人気1位の川崎“夢パーク” 挑戦する子どもが育ち 地域にも支持される理由

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#2‐1 どろんこプレーパーク「川崎市子ども夢パーク」(神奈川県川崎市)

ライター:太田 美由紀

当初は地域から「声がうるさい」「たき火の煙が迷惑」という声も

地域の人たちに支えられ、あたたかい関係を築いてきた夢パークですが、20年前のオープン当時は地域の一部の人たちに歓迎されないこともあったと西野さんは振り返ります。

「夢パークは公設民営の施設。川崎市はもちろん、町内会、当時の町会長からも応援していただいて設立したので安心していたんです。それでも、オープン当初はいろんな声が聞こえてきました。

子どもの声や楽器の音がうるさい、風で土が飛んでくる、たき火の煙が迷惑。不登校の子や障害のある子がいるらしい……。この施設の中で、子どもたちがどんなふうに過ごしているのかがわからず、不安になった方もいたのだと思います」

2003年のオープン当時は、プレーパーク(冒険遊び場)という言葉もこの地域ではあまり知られていませんでした。誰でも入れる場所ですが、「子ども夢パーク」という名前から、地域の大人がふらりと入ることはためらわれたのかもしれません。

「夢パークに来て子どもたちが遊んでいる様子を見てもらえば、きっとわかってもらえるはず。でも、どうすればいいんだろう?」

半年経った翌年の1月。餅つきを企画し、町会長にお願いに行きました。

「餅つきをしたいのですが、夢パークには、きねも、うすもありません。もち米の蒸し方も、つき方もわからないので、どうかお力を貸してもらえませんか」

町会長は、「餅つきもしたことがないのか。仕方がないなあ。よし、応援しよう」と、婦人部、青年部、子ども会に声をかけてくれ、地域の人たちと夢パークが力を合わせ、餅つきのイベントが実現しました。

2023年1月8日、3年ぶりの餅つき&どんど焼きが行われた。ボランティア約70人、来場者920人が集まった。おもち50kgは1時間半で完売。青い上着が西野さん。  写真提供:西野博之さん

参加してくれた町会の人たちは、夢パークに足を踏み入れ、口々に感想を呟きました。

「初めてこの中に入ったよ。問題もある施設だって騒がれてたけど、俺たちが若いころに遊んでたようなただの空き地と同じじゃねえか」

「なんだか懐かしいな。こんなところでよく遊んでいたよ」

「目くじら立てて攻撃するようなところじゃないよね」

「うちの町にできた施設だからよ、助けてやんなきゃしょうがねえな」

地域の理解がないと安心できる居場所にならない

それ以来、夢パークに不安や不満がある地域の人たちと、町会の役員会で対話を繰り返すようになりました。洗濯物が干せないから毎日は困るという意見を受けて、たき火ができる曜日を決め、夢パークのスタッフは町会主催の夏祭りの手伝いにも出かけるようになりました。

意見交換だけでなく、それぞれの行事を助け合い、懇親会を繰り返すうち、地域ぐるみで夢パークを応援してくれる人が増えていきます。家庭菜園で採れた野菜や、田舎から送ってきた果物やお米など、差し入れもたくさん届くようになってきたのです。

「子どもたちはこの地域で暮らしています。地域の理解がないと、安心できる居場所にならない。対話の糸を切らなければ絶対に分かり合えると信じています。

真摯に対話し、人として信頼していただき、つながりをどう作っていくかがその鍵になる。地域を耕すことです。そしてそれが、生きづらい子どもたち、若者たちの理解にもつながっていくのだと思います」(西野さん)

第2回は、夢パーク、年に一度の大イベント「こどもゆめ横丁」をご紹介します。

〈教育学者・汐見稔幸先生から〉

長く暮らしてきた町に違う趣の場所ができるとなると、地域の人は警戒するものです。地域の人に理解してもらいたいとき、いちばんの方法は地域の人にお願いをすること。

多くの保育園でも、「畑を作りたいのですが、教えてくださる方はいませんか」「やぐらの組み方をご存知の方はいませんか」など、地域の人に上手にお願いをして、垣根を少しずつ解いていき、少しずつ地域の人たちに支えられるようになっていきます。

夢パークは、子どもたちが安心して「やってみたい」に挑戦し、失敗できる素晴らしい場所ですが、大人から見ると無秩序に見えて不安になるのかもしれません。

でも一見無秩序のように見えても昔の子どもの秩序と変わらないことがすぐわかりますし、地域の人たちが持つ文化力が入れば、地域の人と一緒に秩序をつくる楽しさが子どもたちに芽生えます。

知らない子どもが騒いでいると、お年寄りは「うるさいなあ」と感じます。しかし、その場所を訪れ、中の様子を知り、関わっているスタッフの顔が見え、子どもたちと交流をするチャンスが増えると、「ワイワイと元気でいいねえ」と思えるようになっていく。

今あちこちで起こっている、子どもたちの施設と地域の人たちとの対立を解決する鍵も、ここにあるはずです。

【脚注】
※1=川崎市子どもの権利に関する条例

取材・文/太田美由紀

汐見稔幸(しおみ・としゆき)PROFILE
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

太田美由紀(おおた・みゆき)PROFILE
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。

保育所、認知症デイホーム、地域の寄り合い所といった3つの機能をあわせ持つ施設「地域の寄り合い所 また明日」が一冊に。幼い子どもと認知症の高齢者が共に暮らす“強み”とは。『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(著:太田美由紀/風鳴舎)。
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おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

しおみ としゆき

汐見 稔幸

教育・保育評論家

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。