「きみは、本当はいい子なんだよ」
小林先生は教育方針だけではなく、子どもと接する際の言葉かけも印象的です。黒柳さんご自身がいつもお話されており、とても有名なものをひとつ取り上げます。
それは「きみは、本当はいい子なんだよ」というものです。お聞きになったことがあるのではないでしょうか。
この言葉かけは実によく考えられているものです。
実際、こう言われたトットちゃんは喜んで、「はーい、わたしはいい子です!」と答えています。
小林先生は、この言葉を日常的にさりげなく、何度も、トットちゃんにかけています。
なにかと問題を起こすことが多かったトットちゃんですが、「きみは、いい子である」と、大好きな校長先生から、人格をしっかりと肯定している言葉かけをしてもらったおかげで、周囲に引け目を感じることなく、前を向くエネルギーを蓄えることができたのです。
けれども、この言葉かけの一番のポイントは「本当は」の部分にあります。
「本当は」ということは、「今は、まだそう見えていないよ」ということを含んでいます。あとがきで、黒柳さんはそのことに大人になって気づいた、と書いていらっしゃいます。
そして、これが、子どもを子ども扱いせず、一人の人間として接するということではないでしょうか。
小林先生は、子どもだからといって、「そのままでいいよ」と全肯定するのではなく、相手のことをよく理解し、選び抜いた言葉で、本当のことを伝えているのです。
子どもがもっと愛しくなる、お守りのような本
小林先生の姿勢は、我々が子育てをする上でも、大きなヒントになります。
「つねに厳しく」とか「絶対叱らない」というように、思考を振り切って行動することは、なにかを考えているようで、実は簡単なことです。思考停止でいられるからです。
一方、目の前の子どもを対等な人間として理解し、相手の存在を肯定しながら、大切なことを伝えるというのは、大人の器が試されます。
なぜなら、冒頭で書いたとおり、子どもはまだ未熟な表現方法しか持っていないからです。
『窓ぎわのトットちゃん』には、子どもたちの行動の理由が、大人にもわかる言葉で説明されています。
小さい子どもたちの考えにふれ、「そんな風に感じていたのか!」と実感することができるでしょう。
我々大人は、大切な子どもたちと、日々、しっかり向き合うことができていません。
だれもが小林校長先生のように、小学1年生の女の子の話を4時間ぶっとおしで(しかも興味津々で)きいてあげられるわけはないのです。
そんなことをしていては生活が成り立ちませんし、仮にそのような心の余裕と時間がある人でも、毎日のことでは、子どもの存在が習慣になってしまうということもあるでしょう。
それでも、子どもたちのことを大切に思っているということに嘘はありません。
ですから、せめて、この本をいつも手に届くところに置いておこうと思います。
「子どもも1人の人間であること、もっともっと理解し合いたい相手であることを思い出すためのお守り」として。
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熱海 康太
『伝わり方が劇的に変わる!6つの声を意識した声かけ50』(東洋館出版社)など、小学校の先生向けの著書が多数。
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