「叱る」行為をやめられない、子どもに対してカッとなる…臨床心理士がアドバイス
「𠮟る依存に陥ってしまうのは、人格、能力、愛情の問題ではない」村中直人さんインタビュー #3
2023.02.26
ライター:山口 真央
質問4「𠮟らないと、甘えた大人に育つのではないかと不安です」
村中:「叱ることのリスク」を解説した1回目でもお話ししましたが、お子さんが新しいことにチャレンジして、試行錯誤しながら粘り強く生きていってほしいと願うのであれば、「𠮟る」行為はそれと逆の行為をしているということに気づいてほしい。なぜなら𠮟る行為は、自分で考えて、取り組む機会を奪うことにつながるからです。
𠮟られ続けて、ずっと自分で考える機会を失った人たちの最大の副作用は、自分の行動の責任を、自分以外になすりつけるようになることです。なぜなら、ずっと自分は言われたとおりにやってきただけだから。それでうまくいかなくなっても、自分で責任を取ろうとはしないですよね。
さらに𠮟られ続けた人は、挑戦して失敗する経験も奪うことになります。𠮟る行為がエスカレートすると、「何度言っても宿題やらないんだから」と、未来のことを先回りして注意するようになり、お子さんが試行錯誤して挑戦する機会を奪ってしまう。続くと、常に誰かの指示がないと動けない大人になってしまいます。
このことから、𠮟られ続けた人のほうがよっぽど「甘えた大人」に育ってしまうということがわかります。
そうならないためにも、幼いうちから安心して挑戦できる環境を、つくってあげることが大切です。成功したり、失敗したりを繰り返しながら、自分で考える力を養うことで「他者に甘えず自立した大人」に成長するのではないでしょうか。
挑戦せず、粘り強く頑張れない「甘えた大人」がいるとしたら、それは叱られてこなかったからではなく、安心して挑戦し、試行錯誤する機会を奪われてきたからではないか、と私は思います。
質問5「今まで子どもを𠮟り続けてきました。罪悪感にさいなまれています」
村中:𠮟るという行為で悩んでいる人に伝えたいのは、安易に自分から𠮟る行為を取り上げないでほしい、ということです。
𠮟るという行為に依存してしまう人には、そうせざるを得なかった背景があったと考えられます。𠮟る行為は、人間の根源的な欲求を満たす効果があります。「𠮟る行為を繰り返すこと」で現実の辛さを忘れられたり、自分の生きる意味を見出したりする人が少なからずいると思っています。
私はそういう方を悪者にして、追い詰めることが正しいとは考えません。「𠮟る」行為をしている人を、「𠮟る」なんて言語道断です。相談相手に責められたら、そういう相手とは距離を置くべきでしょう。
まずは、本記事の質問1・2・3でこたえた行動を、実践してみましょう。最初は𠮟ることを1つ予測できただけでも、十分な進歩です。自然にいつの間にか𠮟らなくなる方法を、模索していくことが大切だと考えます。
最後に
村中:私はもともと、学習支援の現場で、発達の遅いお子さんの支援をやってきました。そこで、発達の特性が少数派なお子さんに対して、「𠮟る」ことが常態化している親御さんが多いことを、目の当たりにしたんです。
しかし一方で、親御さんがお子さんのことを深く愛していて、お子さんに何が必要かを熱心に考えていることも感じていました。立派な親御さんだと感じる方も多くいらっしゃった。
「𠮟る」行為に依存してしまうことは、人格の問題でも、能力の問題でも、愛情の問題でもない。これって一体何なんだろう、と考えたのが、私が「𠮟る」を探求していこうと考えたきっかけです。
そこで出会ったのが「処罰感情の充足が、人間の報復回路を活性化させる」という論文。世界的に有名な「サイエンス」という雑誌に、10年以上前に書かれた論文なのに、この内容を知る日本人は少なかった。そこから、私の活動がはじまりました。
まだまだ「𠮟る」行為は、日本のなかで肯定されがちで、社会の風向きは簡単に変えられるものではないかもしれません。しかし、科学的に𠮟ることに意味はないと、証明されていることも事実です。今後も「𠮟る」人を𠮟らずに、依存から抜け出す方法を、多くの人に伝えていきたいと考えています。
【村中直人さんへのインタビューは全3回。1回目では、叱ることのメカニズムと叱り続けるリスクについて、2回目では、しつけや指導を「叱らず」にする方法を解説、3回目では、〈𠮟る依存〉から抜け出す具体的な実践方法を解説します】
叱らずにいられないのにはわけがある。「叱る」には依存性があり、エスカレートしていく――その理由は、脳の「報酬系回路」にあった! 児童虐待、体罰、DV、パワハラ、理不尽な校則、加熱するバッシング報道……。人は「叱りたい」欲求とどう向き合えばいいのか?
●きつく叱られた経験がないと打たれ弱くなる
●理不尽を我慢することで忍耐強くなる
●苦しまないと、人は成長しない……そう思っている人は要注意。
「叱る」には効果がないってホント?
子ども、生徒、部下など、誰かを育てる立場にいる人は必読! つい叱っては反省し、でもまた叱ってしまうと悩む、あなたへの処方箋。
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
村中 直人
1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)がある。
1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)がある。