──発達障害の人にはどうして医療費の支援が必要になるのですか?
青木教授:発達障害の症状によっては、人よりも多くの医療費がかかることがあります。
発達障害の人に多い症状として、感覚過敏があります。光や音、味や匂いや肌触りなど、体が受け取る感覚が非常に敏感で、本人にとっては刺激となってしまうような状態です。症状が強い場合、日常生活に支障をきたすことがあります。
例えば、感覚過敏のため歯磨きができない、という人もいます。口の中が極端に敏感で、歯ブラシなどの異物を入れることができないからです。その結果、歯を磨くことができず虫歯が増え、多くの医療費がかかってしまうのです。
参観日に床をのたうち回っていた息子
青木教授:『発達障害の子とハッピーに暮らすヒント』などの著書がある作家の堀内祐子さんは、発達障害がある4人の子どもを育ててきました。私も彼女と親しくしていますが、彼女の次男のエピソードがとても印象的でした。
青木教授:堀内さんの次男はとても丁寧な人で、いつでも敬語で話すような性格です。彼は匂い(嗅覚)の感覚過敏がありました。
ある日、堀内さんが参観のため幼稚園へ行くと、次男が床をのたうち回っていたそうです。
なぜかというと、保護者がたくさん教室にいることで、普段はしないはずの香水や化粧の匂いが充満し、苦しくてたまらなかったからです。
次男の様子を見て、堀内さんは「匂いが嫌なんだな」と理解しましたが、事情を知らない他の保護者や教師は、ふざけていると感じてしまうかもしれません。
このように発達障害の人は、他者からは原因が見えにくい困難を抱えています。そのような困りごとに対処するため、多くの費用がかかるケースも多いのです。
重くのしかかる医療費の負担
──周囲からは分かりにくいけれど、発達障害の人には多くの苦労があるのですね。
青木教授:他にも発達障害がある人は、通院や服薬が長く必要になることが珍しくありません。また、定期的な服薬以外にも、療育やカウンセリング、日常生活を送るためのソーシャルスキルトレーニング(SST)など、さまざまな支援が必要になることがあります。
日本は国民皆保険制度が整っているので、保険適用の治療は誰でも3割の自己負担で受けることができます。
しかし、3割負担といっても長期にわたれば家計への負担は大きいですし、そもそもカウンセリングなどは保険適用外のことも多く、医療費の自己負担が重くなります。
だからこそ、自己負担を軽減するための仕組みについて知っておくことは大切です。
──医療費の負担が大きいことがよく分かりました。具体的にはどのような支援があるのですか?
青木教授:代表的な制度として「高額療養費制度」や「子ども医療費助成制度」「自立支援医療」などがあります。ひとつずつ説明しましょう。