堀井さん。絵本の持つ力を信じている。  撮影:タナカヨシトモ

お土産に駄菓子を持っていく理由

堀井さんは読み聞かせに向かうとき、自ら車を運転。車には駄菓子をたっぷりと詰め込みます。

駐車場や庭がある施設では、車のトランクを開けて、積んでいた駄菓子をお披露目してから読み聞かせを開始。スペースが限られているときには、あらかじめパッキングした駄菓子をたくさん抱えて登場します。

読み聞かせをする前に、「お土産も持ってきたよ」とお知らせ。すると子どもたちの気持ちがほぐれるのだとか。  写真提供:堀井美香

「子どもたちの目的は、なんと言っても駄菓子なんですよね。読み聞かせを始める前に私の後ろにずらっと並べたりして『絵本を読み終わったら、お菓子タイムにするからね』なんて言うとみんなすごく嬉しそう。

やっぱり、駄菓子があるとないじゃ、印象が違いますよね。おばさんが絵本を読みに来てくれたってだけでもいいんだけれど、『そういえば、サンタみたいにたくさん駄菓子を持ってきてたよなぁ』というほうが、子どもたちの記憶により残るんじゃないかと思って」(堀井さん)

読み聞かせが終わると、お待ちかねの《即席の駄菓子屋》を開店。さっきまで絵本を前に退屈そうにしていたり、騒いでいた子たちも一様に笑顔になります。

駄菓子を前に、子どもたちの表情はくるくると動きます。「そんな子どもたちの姿を見るのが本当に何より楽しくって」と、堀井さんは話します。

堀井さんの駄菓子屋には、ちょっとした買い物ルールも。次回は、駄菓子を前にした子どもたちとのやりとりを伺います。


取材・文/遠藤るりこ

●関連サイト
一般財団法人 日本児童養護施設財団

堀井美香さんが企画⁉ 子どもに人気の名曲が聴ける“クラシック演奏会”を8/12(祝)開催!!

堀井美香さんがナレーション・司会に、企画プロデュースまで行ったクラシック演奏会が8/12(祝)に開催。『スター・ウォーズ』や『となりのトトロ』など人気の名曲を新日本フィルハーモニー交響楽団が演奏。「クラシックをもっと身近に」とTシャツでもOK。驚くアイディアで、子どもも大人まで楽しめます。
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イベント名:Hello!! シネマミュージック in Summer
日時:2024年8月12日 (月・祝)、14:00開演(13:15開場)
会場:すみだトリフォニーホール
料金:[全席指定]S¥5,500、A¥4,500、学生(高校生以下)¥2,500 ※未就学児入場不可、「すみだ区割」あり
・公演情報はこちら 
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ほりい みか

堀井 美香

フリーアナウンサー

フリーアナウンサー。1972年3月22日生まれ、秋田県出身。法政大学法学部を卒業後、1995年にTBSに入社して以来、局アナとして第一線で活躍。 これまでには多くのナレーションを担当し、ナレーションの名手としての存在感を放つ。TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNG(エーラウンジ)』のプロデュースを担当するなど、朗読にも注力している。2022年3月TBS退社。同年4月よりフリーアナウンサーとして活躍中。 TBSラジオ「メタウォーター  presents    水音スケッチ 」(月曜〜金曜13時)、Podcast番組『WEDNESDAY HOLIDAY - 働くの実験室(仮)By SmartHR』(毎週水曜17時)を配信のほか、ジェーン・スー氏との大人気Podcast番組『Over the sun』(毎週金曜17時)で活躍。 私生活では一男一女の母。子どもたちが幼いころには、自分なりに工夫した絵本の読み聞かせを実践していた。 著書『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)、『一旦、退社』(大和書房)、『聴きポジのススメ』(徳間書店)など。

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フリーアナウンサー。1972年3月22日生まれ、秋田県出身。法政大学法学部を卒業後、1995年にTBSに入社して以来、局アナとして第一線で活躍。 これまでには多くのナレーションを担当し、ナレーションの名手としての存在感を放つ。TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNG(エーラウンジ)』のプロデュースを担当するなど、朗読にも注力している。2022年3月TBS退社。同年4月よりフリーアナウンサーとして活躍中。 TBSラジオ「メタウォーター  presents    水音スケッチ 」(月曜〜金曜13時)、Podcast番組『WEDNESDAY HOLIDAY - 働くの実験室(仮)By SmartHR』(毎週水曜17時)を配信のほか、ジェーン・スー氏との大人気Podcast番組『Over the sun』(毎週金曜17時)で活躍。 私生活では一男一女の母。子どもたちが幼いころには、自分なりに工夫した絵本の読み聞かせを実践していた。 著書『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)、『一旦、退社』(大和書房)、『聴きポジのススメ』(徳間書店)など。

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe