保活に燃える前に考えたい 「共働き夫婦が子どもを預けるなら保育園と幼稚園どっち?」

家族心理ジャーナリスト 麻生マリ子さんに聞く「保育園一択ではない理由」

共働き世帯は増加したが待機児童は減っている

待機児童は社会問題化したが徐々に改善してきた
写真:rammy2/イメージマート

「妊娠がわかったら始めるべき」と言われている保活ですが、子どもの預かり先を取り巻く環境は一気に変化しています。仕事と子育てを両立するためには、広い視野を持ちたいところ。幼保一元化から行政の動きを見つめてきた、家族心理ジャーナリスト・カウンセラーの麻生マリ子さんに、共働き夫婦が預けるべき園についてお話を聞きました。

内閣府の男女共同参画局が2020年9月に公開した資料によると、共働き世帯は2019年に1245万世帯に達しました。2012年以降、共働き世帯が急速に拡大し、専業主婦世帯は582万世帯と減少傾向にあります。

この数字は子を持たない世帯も含み、またひとり親家庭が除外されているとはいえ、子育て世代にも共働き世帯が増えているのは明らかです。

妻が職場復帰するには、子どもの預け先の確保が必須。
そこで行われるのが“保活”ですが、あの「保育園落ちた、日本死ね」が話題になった2016年以降、待機児童の問題は少しずつ改善されている状況です。

厚生労働省の発表によれば、2020年4月1日の時点で全国の待機児童総数は前年よりも4333人減少しました。最も待機児童の多い自治体だった世田谷区でも、「ただちに子どもを保育所に預ける必要がある」という保護者の待機人数はゼロとなりました。これは政府が2017年に「子育て安心プラン」を打ち立て、とくに待機児童の多かった1、2歳児の受け皿整備に力を入れた成果です。

幼保の“いいとこ取り”な内閣府管轄の認定こども園や、0~2歳児を対象とした地域型保育事業など、保育園・幼稚園以外の施設も拡充が進んでいます。

待機児童が多かったころは「とにかく入れてくれる園を見つける」といった保活が中心でした。預かり先が増えた現在は、園ごとの特色や育児・教育方針をふまえて、入園先を検討できるようになっているのです。

子育て家庭の状況に詳しい家族心理ジャーナリスト・カウンセラーの麻生マリ子さんはこう指摘します。

「本当に『共働きは保育園一択』なのでしょうか。子どもを主体に考えたら、幼児教育に力を入れている幼稚園に行かせてもよいかもしれません。保育園でなければならない理由をひとつずつ紐解いていくと、幼稚園やほかの保育施設も選択肢に加わっていくのではないでしょうか」

図表「幼稚園・保育園、こども園、地域型保育の違い」

共働きが幼稚園を選択肢から外している理由

「幼稚園はお昼過ぎには預かり時間が終わってしまうと思われがちですが、保育時間の前後にも預かり保育を実施している園がほとんど。夏休みなどの長期休暇にも預かり保育は行われています。仕事をしながらでも幼稚園に通わせることは可能です。

また、子どもを一般の保育園からシュタイナー教育の幼稚園へ転園させたという保護者のケースなのですが、転園後にお子さんの登園意欲がかなり上がったという報告もあります。そのお子さんは保育園での遊びが物足りず、幼稚園の教育内容が肌に合っていた、と聞きました。

子どもと保育内容との相性にも目を向けると、保育園一択と決めつけてしまうのはもったいないように思えます」(麻生マリ子さん)

幼稚園は保育園よりもお金がかかるという問題も、2019年10月から始まった幼保無償化により事情が変わりました。

「『子ども・子育て支援新制度』の対象施設であれば幼稚園でも無償になりました。対象外でも月額2万5700円までは助成されます。幼稚園の預かり保育も本来は有料ですが、2019年10月から始まった幼保無償化により、月額1万1300円までは無料になりました(※保育の必要があると認められた場合)。

送迎バスや行事、入園費用などの実費は無償の対象ではありませんが、それは保育園でも同じです。
むしろ、保育園では無償化により、給食の食材費が実費(※世帯の年収による)になったことで、かえって支払額が増えてしまったという家庭もあります」(麻生マリ子さん)

幼稚園は費用の面で難しいと思っていた家庭も、検討しなおす必要がありそうです。

激しい保活戦線で見失いがちなこと

先行き不安な経済状況だからこそ、なるべく早く仕事に復帰したいと焦るのは当然のこと。とはいえ、育児休業を取得していて復帰の時期が見えているのならともかく、「保育園に入れなくては」という思い込みによって見失いがちなことも少なくありません。

待機児童数がピークだった2015年・2016年には、入園審査の点数を上げるための“保活の裏技”が保護者の間では広く知られていました。待機児童が徐々に減っている今でも、この“裏技”は保活の常識として引き継がれています。

無認可やベビーシッターを利用して、有償の保育施設に子どもを預けた上で働くというのも“裏技”のひとつですが、『パート代がまるごと保育料に消えていった』というのもよくある話。また、本来はゆるやかに仕事へ復帰し、子どもと過ごす時間を確保したいと考えているのに、点数稼ぎのためにフルタイム勤務で復帰する場合も。

激しい保活戦線の空気に呑まれると、「保育園でなければ」「1日も早く保育園を決めなければ」と焦ってしまいがちです。

「親の仕事に合わせて預け先を決めるのか、子ども主体で保育内容まで検討したうえで預け先を決めるのか。各家庭によって重視したい部分を整理してみる必要があると思います。

仕事と子どもへの教育のバランスを考え、折り合いのつく着地点を見つけることが先決。コロナ禍の現状を鑑みると、なおさら焦る必要はないようにも思えます」(麻生マリ子さん)

待機児童数がピークだったころの常識に振りまわされず、冷静に考えるべき。新型コロナウイルス感染症の不安がある現況を踏まえると、入園までのブランクがネックだった幼稚園こそ理想にぴったり、なのかもしれません。

取材・文:原 西香(はら あきか)
ファッション情報誌、プレママ誌を経て、海外セレブ情報誌を約10年編集・執筆。現在はフリーランスの編集・ライターとして活動。ワンオペ育児中。

あそう まりこ

麻生 マリ子

家族心理専門家

女性たちの抱える「生きづらさ」の背景として母娘関係に注目。心理学科卒。 母娘問題や子育て、孫育てやDV、虐待など家族問題について取材や相談活動を続ける。新聞や雑誌への寄稿やコメント提供などを行い、構成作家の顔も持つ。 自身も娘を持つ母である。

女性たちの抱える「生きづらさ」の背景として母娘関係に注目。心理学科卒。 母娘問題や子育て、孫育てやDV、虐待など家族問題について取材や相談活動を続ける。新聞や雑誌への寄稿やコメント提供などを行い、構成作家の顔も持つ。 自身も娘を持つ母である。