子育てを助ける「親性脳」とは 「育児の適性に男女差がない」理由が最新科学で分かった!

母性神話は噓? 京都大学大学院・明和政子教授に聞く「今だからこそ必要な“パパ育児”」 #2

京都大学大学院教育学研究科教授:明和 政子

触れ合いが、親の脳も子どもの脳も発達させる

では、実際にパパが育児をするとき、どのような点に気をつければいいのでしょうか。親性脳の発達と子どもの脳発達の両方を踏まえ、大切なポイントを紹介します。

「まずは、前頭前野の活動を意識しながら育児をしてみてください。そのためには、『自分がどうしたいか』ではなく、『この子は何をしてほしいのかな?』『何を求めているのかな?』と、想像力を働かせ、相手の立場にたって考えることが必要です。

次に大事なのは、触れ合いの経験です。生後早期の赤ちゃんの脳発達において、身体接触がいかに大事かを示した研究があります。

生後7ヵ月の赤ちゃんに脳の活動を見える化するための帽子(脳波計測キャップ)をかぶってもらい、他者から触れられる経験が学習効果をもたらすかを調べた研究があります。赤ちゃんは、次の2つの条件を経験しました。

1.誰かから優しいタッチで触れられながら、新奇な言葉をかけられる
2.誰にも触れられない状態で、新奇な言葉をかけられる

赤ちゃんが聞いたことのある言葉だと、経験による影響が脳活動に反映される可能性があります。そこで、この実験では、『ペケペケ』『トピトピ』など赤ちゃんがこれまで聞いたことがないはずの新奇な言葉が用いられています。

結果は明白でした。赤ちゃんの脳は触れられながら聞いた言葉に対して、より大きな脳活動を示したのです。

過剰に触れるなど、特別なことはしなくても大丈夫です。目を見て、話しかけて、親子双方が気持ち良いと感じるような触れ合いをなさってください。そうした経験を日常的に積み重ねていくことで、赤ちゃんの脳は健やかに育っていきます」(明和先生)

脳の発達のみならず、触れ合いは子どもの心身を安定させることにもつながります。  写真:アフロ

親性脳の発達においても子どもと触れ合うことが重要、と明和先生は指摘します。

「親性脳も、子どもと触れ合う体験を積み重ねていかないと育ちません。触れ合うことで、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌が高まります。

オキシトシンの分泌が促進されることで、育児に積極的に関わろうとする意欲や、子どもへの愛情が高まることが知られています」(明和先生)

オムツ替えや哺乳瓶での授乳、抱っこしながらの絵本の読み聞かせなど、ママでなくてもできる育児はいくつもあります。触れ合いをともなう育児に積極的に関わることで、パパの親性脳は発達していくはずです。

子育ては親育て。子どもと一緒に成長を

パパが育児に参与することは、ママにも子どもにも、さらにはパパ自身にも良い影響をもたらします。子育ては、子どものためだけではなく、自分自身の脳と心を成長させる経験としてとらえるべきである、と明和先生。

「子育ては、親育てでもあります。子育てをすれば親性脳が発達し、状況に応じて柔軟に行動する力が身につきます。とくに現代社会では、初めて触れ合う子どもが自分の子である場合がほとんどです。子どもを育てるための育児ではなく、育児を通した親育ても重要な社会課題となっています。

育児経験は、育児する側の脳と心に大きな変容をもたらします。育休制度などを積極的に活用し、親性脳を集中的に育むため、そして自己成長を遂げるための絶好の機会としてほしいです」(明和先生)

子育て・親育ては、社会を変える重要な一歩にもなる、と明和先生。それは、自分とは違う存在に対して思いを馳せる経験を積む人が増えることで、多様性への理解の深まりが期待できるからです。

「パパもママも、いろいろな人の手を借りて、たくさん育児を助けてもらってください。NPO法人や自治体が運営する育児支援サービス、子育て広場など、困っているパパ・ママを支援してくれる場所があります。

育児を通して、子どもだけでなくご自身の成長を実感しながら、自分自身をもっと好きになっていただきたいです」(明和先生)

第3回では、パパ育児に関する悩みについて先生に回答していただきます。

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明和 政子(みょうわ まさこ)
京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、京都大学大学院教育学研究科准教授を経て、現在同教授。日本学術会議会員。「比較認知発達科学」という学問分野を切り拓き、生物としてのヒトの脳と心の発達の原理を明らかにしようとしている。主な著書に、『ヒトの発達の謎を解く─胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)『マスク社会が危ない 子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?』(宝島社)など多数。


取材・文/阿部雅美

『今だからこそ必要な“パパ育児”』の連載は、全3回。
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みょうわ まさこ

明和 政子

京都大学大学院教育学研究科教授

京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。 主な著書に『ヒトの発達の謎を解く──胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。

京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。 主な著書に『ヒトの発達の謎を解く──胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。