障がいのある兄弟姉妹を持つ【きょうだい児】 きょうだい児の弁護士が寂しさや苦しさを明かした

弁護士・藤木和子先生が教える“きょうだい児”の見守り方 #1 きょうだい児の悩み

弁護士:藤木 和子

親は平等に育てているつもりでも、「障がいのある兄弟姉妹ときょうだい児では、きょうだい格差が生まれやすい」と、きょうだい児当事者の藤木和子先生は言います。  イメージ写真:アフロ

“きょうだい児”という言葉を知っていますか。

きょうだい児とは、障がいや重い病気など特別なケアが必要な兄弟姉妹がいる子どものこと。ひらがなで“きょうだい”と表現されることもあります。近年、メディアでも取り上げる機会が多くなりましたが、まだ十分に周知されていないのが現状です。

きょうだい児には「親が障がいのある兄弟姉妹の世話に追われて寂しい」など、障がい児本人とも親ともまた違った、周囲には見えづらい悩みや不安があるといいます。

障がい児ときょうだい児、どちらも幸せになるには、まず親や周りの大人たちが、きょうだい児の感じている思いを正しく理解することが必要なのかもしれません。

きょうだい児の当事者で、2024年3月、法律の視点からきょうだい児の疑問に回答した国内初の本『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』を刊行した弁護士の藤木和子(ふじき・かずこ)先生に、きょうだい児の現状やきょうだい児が抱える悩み・不安について伺います。

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藤木 和子(ふじき・かずこ)PROFILE
弁護士、手話通訳士。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児当事者の弁護士として活動し、さまざまな情報発信や相談を行っている。2024年3月、きょうだい児の疑問に法律の視点で回答した書籍『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)を上梓。

きょうだい児としての自身の経験を交えながら、取材に応じてくれた藤木和子先生。弁護士としては家族関係が専門で、優生保護法弁護団にも関わっています。  Zoom取材より

きょうだい児の困難は理解されにくい

障がいや重い病気のある子どもの“きょうだい児”。日本にはどれくらいのきょうだい児がいるのか、正確な数字は把握されていませんが、「令和5年版障害者白書」(※1)によると、日本にいる障がい者の総数は約1160万人。その人たちに兄弟姉妹がいることを考えれば、日本には多くのきょうだい児がいると想像できます。

ケアが必要な兄弟姉妹と一緒に育つきょうだい児は「障がいに理解がある」「やさしい」などのイメージを持たれがちですが、実際は幼いうちから特有の悩みや不安を抱えているものの、周囲に理解されていないケースが少なくないといいます。

5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害が発覚し、きょうだい児として育った弁護士の藤木和子先生はきょうだい児の現状をどう考えるのでしょうか。

──今まできょうだい児の存在が広く周知されず、悩みや不安が理解されにくかったのは、どのような背景があるのでしょうか。

藤木和子先生(以下、藤木先生) 私も運営に関わっているきょうだい児を支援する団体「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(略称:全国きょうだいの会)」は、60年以上前からあるのですが、もともとは“障がいのある兄弟姉妹について考える”会という要素が強かったようです。

きょうだい児を当事者として考え、きょうだい児が集まり語れる場を作ろうと動きがあったのは1990年代後半以降のこと。私自身がきょうだい児という言葉を初めて知ったのも、大学生だった2005年のときでした。

たまたま読んだ新聞記事で“きょうだい会(きょうだい児当事者が集まり、悩みや近況などを語らう会)”の存在を知るまで、当事者でありながらきょうだい児という概念があることさえ知らなかったのです。

近年、きょうだい児について取り上げるメディアが増えてきたのは、2020年ころからヤングケアラーが注目され始めたことも大きいと思います。

当初、ヤングケアラーは、親や祖父母のケアをしている18歳未満の子どもたちと考えられていましたが、2020年の厚生労働省による全国調査以降、各地の自治体で調査が行われ、「自分はヤングケアラーだ」と回答した小中学生の6~7割は兄弟姉妹のケアをしていることが明らかになりました。

この中には障がいや病気の有無とは関係なく、年下の兄弟姉妹の世話を担っている子もいますが、ヤングケアラーを取り巻く環境はきょうだい児と近しく、だんだんときょうだい児にもフォーカスが当たるようになったのだと思います。

「ケア」には、兄弟姉妹への直接的な世話だけではなく、親へのサポートや精神的なケア、期待に応えようとするプレッシャーの負担なども含まれます。

ただ、きょうだい児が年下の兄弟姉妹の世話をするヤングケアラーと違うところは、大人になってからも「障がいのある兄弟姉妹を自分がケアするべきか」等々の悩みや不安を持ち続ける可能性があること。

きょうだい児への支援はまだ始まったばかりで、まずはどんな思いを抱えているのか、きょうだい児の悩みや不安を広く知ってもらうことが必要です。

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