【子どもの発達障害】「障害者手帳」で変わる「もらえるお金・減らせる支出」 取得方法を専門家がわかりやすく解説

発達障害「もらえるお金・減らせる支出」①~基礎知識編~

横井 かずえ

発達障害の「経済的困難」

──発達障害の人はさまざまな「困難・生きづらさ」を抱えているといわれていますが、どうして経済的支援が必要なのでしょうか。

青木聖久教授(以下、青木教授):
発達障害の人が生きづらくなる要因のひとつに「見た目には障害が分かりにくい」ことがあります。

そのため、周囲から障害を理解してもらえずに、学校や仕事に行けなくなるなど、社会参加が難しくなります。その結果、生活が成り立たなくなって経済的に苦しい状況になることがあるのです。

書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
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成績はトップなのに、なぜか人が離れていくA君

青木教授:実際のケースをもとに紹介しましょう。

A君は中学・高校と成績が優秀で、テストでは常にトップでした。はたから見れば何も問題がないように感じますが、実のところ、A君は違和感を覚えていました。

なぜなら、理由が分からないまま、自分からどんどん人が離れていくからです。

中学生のころから、友だちができたと思ったら、いつのまにかその友だちが去っていく経験が何度もありました。しかし、学校では勉強ができればそれなりに評価されるので、大きなトラブルはないまま有名な大学へ進学しました。

大学に進学したある日、アルバイト先の友だちたちと食事をしているとき、A君はその中のひとりがテストで0点を取ったことが面白くて、そのことを皆に話しました。勉強ができるA君にとって、テストで0点を取ることなどあり得ません。

ですから「こんな面白いこと、皆にも教えてあげよう」と思い、まったく悪気なくその話をしたのでした。

▲楽しく話していたつもりが、思わぬ展開に…発達障害の特性でコミュニケーションに失敗してしまうことも(画像はイメージです 写真:アフロ)

青木教授:0点をバラされた友人を含めて全員が大笑いして、その場は解散になりました。ところがその夜、友人から電話がかかってきて「テストで0点を取ったことをバラされて、本当に腹が立ったし、悲しかった」とA君を激しく非難したのです。

これを聞いて、A君は仰天しました。なぜならA君は、「自分は0点が面白いと思ったから、相手も0点を面白いと思うだろう」と考えていたからです。

ですから、友人の訴えを聞いて心底驚きました。そして初めて「今まで友だちが離れていったのは、こういうことだったのか」と理解したのです。

──発達障害の特性から、人間関係がうまくいかずに、社会生活が難しくなってしまうのですね。

青木教授:
はい。A君のように発達障害のせいで他人とうまくコミュニケーションが取れずに、結果として不登校になったり仕事をやめたりして、通常の社会生活を送ることができなくなってしまうケースは少なくありません。

その結果、就職・就業が難しくなり、生活するための収入が得られなかったり、本来ならば必要ではないはずの余計な支出が発生したりすることも多くあります。だからこそ、発達障害の人をサポートするための経済的な支援が必要なのです。

福祉サービスへの入り口「障害者手帳」

──経済的支援とは、具体的にどのようなものですか?

青木教授:
経済的支援は、主に「収入を増やす」か「支出を減らす」ことに分けられます。

収入を増やす支援の代表例は「手当」や「障害年金」などがあり、支出を減らす支援の代表例としては「所得控除」や「医療費助成」などがあります。

そのような、さまざまな支援の最初の入り口となるのが「障害者手帳」です。

▲支援の最初の入り口となるのが「障害者手帳」。(写真:アフロ)

青木教授:障害者手帳を取得したからといって、それだけでお金がもらえるわけではありません。

しかし、経済的支援を受けるために必要な診断書の代わりになるほか、さまざまな福祉サービスへの入り口にもなるため、何よりも最初に知っておいてほしいのです。

障害者手帳には、「身体障害者手帳」「療育手帳(※2)」「精神障害者保健福祉手帳」の3つの種類があります。このうち、発達障害がある人を対象としているのは、精神障害者保健福祉手帳です(※3)。

(※2 療育手帳は自治体によって「愛の手帳」「愛護手帳」など名称が変わることがあります)
(※3 発達障がいと知的障がいの両方を抱えている人は、2つの手帳が交付される可能性もあります)


手帳をもらうことで、交通機関の運賃や施設利用料、通信費、税金などが割り引きされることがあります。障害を持つと行動範囲が狭くなりがちなので、こうした割引サービスは非常にありがたいものです。

割引情報を無料公開しているウエブサイトなども参考にしながら、最新の情報は直接、事業者に確認しましょう。

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