15万部超え『子育てベスト100』著者が厳選 それでも読むべき子育て本 中〜上級編

教育ジャーナリスト:加藤紀子

写真:maruco/イメージマート

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今の時代、子育てにまつわる情報は玉石混交。親は何を信じればいいのか、迷うばかりです。そんななか、教育ジャーナリストの加藤紀子氏が厳選した有用情報のみをまとめた書籍『子育てベスト100』が15万部を超えるベストセラーになっています。

子育てについて200以上の資料を熟読したという加藤さんが、「それでもこれは読む価値がある」と勧める本とは一体どんなものでしょう? 前編「親になったらまずは読んでおきたい入門編」に続き、後編は子どもの「やる気」「自立」「感情コントロール」について掘り下げた5冊をご紹介します。加藤さん自らの書き下ろしです

子どもの「やる気」と「やり抜く強さ」を引き出すには?

前回の「親になったらまずは読んでおきたい入門編」では、子育てで疲れた心をマッサージのように柔らかくほぐしてくれる本、親としての迷いを整えてくれる本、心配な心を鎮めてくれる本を紹介した。今回は、子育てについて多くの親が気になる3つのテーマについて、もう少し専門的なところまで踏み込んだ本をまた5冊、紹介したいと思う。

まず最初は、こどもの「やる気」。
子どもがいかに自分の可能性を発揮し、生き生きと幸せな人生を送れるか。その源泉となるのは、子どもの内面から湧き出る「やる気」ではないだろうか。このテーマについてお勧めしたいのは次の2冊だ。

1冊目は、発達心理学の世界的な権威、スタンフォード大学教授キャロル・S・ドゥエック氏の『マインドセット「やればできる!」の研究』(草思社)だ。
「蛙の子は蛙」だと、親が一方的に子どもの才能を値踏みしてしまうことに、ドゥエック氏は警鐘を鳴らす。そして、「人の能力は生まれつき決まっておらず、努力次第で伸ばせるもの。どんな人にも学習と成長のチャンスがある」とし、これを”growth mindset”(しなやかなマインドセット)と呼ぶ。マインドセットとは「心のあり方」のことだ。

最新の脳科学研究では、脳は筋肉と同じく、使えば使うほど性能がアップし、新しいことを学ぶと脳が成長して、頭が良くなっていくことが明らかになっている。
だからこそ、褒めるときは能力ではなく、努力やプロセスを褒めるべきだとドゥエック氏は強調する。

「自分の性格だと思っているものの多くが、じつはこの心のあり方(マインドセット)の産物なのである。あなたがもし可能性を発揮できずにいるとしたら、その原因の多くは”マインドセット”にあると言ってよい」

やる気に溢れる子どもを育てるには、子ども自身が「失敗こそ成長のチャンス」と自分の伸びしろを信じられる、しなやかなマインドセットを持たせることの重要性を教えてくれる本だ。

発達心理学の世界的権威である著者が、能力や才能は生まれつきではないことを20年間の調査で実証した『マインドセット「やればできる!」の研究』

もう1冊は、アメリカの教育界が重要視しているGRIT(グリット:やり抜く力)研究の第一人者、ペンシルバニア大学教授アンジェラ・ダックワース氏の『GRIT やり抜く力』(ダイヤモンド社)だ。ダックワース氏はビジネスリーダー、一流の学者、アスリートなどから、成功者の共通点は「才能」よりも「情熱」と「粘り強さ」を併せ持っていること、つまりGRITが強かったことを明らかにしている。「やり抜く力」という日本語訳からは我慢や忍耐強さを連想しがちだが、英語のニュアンスは少し違うようだ。ダックワース氏は「その道を究めた達人でさえ、最初は気楽な初心者だった」「入門のごく基礎的なことは、ほとんど遊びをとおして学ぶ」と言い、特に子ども時代における楽しい没頭経験がGRITの伸びにつながると語る。

「勉強や習いごとの学習者を対象に行った長期的研究によって、威圧的な両親や教師は、子どものやる気を損なってしまうことがわかっている。いっぽう、自分の好きなことを選ばせてもらえた子どもは、ますます興味を持って取り組み、のちに一生の仕事として打ち込む確率が高くなる」

この2冊はビジネス書のジャンルだが、子育てのヒントはもちろん、親が自身のマインドセットを見つめ直す良いきっかけにもなる。

マッカーサー賞(別名:天才賞)受賞の著者が、成功するには、IQや才能よりGRIT(やり抜く力)」だと言い切り、その伸ばし方を説く『GRIT やり抜く力』。

自立し、社会と調和できる大人に育てる「アドラー式育児法」

2つ目のテーマは「自立」。
子どもの「自立」は親として子育ての一番の目標であり、だからこそ目の前のわが子には心配が尽きない。このテーマを考える時、勇気づけの心理学として知られるアドラーの教えに触れておくと、様々な場面で救われることが多い。
日本アドラー心理学会カウンセラーの清野雅子氏、岡山恵実氏による『3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』(小学館)では、子育てに活かせるアドラー心理学を、エピソード漫画も交えながら、易しい言葉で説明してくれている。
アドラーは、子どもに「ほめる 」「しかる」といった「評価」はしない。

「子どもはみんな能力をもっています。親の間違った対応がそれを潰してしまうのです。お子さんが家族や周囲のために行動をしたら、感謝して、声をかけてあげてください。その積み重ねで「貢献する能力がある自分」が育っていきます」

親と対等な人間関係を築き、子どもが自分で問題解決できる大人に育てることで、明るい未来がつくれる、と考えたのだ。

「親はついつい先回りをして、子どもの課題に口を出したくなるものですが、それでは、子どもが自分の問題を自分で解決できるようになりません。何か問題が起きたら「これは誰の課題かな?」と立ち止まって考えてみることが大切です」
子どものためと思い込んでいることが、実は自分の安心のためでしかなく、結局子どもに親の不安を「肩代わり」させているだけではないか。アドラー心理学の「課題の分離」というこの考えは、日々子どもと関わる中で、常に心に留めておきたい大切な支柱だ。

パセージ育児法は、日本にアドラー心理学を広めた野田俊作氏が開発し、30年以上の実績がある。『3歳からのアドラー式子育て術「パセージ」』

コロナ禍でも心配される感情リテラシーの成長

そして3つ目のテーマは、子どもの「感情のコントロール」。
今、子どもの成長にとって一番問題なのは、感情リテラシーが育ちにくい状況にあることだ。
感情リテラシーとは感情の「読み書き」のようなもので、ある事柄に直面したときに湧き上がる感情を「悲しい」「嬉しい」「不安だ」「恥ずかしい」といった言葉に置き換えるスキルのことだ。感情がうまくコントロールできないキレやすい大人、あるいは引きこもりといった社会問題も、この感情リテラシーの発育と関係があると言われている。

昔は大家族や地域とのつながりの中、こうしたスキルは自然と身に付いた。ところが最近は核家族化が進み、日常のコミュニケーションが希薄になっている。さらに問題なのは、コロナ禍によって友達と遊ぶ時間が大幅に減るなど、その傾向に拍車がかかっていることだ。
発達心理学者の法政大学教授・渡辺弥生氏は、自身の著書『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』(ちくま新書)の中で次のように述べている。

「現代のようにマルチタスクをこなす生活のなかで、他人に気持ちを伝え理解してもらったり、自分で受け止め噛みしめたりするには、気持ちを表す言葉の獲得が、とても大切です。…中略…ところが、若い人は、「まじ」「やばい」「めんどくさい」といった短い言葉で、気持ちを表現しようとする風潮があります。こうした言葉が実際、自分の心の状態をもっともうまくつかんでいるのであればまだしも、実際には人によって受け取り方はまちまちで、ミスコミュニケーションを生じやすい言葉です」

もはや私たちは強い意識を持って、子どもにこの感情リテラシーをスキルとして教える必要があると渡辺氏は言う。

「普段の生活の中で子どもの気持ちに寄り添い、「どうしたの」「怖いのかな」「恥ずかしいの?」「なんか悪いことしちゃった?」と、その気持ちを代弁してやることは、子ども自身に心の状態と親の言葉を結びつける「気づき」を与えることになります。それから次第に、自分の言葉で自分の気持ちを表せるようになるのです」

成長とともに、子どもはあらゆる感情をどのように獲得していくのか。様々な感情に関する世界の最先端研究から、そうした深い知識に触れるには最適な1冊だ。

世界の最先端研究から感情の正体に迫り、学校や家庭で実践できるテクニックやアイデアが盛りだくさんの『感情の正体—発達心理学で気持ちをマネジメントする』

最後に、上記のテーマからは外れるが、世界の教育の最新動向をまとめた『新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(竹村詠美・著/日本経済新聞出版)もお勧めしておきたい。

今、教育の最先端は、一人ひとりの興味に合わせて心、身体、頭脳を統合的にバランスよく育む「ホール・チャイルド・アプローチ」という考え方にある。今後はあらゆる分野で、答えのない課題に仲間と向き合い、協働しながら新しい価値を生み出す創造性にあふれた人材が求められる。このような流れを受け、日本でも教育の選択肢はずいぶん多様化してきている。増えていく選択肢の中から、わが子にとってのベストは何か。親がこうした本でアンテナを広げ、その目利き力を磨き、実践していく勇気と決断力が大事になってくるだろう。

世界のグローバル・エリートが子弟を通わせたがる最先端の学校を紹介し、激変する教育とその最新動向に迫る『新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』

〔連載第1回〕親になったらまずは読んでおきたい入門編5冊

教育ジャーナリストの加藤紀子さん

PROFILE
加藤紀子(かとうのりこ)

1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。2020年4月『子育てベスト100 「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』(ダイヤモンド社)を上梓。
一男一女の母。過去の記事はこちら→【Facebook】https://www.facebook.com/iluv97magnolia/

『子育てベスト100 「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』
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