子どもの【発達障害】高額療養費制度・子ども医療費助成・自立支援医療・福祉医療 専門家がわかりやすく解説

発達障害「もらえるお金・減らせる支出」②~医療費編~

横井 かずえ

上限額を超えた分が返金される「高額療養費制度」

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
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青木教授:まず、高額療養費制度は、ひと月の自己負担額が高くなってしまったときに、負担を軽減できる制度です。高額療養費制度は、次のような特徴があります。

・ひと月の医療費が高額になった場合に軽減できる
・診療科や通院を問わずに使える
・家族の医療費を合算できる場合もある


ひと月あたりの上限額は年収ごとに決まっていて、例えば年収が300万円の人ならば、月の自己負担の上限額は5万7000円です。これを超えた金額は、手続きをすれば戻ってくるのです。(※1)

(※1 高額療養費制度の上限額は、2025年8月から段階的に引き上げが予定されています)

「子ども医療費助成」自治体によって大きな差

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より

──子ども医療費助成制度についても教えてください。

青木教授:
これは、市区町村などの自治体が行っている、すべての子どもの医療費を減らしてくれる制度です。

本来ならば、就学前の子どもは2割負担、小学生以上は3割負担となる国の医療制度に上乗せする形で、それぞれの自治体が実施する医療費の助成です。

この制度によって、通院や入院にかかる医療費が「自己負担なし」または「一部負担」となります。

ただし、この助成は自治体によって大きく差があります。

例えば通院・入院ともに、親の所得に関係なく18歳まで自己負担なしの自治体がある一方で、対象年齢が「就学前」までと非常に短い自治体から、反対に「24歳まで」と手厚い自治体まで、さまざまです。また、保護者の所得によって助成を制限している自治体もあります。

申請方法は、所定の申請書に記入して申請し、認められると「医療証」などが交付され、それを医療機関に提示する自治体が大多数のようです。

──自治体によって差が大きいのですね。

通院の負担を軽くする「自立支援医療」

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より

──「自立支援医療」とは何でしょうか?

青木教授:
自立支援医療は、障害を持つ人を対象に、国が行っている医療費助成です。

身体障害がある人への「育成医療」(18歳未満)と「更生医療」(18歳以上)、精神疾患・発達障害がある人への「精神通院医療」の3つに分かれています。

このうち精神通院医療は、精神障害者保健福祉手帳がなくても申請できます。認められれば、所得によって自己負担が1割かそれ以下まで軽減されます。

精神通院医療という名前のとおり、対象になるのは主に通院して受ける医療、つまり外来での診療・投薬が中心です。外来診療に加えてデイケアや訪問看護も対象になりますが、入院治療は対象外です。

なお、自立支援医療が適用されるのは、都道府県などが指定した医療機関のみであり、利用者が自由に医療機関を選ぶことはできません。また、発達障害と関係のない病気の医療費も対象外です。

地域ごとに独自の制度がある場合も「福祉医療」

──他にも役立つ制度があれば教えてください。

青木教授:
いま紹介した、「高額療養費制度」や「子ども医療費助成制度」「自立支援医療」などに加えて、障害を持つ人やひとり親家庭などを対象に、医療費を軽減する制度を自治体が設けていることがあります。

これは自治体によって名称がまったく異なり「重度障害者医療費助成」や「福祉医療費給付金制度」などさまざまです。

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より

青木教授:このような制度を設けている自治体の中には、精神障害者保健福祉手帳を持っている人に医療費助成を実施しているところも多数あります。

ただし、内容は自治体によってバラバラで、手帳の等級に関係なく医療費が無料になる自治体もあれば、手帳の等級が1級のみを対象として助成をする自治体もあります。

うまく活用すれば医療費の負担をさらに軽くできるので、まずは住んでいる自治体に助成制度があるかどうかを調べましょう。インターネットで調べたうえで、役所に電話で問い合わせれば確実です。

さまざまな経済的支援は、発達障害で困難を抱える人が安心して社会で暮らしていける、手助けになります。ぜひお住まいの地域の支援制度をよく知って、上手に活用してほしいですね。

──まとめ──

発達障害の医療費負担を軽減するには、国や自治体の支援制度を活用することが大切です。高額療養費制度や子ども医療費助成、自立支援医療など、さまざまな助成があります。

特に自治体による支援内容は地域ごとに異なるため、住んでいる自治体に直接問い合わせることが重要です。制度を賢く利用し、医療費負担を減らしましょう。

青木聖久教授に教えていただく【発達障害の子どもと家族が「もらえるお金」と「減らせる支出」】連載は全3回。障害者手帳についてお聞きした第1回に続き、第2回となる今回は、医療費の負担軽減制度についてお聞きしました。最後の第3回では障害年金について詳しく紹介します。

『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)

本書では精神疾患・発達障害を抱えつつもがんばって生きている22歳くらいまでの子とその家族なら受けられる可能性のある経済的支援制度の「仕組み」や「申請方法」を紹介します。

当事者だけでなく、ソーシャルワーカー、相談員、支援員、そして医療従事者など、支援者として関わる方々にもおすすめです!

〈本書で紹介する制度〉
●障害者手帳
●特別扶養手当
 児童扶養手当
 障害児福祉手当
 特別障害者手当
 自治体が独自に支給する手当
●障害者扶養共済制度
●障害年金
●高額療養費制度
 子ども医療費助成
 自立支援医療(精神通院医療)
 自治体が独自に行っている医療費助成
●生活保護制度

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あおき きよひさ

青木 聖久

Kiyohisa Aoki
日本福祉大学 教授/博士(社会福祉学)/精神保健福祉士

1965年、兵庫県淡路島生まれ。日本福祉大学社会福祉学部を卒業(1988年)後、精神保健福祉分野のソーシャルワーカーとして、精神科病院で約14年間勤務。その後、兵庫県内の小規模作業所の所長として、4年間勤務。2006年より現任校。その傍ら社会人学生として、2004年に京都府立大学大学院福祉社会学研究科修士課程修了、2012年に龍谷大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。 【社会的活動】 全国精神保健福祉会連合会(家族会)理事、日本精神保健福祉学会理事。2015年2月から2016年2月まで、厚生労働省年金局「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」の委員、2015年4月から2016年3月まで、兵庫県健康福祉部「兵庫県精神保健医療体制検討委員会」の委員、2019年11月~、愛知県一宮市「一宮市障害者基本計画等策定委員会」委員(委員長)等。 【著書】 ・単著 『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』講談社(2024年) ・監修 『すだちとともに』世音社(2023年) ・編著 『精神・発達障害がある人の経済的支援ガイドブック』中央法規出版(2022年) ・単著 『おかあちゃん、こんな僕やけど、産んでくれてありがとう ~精神障がいがある人の家族15の軌跡』 ペンコム(2022年) ・監修/解説 『障害のある人の支援の現場探訪記』学研教育みらい(2021年)  ・共編著 『現代版 社会人のための精神保健福祉士』学文社(2020年)  ・単著 『追体験 霧晴れる時 ~今及び未来を生きる精神障がいのある人の家族15のモノガタリ』ペンコム(2019年)  ・単著 『第3版 精神保健福祉士の魅力と可能性』やどかり出版(2015年) ・単著 『精神障害者の生活支援』法律文化社(2013年)、ほか

1965年、兵庫県淡路島生まれ。日本福祉大学社会福祉学部を卒業(1988年)後、精神保健福祉分野のソーシャルワーカーとして、精神科病院で約14年間勤務。その後、兵庫県内の小規模作業所の所長として、4年間勤務。2006年より現任校。その傍ら社会人学生として、2004年に京都府立大学大学院福祉社会学研究科修士課程修了、2012年に龍谷大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。 【社会的活動】 全国精神保健福祉会連合会(家族会)理事、日本精神保健福祉学会理事。2015年2月から2016年2月まで、厚生労働省年金局「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」の委員、2015年4月から2016年3月まで、兵庫県健康福祉部「兵庫県精神保健医療体制検討委員会」の委員、2019年11月~、愛知県一宮市「一宮市障害者基本計画等策定委員会」委員(委員長)等。 【著書】 ・単著 『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』講談社(2024年) ・監修 『すだちとともに』世音社(2023年) ・編著 『精神・発達障害がある人の経済的支援ガイドブック』中央法規出版(2022年) ・単著 『おかあちゃん、こんな僕やけど、産んでくれてありがとう ~精神障がいがある人の家族15の軌跡』 ペンコム(2022年) ・監修/解説 『障害のある人の支援の現場探訪記』学研教育みらい(2021年)  ・共編著 『現代版 社会人のための精神保健福祉士』学文社(2020年)  ・単著 『追体験 霧晴れる時 ~今及び未来を生きる精神障がいのある人の家族15のモノガタリ』ペンコム(2019年)  ・単著 『第3版 精神保健福祉士の魅力と可能性』やどかり出版(2015年) ・単著 『精神障害者の生活支援』法律文化社(2013年)、ほか

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2