「もう◯歳なのに」はNG! 個人差のある「注意力」と身支度・癇癪(かんしゃく)の関係、対応を専門家が解説

感受性と注意力で読み解く子どもの「困った」行動#2 注意力が狭い子

着替えにも「注意力」が必要

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日常生活の中には、「注意力」を要することが想像以上にたくさんあります。大人にとっては簡単に思える着替えや食事、遊びなども、実は同時にたくさんのことに気を配らなければ進められません。ですから子ども、特に乳幼児にはハードルが高い場合もあるのです。

ここでは、わかりやすく「朝の着替え」を例にあげて考えてみましょう。着替えの手順を示すと、次のようになります。

【朝の着替えの手順】
①パジャマの上を脱ぐ
②パジャマのズボンを脱ぐ
③シャツを着る
④ズボンを穿く
⑤靴下を履く

朝、「ご飯の前に着替えてきて」と言われて一人でできる子どもは、まず①から⑤を順番に思い浮かべることができます。そして、「シャツを着たから、次はズボンを脱ごう」などと考えながら、そのとおりに身体を動かすことができます。それだけの注意力=段取り力がある、もしくは育っているといえます。

着替えができる能力はあるとしても注意力の範囲が狭い子の場合、言葉の指示だけではできないことも多いと野藤氏はいいます。

「注意力は年齢とともに身についていきますが、感受性と同様にやはり個人差があります(感受性の詳細は第1回を参照)。ですから、『もうそろそろ一人で着替えられるはずなのに……』などと、一般的な基準を当てはめるのはやめたいものです」(野藤氏)

子どもは決して怠けているわけではなく、どの順番で、自分の身体をどのように使うとよいか、その手立てがわからない状態なのです。

「『今この子の注意力はどのくらいかな』『どの程度の段取りが立てられるのだろう』という視点で、子ども自身をよく観察してみてください。その上で、着替え、片づけ、出かける準備などの指示を出してもやらずに他のことをしている子は、注意力が狭いタイプかもしれません」(野藤氏)

「できるまで手伝う」から自立できる

では、注意力が狭く段取りを立てるのが苦手な子に対して、保護者はどのように接すればよいのでしょうか。

まずは一緒にやってあげること、支援してあげることです。先ほどの着替えの例でいえば、『パジャマを脱ごうね』と話しかけながら手伝い、シャツを着せてあげます。大人が着替えの手順や段取りを、何度も何度も教えてあげてください。そうするうちに、子どもは何をすればいいのかを徐々に覚えて、その子の生まれ持った能力でできることはするようになります」(野藤氏)

保護者が繰り返し手伝うことで徐々に一人でできるようになります。  写真:アフロ

そこまでやってあげると子どもが自立できないのでは……と思う保護者もいるでしょう。そうした不安に対して、野藤氏は次のように説明します。

「着替えの場合は、バンザイしたり自分で腕に袖を通したり、子どもも身体を動かしていますよね。食事を食べさせたとしても、口を開けて咀嚼し、飲み込んでいるのは子ども自身。そこは親が代わりにやっているわけではありません。子どもも一緒に行動しています。

保護者が手伝うから自分でできなくなるのではなく、やり方を教えない、きちんと伝えないからできないままになってしまうのです。人は基本的に模倣から学びます。やってみせる、粘り強く一緒にやることで習得することができ、その先の自立につながります」(野藤氏)

「かんしゃく」への対応方法は?

幼児期の子どもの行動で親が悩むものに、「かんしゃく」があります。実は、かんしゃくも注意力と密接な関係があるといいます。

積み木で遊ぶ子どもの例で考えてみましょう。

高い塔を作ろうと2段、3段と積んでいる途中、自分の腕が積み木にぶつかり、一部が崩れてしまいました。

このとき、「なぜ崩れてしまったのかな」「壊れたのは上のほうだけだな」と考えて、崩れた部分を直して遊び続ける子は注意力が広いタイプです。自分の当初の段取りを、臨機応変に修正することができます。

一方で、注意力の範囲が狭い子の場合は、目の前しか見ていないため、なぜ崩れてしまったのかがわかりません。自分の腕がぶつかったことにも気づいていないかもしれません。そうすると、何をどうすれば元どおりになるかわからなくなって、すべて壊してしまったり、「もうやらない!」と大きな声で怒り出したりします。

かんしゃくは自分が考えた段取りどおりに進まなくなったときに、解決する方法や別の手順を思いつけない状態です。

大人は、物を投げた、怒ったという子どもの行動ばかりに注目し、『物を投げたらダメでしょ』と注意してしまいますが、そこには理由があり、どうしようもなくなった結果だということを理解してほしいと思います」(野藤氏)

また、かんしゃくを起こして興奮状態の子どもは、何を言っても耳に入りません。ですから、「もう一度ここから積めばできるよ」とアドバイスしても、それを聞く気持ちの余裕がありません。

むしろ、外からたくさんの言葉が入ってくると、それが刺激になって余計にイライラしてしまうことも多いといいます。よかれと思って話しかけたつもりが、「うるさい」「お母さん/お父さんのせいだ!」などと言われた経験のある保護者もいるのではないでしょうか。

「本人は自分なりに、一生懸命落ち着く方法を探しています。かんしゃくを起こした直後は、子どもがクールダウンする時間、どうするか考える時間を持てるように、しばらくの間、見守りましょう。

そうすると、『崩れちゃった……直すの手伝って』と助けを求めてきたり、別のおもちゃで遊び始めたり、自分で切り替える方法を見つけていきます。このような『次の行動』に入ると、イライラしていた身体や気持ちが落ち着き始めるのです」(野藤氏)

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