「いじめの後遺症」に苦しむ子どもたち 「親だからすべきこと」を専門家が解説

東京学芸大学名誉教授・小林正幸先生に聞く「いじめの後に訪れる症状」について #3 親だからこそ感情を受け容れることとカウンセリング

東京学芸大学名誉教授:小林 正幸

子どもがいじめにあったとき、親がすべきこととは?  写真:アフロ

東京学芸大学名誉教授・小林正幸先生に聞く、いじめの後に訪れるさまざまな症状について。

最終回となる3回目では、いじめや後遺症に苦しんでいる子どもに対して、親ができることはなにかを考えます。

小林先生は、「いじめにあっていたとしても、親が子ども以上に泣いたり、怒ったりしてはいけない」と言います。それはなぜなのか、詳しく解説していただきます。

(全3回の3回目。1回目を読む。2回目を読む

小林正幸(こばやし・まさゆき)
東京学芸大学名誉教授、NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター『学舎ブレイブ』を運営。教育臨床心理学を専門とし、教育相談の面接は35年以上。公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士のスーパービジョン。

親は子どもが感情を言葉にするのを手伝う

──いじめによって、子どもが傷ついたり、弱ったりしているとき、親としてどんな言葉をかけ、どのように接したら良いかを教えてください。

小林正幸先生(以下、小林先生):自分の子ども、特に初めての子どもならなおさら、いじめられたり、そのことによって心が傷ついて動けなくなったりしている姿を見て、右往左往してしまうのは、親として当然なことだと思います。

しかし、子どものそばにいる親だからこそ「できること」、そして「してほしいこと」があります。

それは、「親の気持ちを言葉にして伝える」ということです。「あなたは大丈夫」だったり、「お母さんは小さいときから、ずっとあなたのことが大好きだよ」など、思っている気持ちを直接伝えてあげてください。

もうひとつは、「子どもが自分の感情を言葉で表現するのを手伝う」ことです。

「嫌だ」「怖い」「寂しい」など、子どもの怒りや不安、不快な気持ちをそのまま受け止め、言葉にする手助けをしてあげてください。

「嫌だ」と言ったら「なぜ?」ではなく、「怖い」と言ったら「怖くないでしょう」ではなく、ただ「嫌なのね」「怖いのね」と、感情をそのまま受け容れるのです。

なぜなら、これらの感情の後には、常に「強い願い」が隠れているからです。そして、それは子どもの「より良く生きたい」という感情の表れでもあります。

「親だからできることは、親にしかできないことでもあります」(小林先生)。

子ども以上に泣いたり怒ったりしないこと

──子どもには、つい「泣いちゃいけない」とか「怒っちゃいけない」などと言ってしまいます。

小林先生:親御さんの気持ちはよくわかりますが、そう言われていると、子どもはつらい目に遭ったときに、泣いたり怒ったりできないばかりか、助けを求めることもできなくなってしまいます。

そして、怒りや不安・不快な気持ちを、外に出すことなく自分のうちに押し込めるようになり、ますます心が不調になっていくのです。

繰り返しになりますが、怒りや不安、不快な感情は、自分のうちにある強い願いの表れです。それを、いつ、誰に、どんなふうに伝えればいいかを学ぶのも、大人になるために必要なことなのです。

そしてその手助けをすることこそ、親として大切な役割なんですね。

「怒りや不安、不快な感情をどんどん表に出してくれるとおかあさんはうれしい」。いつもそんなふうに言える親でありたいものですね。

──頭では理解できても、なかなか難しそうです……。

小林先生:その気持ちはよくわかります。もちろん、子どもと一緒に泣いても怒ってもかまいません。でも、心の内側に、何があってもびくともしない強さをもって、どっしりと構えている親であってほしいと思います。

そして、決して子ども以上に怒ったり、不安になったりしないでください。子どもは、悲しいから泣いているんです。心の中で「苦しいんだからなんとかして」と叫んでいるんですよ。

みなさんもご存じの沢庵和尚は、「心こそ 心迷わす心なれ 心に心 心許すな」と言っています。

「心というものはまた心に惑わされ、あっちに行ったり、こっちに行ったりするものだ。もし惑わされたときには元の位置に一生懸命戻しなさい」

まさに親のあるべき姿を表す言葉だと思います。

小林先生は、終始穏やかな口調でお話しされていました。

専門家の力を借りる

──もし、親だけでは対応が難しい場合、どこに相談すればよいのでしょうか。

小林先生:最近は、どの学校にも子どもや保護者の相談にのったり、先生方に適切な助言を与えてくれたりするスクールカウンセラーが配置されています。昔より相談する環境も整っていますし、そのハードルも低くなっていると感じています。

また、誰かに助けを求めること自体、「とても健康的だ」ということを理解していると、子どもも親御さんも、早めに助けを求めにいけますよね。

いじめの後遺症や、いじめ以外でも心が傷ついてお子さんが不登校になっている場合、カウンセラーに話すことで、その原因のつらさを取り除いたり、弱めたりすることができるはずです。

しかし、カウンセリングを受ける、相談するということは、子ども自身、つらかったときの話をしなくてはなりませんから、決して楽な行為ではありません。要は子ども自身が勇気をもってそれを乗り越えていけるかが大切なのです。

──今、いじめやその後遺症に苦しんでいる子ども、そして保護者の方にアドバイスをお願いします。

小林先生:いじめやその後遺症に悩んでいる人たちにとって、いじめられたことは確かに不幸なことかもしれません。

しかし、カウンセリングを受け、いじめられたことをどう意味づけるのか、そのあと生きていくのに役立つようにどうやって転換していくのか。それがとても大切なのです。

治療する、カウンセリングを受けるというのは、その人自身が自分の人生を振り返って、「この生き方でOKなんだ」と思い直すことなのだととらえて、受けていただければと思います。

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小林先生のお話に、筆者が以前学んだ「I’m OK.You are OK」という、自己も肯定し、他者も肯定する、アサーティブ・コミュニケーションが重なりました。

いじめの後遺症に悩んでいたり、学校へ行けなかったりする子どもをそのまま受け止めるためには、親自身が心のありようを、まず受け止めることが必要なのかもしれません。

今、悩んでいる親御さん、子どもたちがカウンセリングで少しでも原因であるつらさを取り除くことができますように。

撮影/冨貴塚悠太
取材・文/米谷美恵

小林先生の記事は全3回。
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こばやし まさゆき

小林 正幸

Kobayashi Masayuki
東京学芸大学名誉教授

東京学芸大学名誉教授、NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター『学舎ブレイブ』を運営。教育臨床心理学を専門...