
“ピンク大好き”な子どもに戸惑い…育児とジェンダーの悩み「みんなちがって、みんなどうでもいい」と保育の専門家が語るワケ
天野諭さんに聞くジェンダーと子育て【後編】 (3/3) 1ページ目に戻る
2026.04.02
友だちとの違いで生まれる 子ども自身の気づき
ジェンダーの話題で親が迷うのは、わが子自身の問題だけでなく、子どもが外で出会った出来事を持ち帰ってきたときではないでしょうか。友だちの服装や遊び方について、「◯◯くん、幼稚園にスカートはいてくるんだよ。おかしいよね」などと話してくることもあります。
「ジェンダー・センシティブに対応するなら、“そんな言い方はやめなさい”と、つい否定してしまいがちです。でも、子どもにとって互いの違いに気づくこと自体は、自然なことでもあります」
「ですから、まずは“へぇ、そうなんだ”“あなたはそう思うのね”などと、そのまま受け止めてみてほしいんです」(天野さん)
服装に限らず、持ち物や言葉づかい、肌や髪の毛の色など、子どもは自分との違いに気づき、率直に口にします。
「そこには素朴な“気づき”があります。まずは聞き届け、そのあとで考え方を共有すればいいのではないでしょうか」
「例えば、“◯◯くんは男の子なのにピンクのランドセルで変だよ”と言われたら、“そうなんだ?”“あなたはそう思うのね”と受け止めつつ、“でも、ママは変だとは思わないよ”と考えを伝えてみる。それでも、“やっぱり変”という意見もあるかもしれません。そうした意見の違いも含めてじっくり話し合うことで、ようやく子どもに伝えられることがあると思うのです」
「自分や仲間と異なる部分があったとしても、それを理由にからかったり、相手に嫌な思いをさせたりしていいはずはないということです。つまり、他者を尊重するという人権の感覚を共有すること。こうしたことは、ただ叱るだけでは伝わらないのです」(天野さん)
みんなちがって、みんなどうでもいい
「みんなちがって、みんないい」──詩人・金子みすゞの言葉は、昨今では多様性を受け入れるという意味のスローガンとして使われています。
これを天野さんはさらに進め、「みんなちがって、みんなどうでもいい」と表現します。違いに優劣をつけず、多様であることを当たり前のものとして受け止めながら、同じ場所にいられる安心感が大切だという意味です。
「ジェンダーの話題になると、“新しい正解はこちらですよ”と言われているように聞こえてしまうこともある。でも、本来ジェンダーを考える意義は、新しいルールをつくることではなく、選択肢を増やし、社会のあり方をゆるやかにしていくことだと思うのです」
「いろんな女の子、いろんな男の子、そのどちらにも当てはまらない子──。それぞれが当たり前に存在できることが大切だと思うのです。“女の子らしく”“男の子らしく”育ってほしいと願う親がいてもいい。いろんな人が違う意見を持っていたとしても、一緒に適度な距離で安心していられる社会がいいですよね」(天野さん)
日本社会には、「みんな同じであるべき」という空気も根強く、周囲と違うことで子どもが浮いてしまわないかと、大人のほうが心配しがちです。
「“多様性を受け入れる・認める”という言い方もありますが、人はどうしても、異質なものを自分たちの枠に合わせようとしてしまうところがあります。僕自身も含めて、そこは気をつけたいと思っています。“認める”“受け入れる”という上から目線じゃなくて、“違うけれど一緒にいる”という感覚ですね。だから僕は、“みんなちがって、みんなどうでもいい”くらいドライでいいと思っているんです」(天野さん)
「ゆるさが大事」失敗を恐れなくていい
違いを気にしすぎず、それぞれが同じ場所で過ごせること。その空気が、子どもの安心につながります。とはいえ、違う者同士が一緒にいれば、ときにはぶつかることもあるはずです。でも……。
「人間関係って、ある意味“失敗”の連続だと思うんです。人は矛盾もあるし、失敗もする。だから失敗を必要以上に恐れなくていい。失敗したら謝ればいいし、また話せばいい。互いにやり直せる関係性が安心ですよね」
「ジェンダーの話題でも、子どもへの声かけでも、一発で正解を出そうとすると苦しくなる。お互いに失敗しながら、許し合いながらやっていく。ジェンダーをめぐる議論では批判的な視点も大切ですが、正しさばかりを求めていると息苦しくなることもあります。多少のゆるさが大切だと思います」(天野さん)
違いがあってもいい。間違えてもいい。親も子も迷いながらやり直し、関係をつくっていく。その積み重ねの中で、「ここにいていい」と思える場所が育っていくのかもしれません。
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天野諭さんに「子どもとジェンダー」をテーマにお話を伺う連載は前後編。子育てにおけるジェンダーの理想と現実のズレについて解説していただいた前編に続き、今回の後編では、わが子のジェンダーに戸惑いを感じたときの、具体的な対応について教えていただきました。
取材・文/佐藤 美由紀
『保育はジェンダーを語らない』(天野諭:著、かもがわ出版)
実践に基づいた、子どものジェンダーを紐解くための保育現場への提案
保育の世界には「ジェンダーの話がとんと苦手」という空気が漂っています。本書は、その沈黙がどこから生まれ、現場で何を見えなくしているのかを解剖。保育指針にわずか一文だけ書き込まれたジェンダー課題の重みを掘り起こし、子どもたち自身がジェンダー規範を再生産/再構築していくダイナミズムを、事例と最新研究で描き出します。さらに、《語り合いの環境構成モデル》など、現場でジェンダー問題を解決できるアイデアを提示。保育室で“語らない”まま不可視化されてきたジェンダーに、その不可避性を見出し、“語り合う”ための8章。
■本書のポイント■
◎保育とジェンダーを架橋する、注目の若手研究者による初の単著!——現場の保育者、保育を学ぶ学生、子どものジェンダーに関心のあるみなさんに向けて。
◎著者は2025年度・日本子ども社会学会「研究奨励賞」受賞。
◎子ども社会学、教育社会学、保育学、男性学/男性性研究——学際的な視点から、子どものジェンダー実践を捉える意欲作!
◎男の子の身体をめぐる諸問題を、事例とともにわかりやすく解説。
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