子育ての行き詰まりを救う「ペアレンティング・トレーニング」を小児脳科学者が薦める理由

子どもが育ち、子育て力も伸びる! ペアレンティング・トレーニング#1

子育てには山と谷がつきものですが、育児に自信をなくしたことがきっかけで谷から抜け出せなくなるときがあります。写真:アフロ

「人生は山あり谷あり」と表現されることがありますが、それは子育ても同じ。日々の生活の中で子どものことで笑ったり、あるいは苦しさを覚えたりするものの、これらが交互にやってくるから育児は楽しい!と思えている方は多いでしょう。

しかしその一方で、子どものちょっとした問題行動や親子関係のつまずきから、自分の子育てに自信が持てなくなって、谷の状態から親子ともども抜け出せなくなることがあります。

小児科医であり、小児脳科学者の成田奈緒子先生は、自分の子育て法を見失い、自信をなくしたパパママとその子ども向けに独自のメソッドで子育て支援を行っている専門家です。脳科学からアプローチした新しい育児法である「ペアレンティング・トレーニング」を教えていただきます(全3回の1回目)。

「ペアレンティング・トレーニング」ってどんな子育て方法?

自分の子どもに育てにくさを感じたり、自らの子育て方法がうまくいかずに落ち込んだりして育児がツラいと感じる方はいます。そんなパパママの突破口のひとつとして「ペアレンティング・トレーニング」という育児法があります。

これは小児科医であり、小児脳科学者の観点から成田奈緒子先生が確立した子育ての新メソッドです。脳科学からアプローチした方法を先生は次のように説明します。

「『ペアレンティング』は、その言葉だけを受け取ると難しく思えますが、英語で『養育』つまり『子育て』という意味です。

私は小児科医と小児脳科学者という立場から、子どもの育ちは脳の育ちとイコールだということを見出し、脳を育てることこそが子どもの成長には重要だと考えました。

そして、日常生活で簡単に実践できる脳育ての方法を『ペアレンティング・トレーニング』と名づけ、育児に行き詰まっている親御さんに向けて、そのメソッドを使った子育て支援を行っています。

『ペアレンティング・トレーニング』には、間違えられる言葉として『ペアレント・トレーニング』というものもありますが、これら2つはまったく違うものです。

私が確立した前者は、親が今のかかわり方を変えることで、子どもの自立を促すメソッドです。子ども自身がいずれ主役となって自ら考えて行動できるように、親が行動や意識改革をして子どもの脳にいい刺激を与えていく方法です。

一方のペアレント・トレーニングは、子ども側の行動変容に着目したメソッドです。2つのトレーニングは、親が中心となるか、子どもが中心となるかアプローチの方向が違うので、まずはその違いを覚えてほしいですね」(成田先生)

「ペアレンティング・トレーニング」は、簡単に表現すると「親側が行う子育てのトレーニング」です。子どもの脳の育ちにとって最も重要な家庭生活を親が変えることで子どもの脳にいい刺激を与えて、頭の中から子どもの育ちを応援する方法です。

育児がツラいと感じたときにペアレンティング・トレーニングが役立つワケ

「子どもの育ちを脳から応援するペアレンティング・トレーニングは、生活習慣を見直すことから始まります。夜は寝て、朝は早起きして、ご飯を3食しっかり食べるという考えを親がしっかりと持ち、それを実践するのが基本です。

私が代表を務め、ペアレンティング・トレーニングを使った子育て支援事業を行っている〈子育て科学アクシス(以下、アクシス)〉でも、ご相談に来られた親御さんにはまずは生活習慣を見直すことからアドバイスしています」(成田先生)

トレーニングというと身構えてしまいますが、どの家庭でもペアレンティング・トレーニングのスタートは〈夜寝る×早起きする×ご飯を3食食べること〉からだと先生はいいます。日常生活ですぐに取り組める基本を聞いて、「これだけでいいんですか?」と気持ちを軽くするパパママは後を絶たないそう。

「現代はネットが普及した背景もあって、社会に飛び交っているさまざまな育児の情報が親御さんの目や耳に入ってきます。アクシスにもそれらの情報と我が子を比較して子どもの成長が心配になったり、自分の育児に自信が持てなくなったり、あるいはキャッチーな言葉に惑わされて不安を覚えた方が来ます。

最近では『発達障害』という言葉が一人歩きをして、子どものかんしゃくがおさまらなかったり、落ち着きがなかったりすると、その考えに縛られて思い悩む方も多いように思いますね。

子育てに関する知識を持っているのはいいことではありますが、情報に惑わされて変に心配を膨らませることはありません。もしツラい状況から抜け出せなくなっても、ペアレンティング・トレーニングで現状を変えていくことができます。

トレーニングは生活を基盤となる部分から立て直していきますし、子どもが何歳でもいい方向に向かいますよ」(成田先生)

子育ては「一発勝負、やり直しなし」ではないと語る成田先生。しかも、ペアレンティング・トレーニングは高校生でも効果があるといいます。

「脳は18歳ごろまでに段階的に育ちますが、脳には可塑性(かそせい)といっていつでも作り変えることができる可変性があります。

したがって小学生といわず、中学生でも高校生でも、これからペアレンティング・トレーニングで子どもの脳は育て直しができます。取り組むことで、最終的には自立性を我が子にプレゼントすることができます」(成田先生)

子どもの育ち=脳の育ちと成田先生は定義しますが、「よい脳」に育てるには脳の3つのパートを順番に育て、それがバランスよく積み上がっていることが大切だそう。生活習慣の改善から始まるというトレーニングが、よい脳育ちにどのように関係していくのか、次のページでさらに深掘りしていきます。

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