きょうだい喧嘩も解決! 型破り校長・工藤勇一が説く“ふだん使い“の民主主義

学校改革の旗手・工藤勇一氏「今こそ子どもたちに本当の民主主義教育を」 #2~子どものトラブル解決~

横浜創英中学・高等学校長:工藤 勇一

きょうだい喧嘩でも民主主義は学べる!

きょうだい喧嘩で親が口走りがちな「お兄ちゃん(orお姉ちゃん)なんだから我慢しなさい」というフレーズ。これは子どもの問題解決能力を養う機会を奪う言葉で、親の言うとおり我慢して育つと、民主主義的に物事を考えられなくなってしまうと工藤先生は言います。

では、きょうだい喧嘩が起きたとき、親はどんな声をかけたらよいのでしょうか。工藤先生に正解を聞きました。

「例えば幼い弟と兄で喧嘩になって、お兄ちゃんが『もうあいつ勝手なんだよ』と親に言ってきたとします。弟は泣きわめいているとします。親は兄と弟それぞれにこう問いかけてください。

『本当だね。でもどうする? どうしたいの? 相手を叩きのめしたいの? それともこのあとも仲良く暮らしたい? どうする?』

そこからの仲直りは自分たちに決めてもらいます。『お兄ちゃんだから我慢しなさい』などと親が決めてしまうと子どもは不満に思います。自己決定することに意味があるんです。上位(平和)の目標のために、自分の考えをどう修正したらうまくいくのかを考える。これが民主主義教育につながっています」(工藤先生)

ささいなトラブルは「放っておくべし」

しかし、家の外に出ると「合意形成」が難しいケースもあります。子ども同士だけでなく、相手の保護者が同席している場合などはとくにです。筆者がママ仲間に聞いたエピソードをもとに、工藤先生にその答えを聞いてみました。

〈エピソード例〉
子育て広場で娘(3歳)が見知らぬ年下の子どもとおもちゃの取り合いに。娘はそのおもちゃで遊び始めたばかりで、本来なら譲る必要はないシチュエーションだった。でも、そばにいる相手の親の顔色を気にして「○○はお姉ちゃんだから譲ってあげようね」と娘に伝え、おもちゃを譲らせた。理不尽だとは思ったけれど、どうすれば正解だったのかわからない。

工藤先生が教える民主主義的に考えると、こうしたトラブルは本来、「こう育ってほしい」という親同士の最上位の目標から、おもちゃで遊ぶ時間や順番をどうするか話し合う「合意形成」が必要です。

しかし、子どものころから民主主義教育を受けて育っていない今の親世代は、そういう解決方法をとる人はあまりいません。そのため、「とりあえず譲らせる」というその場を取りつくろう対応をしてしまいがちです。
こんなとき、親としてどう対応したらよいのでしょうか。

「一番の解決方法は放っておくことです。相手の親は嫌がるかもしれませんが、放っておいて、トラブルになって、おもちゃを取られたとします。取られたら取られたままでいいんです。取られたと泣いて、助けを求めてくると思います。でも大人は見守るだけで、あまり助けてあげないことです。

傷ついたり泣いたりする瞬間がすごく大事で。自尊心に気がついているから泣くわけです。親はよしよしと抱きしめることだけしてあげて、(取り返しにいくなどの)必要以上の介入はしないことです。

放っておくと、次の機会には自分で取りに行く行動につながります。今度は相手が泣くかもしれません。取り返しに来るかもしれません。その試行錯誤や体験がすごく大事なんです」(工藤先生)

夫婦喧嘩にも民主主義!?

日頃から家庭で民主主義教育を意識していると、夫婦関係にもいい循環が生まれてくると工藤先生は続けます。

「夫婦の問題も全部同じなんですね。楽しい生活を送ろうと思って夫婦になったわけだから、『お互いに幸せでいたいよね』という合意ができていればいいんです。

価値観が違ったとしても、最上位目標の『楽しい』『幸せ』で合意ができていればいい。そのためにお互いにどんな生活を送ればいいか話し合いができるといいですね。感情をコントロールして、考えを修正すると妥協点をいっぱい見つけることができます」(工藤先生)

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子ども同士のおもちゃの取り合いから夫婦喧嘩まで、平和に暮らすためのヒントが民主主義教育には詰まっています。次回は工藤先生が「民主主義と深く関わりがある」といういじめ問題についてお届けします。

取材・文/大楽眞衣子

2022年10月に『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』(苫野一徳氏との共著/あさま社)を上梓。哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で教育の本質を徹底議論。発売後即重版に。
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くどう ゆういち

工藤 勇一

横浜創英中学・高等学校長

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど話題になる。 初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部超えのベストセラーに。著書に『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(以上SBクリエイティブ)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)など。2022年10月には哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』を上梓。

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど話題になる。 初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部超えのベストセラーに。著書に『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(以上SBクリエイティブ)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)など。2022年10月には哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』を上梓。

だいらく まいこ

大楽 眞衣子

社会派子育てライター

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」