子どもの脳を育てる6つのコツ 小児脳科学者による育児法「ペアレンティング・トレーニング」のポイント
6つのコツで子どもがみるみる変わる! ペアレンティング・トレーニング#2
2022.12.11
ペアレンティング・トレーニングのポイント教えます!
ペアレンティング・トレーニングには全部で6つのポイントがあります。残り4つの重要項目とは、どんなものなのでしょうか。
③ 親子がお互いを尊重して、協力しあう生活を行う
お手伝いを子どもにさせている家庭は多いものですが、ペアレンティング・トレーニングでは「お手伝い」ではなく、「生活に必要な仕事の役割」として捉えます。つまり、子どもも家庭生活を営む構成員と考え、子どもも主体的に暮らしを回していく一人だと認識して生活します。
例えばペットを飼っていたなら、ペットにご飯をあげるという役割を子どもに与えます。最初は決まった時間にエサをあげられなかったり、あと片付けができなかったりして子どもは完璧に仕事ができないことがあるでしょう。
ここで親が仕事のできる部分とできない部分を見極めて、できない部分のやり方やヒントを提示することで、子どもはやがて自分で考えて行動するようになります。
途中、失敗もしますが、むしろ失敗を繰り返すことで思考を重ね、正しい理論を獲得していきます。それが脳を育てることにつながります。
さらに大事なのは、「自分が家庭にとって必要不可欠な構成員であること」を自覚させて、子どもの自己肯定感を育むことです。自己肯定感が高まると、例えば学校などでうまくいかないことがあったとしても、家に帰れば「必要とされる人間である」と思えることで子どもの心は落ち着いていきます。
④ 怒りやストレスに対する、適切な対処法を共有する
親のストレスの表現は子どもに影響します。従って親は自分にネガティブなことが起こった場合、まずはそれを自覚してストレスを上手にコントロールし、自分の言動をできるだけポジティブなものに転換することが大切です。
言動を前向きにするには、脳の中に「楽しい考え(認知)」を増やすこと=自分がリラックスできると思えるストレス解消法を多めに持っておくといいでしょう。音楽を聴いたり、ドライブに行ったり、友達と話すのでも構いません。
そして親はどういったときにストレスを感じ、どんな方法でネガティブなことを乗り越えることができたか、自分でいいと感じたリラクゼーション法を子どもに伝えて、子ども自身がストレスに対処できる脳になるように促します。
ストレスというと悪いものと考えがちですが、脳育てにおいて自分のストレスを理解してコントロール(対処)していくことは、前頭葉を育てて問題解決力を高めます。
⑤ 親子が楽しめるポジティブな家庭の雰囲気を作る
子育て支援をしていると不登校や家庭内暴力など、親子ともに苦しい状況にある家族に出会います。ですが、そういった家庭でも、親の笑顔が増えると子どもの状態が改善するという経験を何度もしてきました。
従ってペアレンティング・トレーニングのポイントの5つめは、親が笑顔で過ごしてポジティブな雰囲気を心がけることです。前向きな反応は好循環を生んで、いつしか家庭全体が円満になっていきます。
鏡の前で笑顔の練習をしたり、ネガティブな物事には「おかげさまで」の言葉を頭につけてみるといいでしょう。例えば、「あのとき○○を失敗したおかげで、今の自分がある」という具合です。
親が失敗談を話してポジティブな雰囲気につなげてもいいでしょう。子どもが「学校に行きたくない」といったなら、「ママ/パパも、学校なんてなくなればいいと思ったことがあったな~。テストが嫌で行きたくなかったんだよね」なんて、自分の経験を話してあげるのも手です。
そのときばかりは親ではなく、年上の友達のような立ち位置で子どもに接すると、子どもの心も表情もほぐれていくでしょう。
⑥ 親がブレない軸を持つ
最後のポイントはペアレンティング・トレーニングの中で最も重要、かつ難しい項目です。ペアレンティング・トレーニングの①~⑤を理解できたら、これらを生活の中で守りつつブレない軸を設定します。
軸は、親が「これだけは子育てをするうえで絶対に譲れない」というポイントです。
信念ですから、これに違反すると親は絶対に許さない、全力で叱ることになります。子どもの勉強など親子ともに個人的な行動は軸にはなりませんし、その数は2~3本にとどめることが大切です。これは、たくさん軸を立てると食い違いが生じるからです。
例えば成田家では以下の軸を設定し、子どもが大きくなるまでずっとこれらを守って生活していました。
■夜8時に子どもは寝る!
■自分より弱い者が優先となる
■死なない! 死なせない!
軸は「鉄の掟」なので、一度決めたら変えられません。成田家では、ペアレンティング・トレーニングのポイント①(生活習慣を確立する)に通じる「夜8時に子どもは寝る!」という軸を設定したので、子どもが宿題をせずに漫画を読んでいたとしても、8時にスパっと終わって寝れば絶対に叱りませんでした。逆に「宿題が……」といって9時まで起きていたときは全力で叱りました。
「自分より弱い者が優先となる」という軸に関しても成田家では死守され、例えば飼い犬のごはんより先に、子どもが自分の食事を優先させることは許されませんでした。また、放課後に宿題をしなくても、犬の散歩やエサやりをしていた場合は、その行動を喜んであげました。
「死なない! 死なせない!」に関しても、同様の対応です。歩道に飛び出したり、他人が踏んでケガをするようなおもちゃを出しっぱなしにしたときは叱りました。
このように軸を主体にして生活を明確にすると、学習や子ども自身の遊びは親の干渉する項目から外れます。学校という観点からみるとそれほど「いい子」には映らないかもしれませんが、家族から信頼される子どもは「こころの脳」が育っていきます。
それはいつしか「自分で自分を奮い立たせる頑張る力」になり、このときに親の手を離れ「自立」ができるようになるのです。自分の将来の目標を見つけたときに全力でエネルギーを発揮して、勉強やスポーツなどに頑張る人間はこうやって育てることが大事なのです。
軸は各家庭に合った、かつ続けていけることが基準です。トレーニングのポイントとこれを踏まえて親がブレずに生活していくことで、子どもも芯のある生活ができます。それはしっかりとした「からだの脳」作りとなり、「おりこうさんの脳」と「こころの脳」も育みます。
次回はペアレンティング・トレーニングの事例を紹介し、トレーニングのイメージを高めていきます。
─◆─◆─◆─◆─◆─◆
成田 奈緒子
小児科医。医学博士。小児脳科学者。公認心理師。文教大学教育学部教授。子育て科学アクシス代表。大学にて小児保健学などを学生に教える傍ら、小児科医と小児脳科学者の観点から「ペアレンティング・トレーニング」という独自の子育て支援メソッドを確立。その理論を育児に役立ててもらう場として〈子育て科学アクシス〉を立ち上げ、ワークショップや個別相談などを行いながら親子をサポートしている。
【主な著書や監修書】
『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(合同出版)
『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(講談社+α新書)など
取材・文/梶原知恵
梶原 知恵
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
成田 奈緒子
小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス
小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス