「叱る」行為をやめられない、子どもに対してカッとなる…臨床心理士がアドバイス

「𠮟る依存に陥ってしまうのは、人格、能力、愛情の問題ではない」村中直人さんインタビュー #3

ライター:山口 真央

村中:お子さんと1日一緒に過ごす日などに試してほしいことがあります。1日のなかでいつ、どうなったときにお子さんを𠮟りそうか、リストアップしてみてください。

お昼を食べる前におもちゃの片付けができなさそうだな、とか、夕方になってやってない宿題がわかって𠮟ってしまいそう、とか。習慣から、だいたいの傾向がわかると思うんです。

リストアップできたら、お子さんに「今日こういうことが起きたら、𠮟ってしまうかもしれない。なるべく𠮟られないようにしてね」と伝えておきましょう。

それをやっておけば、同じように𠮟る状況が起きたとしても、以前とは違う状況になるはず。

同じようなことが起きる直前に、子どもに声をかけて未然に防げたり、𠮟る状況が起きても、予測による余裕で、今までほど強く𠮟責せずに済むのではないでしょうか。

このように、親である私たちが激しい怒りの感情を持って子どもを𠮟るときは、たいてい予想外の出来事を子どもがしたときです。これを防ぐためには、予測力を高めておく必要があります。

予測力を高めようとすると、自然と子どもの行動や言動を細かく観察するようになります。こんなときはこう言うだろう、こういう行動をするだろうということがわかれば、親はそれを未然に防ぐために行動できるようになります。

子育てしていて、子どもの目に余る行動に直面したとき、「この子が悪い」という気持ちになってしまうと思います。でも、子どもが𠮟られないように予測してあげることが、親の務めだと僕は考えます。

そうすれば、子どもが予想外のことを起こしても、子どもが悪いのではなく「予測してあげられなくてごめんね」という気持ちになる。子どもと言えど他者なので、完璧な予測はできないにせよ、予測してあげようとするだけで「𠮟る」ことに対する向かい方が、大きく変わってきます。

質問2「𠮟らないと、子どもが行動を抑えられないときがあります。対処法を教えてください」

村中:私は「𠮟る行為はすべてダメ」と考えている訳ではなく、「𠮟り続けることをよしとすることがダメ」と考えています。

例えばレストランで、お子さんがフォークとナイフで遊びはじめて、隣の席の人に刺さりそうになったとき。また高い所に登って、そこから飛び降りようとしているとき。お子さんが危険だとわからずに、行動を起こそうとしているときは、強めの口調で即座にその行動をやめさせなくてはいけません。

大事なのは、そのあとに親がどんな言葉をかけるか。一度𠮟って、フォークとナイフを手から離すことができたとしたら、その時点で危険は去っています。たいていの親御さんは、そのあとに「𠮟る」がスタートして、延々と子どもを問い詰めたりしますけど、それではお子さんに響きません。

お子さんが危険な状態から脱せたら、親御さんも「𠮟る」をやめ、どうしてその行為がいけなかったのかを説明することが大切です。親御さんの言葉が耳に入る状況をつくってやらなければ、お子さんは理解できず、同じことを繰り返してしまうでしょう。

質問3「どうやって𠮟らずに、子どもをしつけるのかわかりません」

村中:𠮟ってはダメということが、イコール、親御さんの望んでいること・してほしいことを伝えてはダメ、ということではありません。

ネガティブな感情をお子さんが感じるような方法をとって、無理やりコントロールしようとしてはいけませんが、お子さんがこうなってほしい、というコミュニケーションをとることは、むしろ親子の理想的な関係を築く第一歩になると考えます。

効果的な方法としては「お父さん(お母さん)はこうしてほしい」と、「私」を主語にして伝えること。子どもにとって、親は絶大な権力を持っています。勝手な思い込みや固定概念(※)から話しをすると、親の権力を行使することになってしまうのです。(※インタビュー2回目「よくわからない正義」参照)

親御さんが「私」を主語にして会話することで、「じゃああなたはどうしたい?」と、自然とお子さんの望みを聞き出し、互いの望みをすり合わせることもできます。親御さんは自分の持っている権力を理解し、そこから「降りていく」ためにはどうしたらいいかを、意識して行う必要があるのです。

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