子どもと認知症高齢者は相性抜群! デイホーム兼保育所「寄り合い所」の想定外の効能

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#1‐1 多世代が集う「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)

編集者・ライター:太田 美由紀

葉っぱを使っておどけるお年寄りに手を伸ばす。  写真提供:藤田浩司(『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』より)
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長く続いたコロナ禍。「人との接触はダメ」というイメージが定着し、張り詰めた空気の中で、「孤育て」に悩む人が増えました。でも本当は、地域の人に見守られ、安心してゆったりと子育てしたい。

最近はコロナも少し落ち着いて、さまざまな居場所が地域へとひらかれ、人のつながりが取り戻されようとしています。その大切さを誰もが強く感じたからかもしれません。

赤ちゃん、子ども、おじさん、おばさん、おじいちゃん、おばあちゃん。みんな笑顔で交流できる場所があったらいいな。

つらいときは愚痴をこぼして、必要なときには困りごとも相談できる。
子どもだけでなく、親である私たちも育つ場所──。

そんな場所が、東京都小金井市にありました。そこは、「地域の寄り合い所 また明日」(以下「また明日」)。保育所、認知症のデイホーム、地域の寄り合い所、3つの機能をあわせ持つ施設です。

最後に教育学者・汐見稔幸先生からのコメントもあります。

※全4回

「いつでもどなたもこちらからどうぞ」

のんびりとした住宅街。1本の大きなケヤキとほんの少し遊具がある小さな公園の隣に、一見普通のアパートがあります。その周囲には、塀もオートロックもありません。手書きの看板には「いつでもどなたもこちらからどうぞ」と書いてあります。

中に入るとそこは、アパートの1階部分の壁が全て取り払われたワンフロアのスペース。認知症のデイホームに通う利用者と保育園に通う乳幼児、そしてスタッフや遊びに来たご近所さんがごちゃまぜになって過ごしています。

赤ちゃんもお年寄りも同じスペースで過ごす。  写真提供:藤田浩司(『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』より)

赤ちゃんが泣き始めると、こんなやりとりがはじまりました。

「おやおや、この子、泣いてるよ。お腹が空いてるんじゃないかい」
「今ミルク作るので、飲ませてくださいますか?」

エプロンをつけたおばあちゃんが、スタッフから哺乳瓶を受け取ってミルクの温度を確認。赤ちゃんはおばあちゃんに抱っこされ、おいしそうにゴクゴク。

赤ちゃんも安心してミルクを飲み干した。  写真提供:藤田浩司(『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』より)

「この方はデイホームの利用者さんですが、子どもたちと関わるお仕事をしていたので、とても上手にミルクをあげてくださるんです」とスタッフ。

デイホームの利用者には、必要があればスタッフが食事のお手伝いをします。子どもたちはいつもその様子をじっと見ています。

スタッフが声をかけても食が進まないお年寄りを見て、「アーンできる」という子ども。子どもが「はい、アーン」とスプーンを差し出すと、思わず口を開けてもぐもぐ。「おいしい?」とたずねる子ににっこり笑ってこたえます。

お年寄りが食べる様子をじっと見る。わたしもできるよ、と「はい、あ~ん」。  写真提供:地域の寄り合い所 また明日(『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』より)

こんな様子も「また明日」では珍しいことではありません。スタッフは安全を確保しながらその様子を見守ります。

子どももお年寄りも「誰かの役に立つ」とうれしい

保育所に入っていない赤ちゃんを連れたお母さんも歓迎されます。連れてきた赤ちゃんは、スタッフやお年寄り、遊びにきたご近所の人たちにかわいがられ、お母さんはゆったりお茶を飲んでリラックス。子育ての悩みもいろんな人が一緒に考えてくれます。

「悩みそのものは解決しなくても、その時間は本当にほっとできる。家で子どもと2人きりでいると本当に疲れちゃって」と教えてくれたお母さんもいます。

誰が誰をケアするという固定的な役割はほどかれて、無理せず楽しく、できる人ができることをする関係があちこちで生まれている。「地域の寄り合い所 また明日」代表の森田眞希(もりた・まき)さんは、そのような関係をとてもありがたいと言います。

「洗濯物のタオルはいつも、利用者さんと子どもたちとスタッフでたたむのですが、子どもたちはたたみ終わると『もういっかい!』って言うんです。何度も、何度も、崩してはたたみます。

スタッフの私たちは、子どもにとことん付き合ってあげることができないときもありますが、利用者さんは楽しみながら最後まで寄り添ってくださいます」(森田さん)

スタッフが取り入れた洗濯物を、みんなで一緒にたたみます。  写真提供:藤田浩司(『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』より)

子どもたちにとってはお手伝いでもあるし、遊びでもある。子どももお年寄りも、やっぱり「誰かの役に立つ」とうれしい。

スタッフの一人は、「子どもたちとお年寄りをつなぐ黒子のような存在になりたい」と話してくれました。

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