子どもと認知症高齢者は相性抜群! デイホーム兼保育所「寄り合い所」の想定外の効能

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#1‐1 多世代が集う「地域の寄り合い所 また明日」(東京都小金井市)

編集者・ライター:太田 美由紀

「あのね、犬もいて、猫もいて、赤ちゃんもいて──」

あるとき、1人の女性が建物の外から中をのぞいていました。

「こんにちは。お茶でも飲みませんか?」とスタッフに声をかけられ、おそるおそる入ってきた女性は、ここに毎日遊びに来ていた小学生の女の子のお母さんでした。

放課後になると、たくさんの小中学生が遊びに来ます。いつもその女の子が「『また明日』に行ってくるね!」と楽しそうに出かけるので、「『また明日』ってどんなところ?」と聞くと、こんな答えが返ってきたといいます。

「あのね、犬もいて、猫もいて、赤ちゃんもいて、今にも死にそうなおばあさんもいるんだよ!」

それを聞いておどろいたお母さんは、ますます分からなくなって、どんなところなのか実際に見にきたようでした。中の様子を見て、ひとしきりおしゃべりをして笑顔で帰っていきました。

「また明日」では、昨日まで来ていたお年寄りが体調が悪くなって来られなくなることもあります。ときにはそのまま亡くなってしまうことも。

葉っぱを使ってお面を作ったり、草笛や笹舟を作ったりして子どもたちを楽しませてくれた「葉っぱのおじいちゃん」が亡くなった後も、お散歩中の子どもたちは、「この葉っぱ、お面にできるね」「おじいちゃんが好きな葉っぱだよ」とそのおじいちゃんの話をします。

「葉っぱのおじいちゃん」は、いろいろな葉っぱ遊びを教えてくれた。  写真提供:藤田浩司(『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』より)

みんな同じ赤ちゃんとして生まれ、いろんなことを学んで大きくなって、みんないつかは歳を重ねて死んでいく。そんな大きな時間の流れも、子どもたちが肌で感じることができる場所なのかもしれません。

足元がおぼつかないお年寄りが椅子から立ち上がれば、子どもたちは自然にお年寄りの足元のおもちゃを拾います。スタッフや大人たちがお年寄りにどのように接しているかをいつも見ているので、真似をすることもあります。

多様な人が集まれば、できる人ができることを自然にできる。困ったときは、みんなで知恵を出し合える。誰かの役に立ったり、大して役に立たなかったり。でも役に立てたらちょっとうれしい。そして、みんなそれぞれ、自分のまんまでいられる。

学校や社会の慌ただしい時間や競争から離れ、ほっとできる「また明日」には、午後になるといろいろな人たちがやってきます。

次回はそのお話をお伝えします。

〈教育学者・汐見稔幸先生から〉

人間という動物は、20万年という人類の歴史を通じて、孤立した環境で育児をした経験はありません。日本でも少し前までは、親類縁者や地域の人が関わって子どもを見ていたのです。

子育ては本来、いろいろな人が関わってワイワイ言いながら支え合ってするもので、「地域の寄り合い所 また明日」は、現代社会が失ってしまったそのような縁の場を、もう一度作り直そうとしています。今、そのように考える人たちは増えていますが、森田さんたちはそれを見事に実現していますね。

小さな子どもとお年寄りは、動き方も時間の流れもとても似通っています。特に、認知症で世間のしがらみから解放されているお年寄りは、子どもに戻りつつある面もあります。とてもいい組み合わせですね。

子どもがしようとしていることに手や口を出さず、ゆったりと見守る。子育て中の親がその様子を見て参考になることが、きっとほかにもたくさんあるはずです。

保育所、認知症デイホーム、地域の寄り合い所といった3つの機能をあわせ持つ施設「地域の寄り合い所 また明日」が一冊に。幼い子どもと認知症の高齢者が共に暮らす“強み”とは。『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(著:太田美由紀/風鳴舎)。

取材・文/太田美由紀

汐見稔幸(しおみ・としゆき)PROFILE
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

太田美由紀(おおた・みゆき)PROFILE
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。

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しおみ としゆき

汐見 稔幸

教育・保育評論家

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP