日本の公園は遊びにくい! ダウン症児の母・龍円愛梨都議が挑んだ新しい公園づくりとは

シリーズ「インクルーシブ公園」最新事情#2‐1 東京都議会議員・龍円愛梨氏インタビュー ~公園からインクルーシブな社会に~

東京都議会議員:龍円 愛梨

龍円愛梨さんと9歳の愛息・ニコくん。ニコくんは現在、都内の公立小学校に通っています(撮影時は8歳)。  写真提供/龍円愛梨
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ユニバーサルデザインの遊具を設置するなど、障がいの有無や年齢にかかわらず、あらゆる子どもが平等に遊べる場として整備された「インクルーシブ公園」。

2020年3月、都立で初のインクルーシブ公園、砧(きぬた)公園内「みんなのひろば」(東京都世田谷区)が誕生したのは、東京都議会議員・龍円愛梨(りゅうえん・あいり)さんの提案がきっかけでした。

龍円さんはなぜ、インクルーシブ公園の必要性を訴えたのでしょうか。その背景を伺いました。

※全2回の前編

龍円愛梨PROFILE
東京都議会議員。1977年スウェーデン生まれ。1999年テレビ朝日入社、アナウンス部、報道局記者として勤務。2011年に退社し渡米。2013年、カリフォルニア州でダウン症のある長男を出産。帰国後、2017年に東京都議会議員選挙で初当選。2019年には、第14回マニフェスト大賞グランプリを受賞。

2017年に都議会議員に初選出され、現在は2期目の龍円愛梨さん。仕事に育児、家事に奮闘するシングルマザーでもあります。  Zoom取材より

アメリカでは「誰もが遊べる公園」が当たり前

──砧(きぬた)公園内「みんなのひろば」は、龍円さんの提案によりインクルーシブ公園に整備されたそうですね。どのような思いで提案されたのでしょうか。

龍円愛梨さん(以下、龍円さん) 私の9歳の息子・ニコには、ダウン症があります。事実婚のパートナーとの間に彼が誕生したのが2013年、場所はアメリカ・カリフォルニア州のオレンジカウンティでした。

オレンジカウンティは西海岸ということもあり、さまざまなバックグラウンドのある方々がごちゃ混ぜに暮らしているような街です。

息子にダウン症があると告知を受けたとき、頼れる家族や知人がいる日本に帰らないとダメかなと悩みました。

でもアメリカには、障がいのある人が生まれてから生涯に渡って、ケアマネージャーを付けてくれる公的機関があるんですね。

そこを教えてもらって電話をかけたら、療育の紹介など、浴びるほどの支援をいただいて、すぐに安心して子育てができるようになりました。

その中で気づいたのが、アメリカは「インクルーシブな社会」を大切にしているということ。さまざまな人が暮らしているので「人はそれぞれ違う」が大前提で、社会を組み立てています。

私のように事実婚でダウン症のある子どもを育てている日本人であっても、一切マイノリティだと感じることなく、物事がスムーズに進んでいくことにビックリしましたね。

当時、地元のコミュニティ・カレッジに通っていて、息子の誕生をきっかけに幼児教育の授業を受けるように。その中には障がい児教育の授業もあって、そこで初めてインクルーシブ公園の存在を知りました。

アメリカには本当にたくさんのインクルーシブ公園があって、私と息子がいつも遊んでいる公園も、実はインクルーシブ公園だったんです。

──アメリカでは、それほどインクルーシブ公園が身近な存在なのですね。

龍円さん そうなんです。「インクルーシブ公園なんだ」という目線で見てみると、たしかに遊具にはスロープがついているし、背もたれ付きのブランコがあるし、砂場や水遊び用の遊具も車いすに座ったまま遊べる高さになっている。日光が苦手な人のために日除けがあるし、完全バリアフリー。

地面は柔らかいゴムチップ舗装で、まだ歩けない幼い子どもでもズリバイで移動できるし、万が一転んでもケガをしない。「なるほど。配慮が行き届いてるな」と感銘を受けました。

そもそもアメリカは、インクルーシブ公園ではない公園も、多様な子どもが遊べるように配慮しなければならないと法律で決まっています。公園以外にも施設がいろいろありましたし、遊び場には困りませんでしたね。

そんな環境にいたので、帰国して日本の公園を見たとき、どれほどショックを受けたことか……。

龍円さんの提案がきっかけでインクルーシブ公園に整備された砧公園内「みんなのひろば」。オープン直後から、多くの親子が集まっていました(2020年当時)。  写真提供/龍円愛梨

公園から日本の社会を変えていく

──日本の公園は、どのように映りましたか?

龍円さん もともと日本に住んでいたころは何も感じていなかったのに、アメリカで出産・育児を経験して、母になって改めて見てみると「なんてさびれているんだろう」と。「こんなにも子どもの遊びが重要視されていないのか」と、ショックでしたね。

インクルーシブがどうこう以前に、「いつから置いてあるの?」というような古い遊具があるし、すべり台も急傾斜。地面は土や砂利で、歩けない子どもと行くと傷だらけで泥だらけ……。

危険なので子どもからいっときも目が離せず、安全を確保するために親のほうが先に疲れてしまいます。

それでもまだダウン症のある子は親がフォローすれば遊べることが多いですが、身体的障がいのある子は遊んでいるところさえ見たことがない。

日本は暮らしやすい国だと思っていたのに、こんなにもいろいろなバリア(障壁)があるのだと気づきました。

そうして、社会が変わるきっかけのお手伝いができたらと、東京都議会議員になったのが2017年。「公園から社会を変えていきたい」と、2018年にインクルーシブ公園の整備を提案しました。

──まわりの反応はいかがでしたか。

龍円さん 都知事(小池百合子氏)はすぐに賛同してくださって、公園を管理する東京都建設局の担当の方からも「障がいのある子どもが遊べていないなんて想像したこともなかったし、ニーズがあるとも思っていなかった。でも、すごく重要なことだと思うのでやりましょう」と言っていただきました。

といっても、初めてのインクルーシブ公園になるわけですから、ゴールがわからない。まずは、担当者に私の知り合いの重症心身障がいやダウン症、自閉症スペクトラムなどの支援団体を紹介して、聞き取りをしてもらいました。

そうして多様な子どもと親の声を聞くうち、担当者の目の色がどんどん変わっていったんです。

最初は何となく「やらなきゃ」だったのが、「絶対にやらなければいけない」という思いに変わったのだと思います。職員の方々の中にもインクルーシブマインドが育っているのを感じて、うれしかったですね。

ほかにも有識者に話を聞くなど、ていねいに進めていただいて、調査・研究に1年、設計に半年、施工に半年ほどかかり、2020年に念願のインクルーシブ公園「みんなのひろば」を砧公園内にオープンすることができました。

砧公園内「みんなのひろば」の複合遊具のスロープをうれしそうに駆け上がるニコくん。  写真提供/龍円愛梨
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