障がいのある兄弟姉妹を持つ【きょうだい児】 きょうだい児の弁護士が寂しさや苦しさを明かした

弁護士・藤木和子先生が教える“きょうだい児”の見守り方 #1 きょうだい児の悩み

弁護士:藤木 和子

必要なのは理解し一緒に考えてくれる人

──藤木先生もきょうだい児の立場ですが、幼少期はどんな思いを抱えていましたか。

藤木先生 5歳のときに弟の聴覚障害がわかり、きょうだい児になりました。振り返ると、周囲から「弟の分も“聞こえるお姉ちゃん”ががんばって」「弁護士のお父さんの跡を継ぐのよね」「実家に残るんでしょう」「将来は、弟のことをよろしく」などと悪気なく言われ、子どものころから強いプレッシャーを感じていたように思います。

弟と一緒にいると、ジロジロ見られたりヒソヒソ話をされたり、からかわれたりと、傷つくこともたくさんありました。障がいのある弟も親も、誰も悪くありません。弟とはケンカもするけれど大切な存在でしたし、親が大変なのは見ていればわかります。

だからこそ、私は家族に対して、あらゆる場面で「NO」とは言えませんでした。誰かに相談することもできず、「私の悩みを理解し、一緒に考えてくれる人がほしい」と常に思っていましたね。

その後、父の「弁護士になってほしい」という期待もあって東大法学部に進み、27歳で弁護士になりました。都内の大手弁護士事務所から内定をもらったものの、東京に出て就職するのか、地元に残って父の事務所で働くのか、とても悩みました。

私が「地元に残りたい」「父と働きたい」という気持ちさえ持てれば、全員めでたしめでたしなのに、悩んでいる私はなんて悪いヤツなんだと。

さらに結婚するのか、交際相手に弟の障がいのことをどう伝えるのかなど、子どものころから抱えていたモヤモヤが具体的な悩みとなって現れたとき、駆け込んだのが、きょうだい児の自助グループ・きょうだい会です。なんでもいいからヒントがほしい──。そんな思いでした。

きょうだい会で、私は初めて悩みを打ち明けることができました。きょうだい会の人とは境遇や経験、考え方がどうであれ不思議と話が通じるのです。

自分を外に出せたこと、同じ悩みを持つきょうだい児が大勢いることを知り、気持ちがラクになりましたね。ここで出会った友人や先輩とのつながりは、今でも私の大きな心の支えになっています。

全国に少しずつ広まっている大人のきょうだい会に比べると、子どものきょうだい会はまだ少ないですが、中にはきょうだい児が集まって遊ぶイベント、きょうだい児が主役のイベントを開催している支援団体もあります。

きょうだい児のグループ活動を通じて、きょうだい児が「自分ひとりではない」とわかれば孤立感がやわらぎますし、身近な友達には話せなくても同じきょうだい児になら話せることもあるはずです。機会があれば、親御さんにはきょうだい会への参加をぜひ検討していただきたいですね。

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第2回は、親がきょうだいにやってはいけないこと・言ってはいけないことを伺います。


取材・文/星野早百合

きょうだい児の疑問や不安について、法律の視点から回答した国内初の本『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)。弁護士できょうだい児当事者の藤木先生がわかりやすく解説。迷うきょうだい児の気持ちに寄り添い、決断の背中を押してくれる一冊です。

編集部おすすめ! きょうだい児の実録コミックエッセイ

複数の障害をもつ弟。カルト宗教にハマってDVを繰り返すほぼ失業者の父。家出と薬物の過剰摂取を繰り返す母。凄絶すぎる家庭環境で著者は、どう自分を守ってきたのか。40年の実体験をつづった『きょうだい児 ドタバタ サバイバル戦記 カルト宗教にハマった毒親と障害を持つ弟に翻弄された私の40年にわたる闘いの記録』(著:平岡葵)

【参考】
※1 令和5年版 障害者白書(全体版)

※2 NPO法人しぶたね

22 件
ふじき かずこ

藤木 和子

Kazuko Fujiki
弁護士

手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児の立場の弁護士として活動し、情報の発信や相談を行う。 「聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会」で代表を務めるほか、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」などの運営に関わる。 また、ヤングケアラー経験者としても、政府や自治体、学校、団体などのヤングケアラー支援に注力している。 著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波書店)。 ●note 藤木和子 ●聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会WEBサイト  ●全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)  ●シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト 

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手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児の立場の弁護士として活動し、情報の発信や相談を行う。 「聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会」で代表を務めるほか、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」などの運営に関わる。 また、ヤングケアラー経験者としても、政府や自治体、学校、団体などのヤングケアラー支援に注力している。 著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波書店)。 ●note 藤木和子 ●聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会WEBサイト  ●全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)  ●シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト 

ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。