虫ってすごい!東大・神崎教授が解説「人間が昆虫から学べる能力」

『香川照之プロデュース インセクトランドこん虫まなぶっく』監修 生物学者・神崎亮平先生#1

木下 千寿

『香川照之プロデュース インセクトランド こん虫 まなぶっく』の監修を担当した、神崎亮平先生(東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻および東京大学先端科学技術研究センター教授)は、あらゆる環境下で生息する昆虫に着目し、その行動を引き起こす脳を研究。

昆虫の優れた能力をヒントに人や生物、そして地球環境に優しい新たな科学と技術を創出し、地球の将来を考えたモノづくりの在り方を考え続けています。

大人になると敬遠してしまいがちな昆虫ですが、神崎先生によれば「彼らは実にすごい能力をもっている!」とのこと。その実態について、詳しくお話を聞きました。

神崎亮平先生(東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻および東京大学先端科学技術研究センター教授)
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100万種以上の昆虫が地球で共存しているすごさ

いきなり「昆虫がすごい!」と言われても、ピンとこない人は多いはず。虫たちはどういった点で“すごい”のか、神崎先生に素朴な疑問をぶつけてみました。

「まず昆虫には、とてもたくさんの種類がいるということをご存じでしょうか。地球上に存在する種は総数180万と言われていて、そのうち100万種以上が昆虫なんです! ちなみにヒトは、ホモ・サピエンス1種だけ。そう考えると、これほどたくさん数の昆虫たちが地球上で共存しているという状況が、まずすごいと私は思います」

虫たちは、人間よりずっと体も小さく、脳も小さい生物です。そんな彼らに、いったいどのようなすごい能力が備わっているのでしょうか?

虫たちが持っている特殊なセンサー

「たとえば春、モンシロチョウ2匹が5㎝もない至近距離をキープしながら飛び回っているのを目にしたことがあるのでは? よく見る光景ですが、あれだけ近い距離にいながらぶつかることなく飛び続けられるというのは、“すごい能力”です。

また『ファーブル昆虫記』で知られるファーブルは、蛾のメスが出すにおいを感知して、オスが数キロ離れた地から飛んでくるということを発見しました。そのにおいこそ“フェロモン”。フェロモンという物質が最初に見つかったのは、昆虫からなんです。

人間は数メートル先にいる恋人に目視で気づくのがせいぜいで、数キロ離れているところから居場所を探し当てることはできないし、真っ暗闇の中で見つけることはかなり難しいでしょう(笑)。でも、蛾にはそれができてしまうわけです。

また私たちにはRGB(レッド、グリーン・ブルー)の3色の光に反応する細胞があり、それらの色が織り成す世界を見ていますが、蝶たちにはRGB以外の色も感受する力があるので、私たち人間よりもずっと色鮮やかな世界を見ているのです」

人には備わっていない特殊なセンサーを、虫たちが持っているという例は本当にたくさんある、と神崎先生は微笑みながら続けました。

昆虫たちは、人間には想像もつかないような世界を知っている(写真:アフロ)

「人間は自分が見ている世界、聞こえている音、感じているにおいなどが世界のすべてだと思いがちですが、それはこの地球という世界のほんの一部でしかありません。

昆虫たちには私たちには感じ取れない光、聞き取れない音、見えない世界が見えています。昆虫たちは、人間には想像もつかないような世界を知っているのです」

自分たちにも自然にも優しい問題解決の仕方

では、人間が昆虫から学べることとは何なのか。神崎先生は「僕が注目しているのは、彼らの問題解決の仕方です」と言葉に力を込めました。

「人間はこれまで問題にぶつかると、頭脳で考え、力を使っていろいろなものを作り、解決してきました。暑い、寒いの問題を解決するためにエアコンを開発し、環境を二の次にして二酸化炭素を大量に排出するなど……。

しかしこのところ、人間の都合を優先した“作り出す”だけの問題解決法は、行き詰まりを迎えています。昆虫や動物たちは人間のように考える能力は高くありませんが、トライ&エラーを繰り返して学び、少しずつ進化して生き残ってきました。

環境との関係の中で『こうやれば適応できる』というやり方を本能的に学び取り、お互いに無理のないかたちで問題解決しているのです。

彼らのこうした問題解決の仕方は、自然に負担をかけない、優しいやり方。僕は自然の中で彼らが築いてきた、そういう良い問題解決の方法で、人間がまだ解決できていない問題を解決できるような仕組みを作っていきたいと、研究をしています。

モンシロチョウが近くで飛び回ってもぶつからないという能力は車の衝突回避に役立てられるのではないか、蛾が数キロ離れた特殊なにおい(フェロモン)を感知できる能力は、災害時に生き埋めになった人を探索することに生かせるのではないか、と」

疑問をもてば、発見がある

昆虫たちに見えている世界や彼らの能力を思うと、昆虫たちへの見方が大きく変わってくるはずです、と神崎先生。

「昆虫が目に映ったときに『あの虫は、どんな能力をもっているんだろう?』と興味が湧いてくるはずです。子どもたちだけでなく、親世代の方々にもぜひ、この視点を持ってもらいたい。

疑問をもてば、発見があります。自分の目で見て、何かを発見して考える力こそ、今のデジタル時代にいちばん欠けているものだと思うのです。

今度、公園に子どもを連れて行った際や散歩に昆虫を見かけたら、いっしょに少し近寄ってしばらく見つめてみてはどうでしょうか? これまで気づけなかった発見があるかもしれませんよ!」

【神崎亮平先生PROFILE】


1957年、和歌山県生まれ。1986年、筑波大学大学院生物科学研究科博士課程を修了。1991年、筑波大学生物科学系助手、講師、助教授を経て、2003年、筑波大学生物科学系教授。2004年、東京大学大学院情報理工学系研究科教授、2006年より、東京大学先端科学技術研究センター教授。生物の環境適応脳(生命知能)の神経科学に関する研究に従事。

神崎亮平先生インタビュー

#1:昆虫ってすごい!東大・神崎教授に聞く「人間が昆虫から学べること」←今回はココ

#2:子どもの虫嫌いは親の虫嫌いから⁉昆虫との触れ合いで表れる変化とは
(2021年11月15日公開予定)

https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/education/pq9wR

#3:昆虫は命を知る最後の砦…これからの社会を生き抜くうえで必要なこと
(2021年11月19日公開予定)

https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/education/bSuR6

関連書籍

『香川照之プロデュース インセクトランド こん虫 まなぶっく』
香川照之:著 神崎亮平:監修
昆虫の特性や生態にもとづいた問題と、くわしい解説で、ドリルを解きながら「昆虫博士」になれる1冊。
インセクトランドのキャラクターと一緒に、遊びながら、昆虫に学ぼう!
進化の過程で身につけたさまざまな機能や記憶で、厳しい環境に適応し、生き延びてきた昆虫の能力。
反応力、観察力、記憶力、そして認識力→判断力→洞察力という6つの力を学び「未知の」問題にも対応できるようになろう!

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きのした ちず

木下 千寿

ライター

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。