「私って子どもに甘すぎ!?」子育てのさじ加減に悩む親へ2つのアドバイス

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室【13】「子どもを甘やかしてしまう」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

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パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、3歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、「子どもを甘やかしてしまう」というママ(3歳男児の母32歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

先の心配より今の子育てを全力で楽しもう

「子どもとの接し方はこれでいいのか?」「親と子の理想的な関係とは?」……。

パパもママも、日々悩まずにはいられない。大きな心配のひとつが「自分は子どもに甘過ぎるのではないか」ということ。

相談者は、我が子が悪いことをしても強く叱れず、嫌がるものは食べさせることができないなど、よくないと思いながらもつい甘く接してしまうという。同じような悩みを持つ人は多い。人生相談本の回答は、どう言ってくれているのか。

最初に紹介するのは、ひとり息子の幼稚園入園が決まったという29歳の母親の相談。「ほっとした半面、とてつもなく孤独を感じるように」なったとか。子どもがかわいくて仕方ないがゆえに、子離れできる自信がないと不安を抱いている。「こんなに悩むなら子供など産まない方がよかったとさえ思うこともあります」とも。

追い詰められている様子の相談者に、評論家の三枝佐枝子さんは、上手に子離れする大切さを説きつつ、こんな言葉をかける。

〈子離れというのは、子供の面倒を見ないのではなくて、子供をかわいがりながらも、親は親で、自分の生き方を持つことなのです。あなたが、早く自分と子供のかかわりを真剣に考えたことは、よいことだったと思います。ご自分を悲劇の主人公のように仕立てないで、あなたはよき母であると同時に、独立した、魅力ある女性である生き方を見つけてほしいですね。そうすることこそ、子供から愛され、尊敬される母親でいられる秘けつだと思うのです〉
(初出:「読売新聞」連載「人生案内」1992年2月3日付より。引用:読売新聞社編『人生の相談ごと 二十代の悩み三十代の生き方』1995年、プレジデント社)

いくらかわいくても、子どもはいつか巣立っていく。どの親も子どもの年齢に応じた「ちょうどいい距離の取り方」を模索し続けている。

この回答は、穏やかな口調ではあるが、遠回しに「子どもを猫かわいがりすることしか頭にない母親は、子どもに嫌われる」と警告しているのではなかろうか。

いずれにせよ、先回りして心配をふくらませるより、まだまだ幼い息子との時間を存分に楽しむことのほうが、きっと大切である。

かわいがられて育った子はピンチに強い

続いては、1歳の娘に甘く接してしまうと悩む24歳の母親の相談。「『ダメ』と言っても笑いかけられると、かわいくなり、よほど危ないこと以外はさせ放題です」との自分を責めている。「夫には『甘すぎる』と言われます」とも。

詩人の伊藤比呂美さんは、しつけの大事さを説きつつ、そこは大丈夫そうだと相談者を安心させつつ、こんな言葉を贈る。

〈ふつうのお母さんがふつうに甘やかしているかぎり、なが~い目で見れば、問題ありません。子育ての極意は「かわいがる」、かわいがられた子どもは、危機に強いです。自分って大切な存在なんだと自信持ってますから。思春期になりますと「自分は大切じゃないんじゃないか」ってとこにつまずいて、自分が信じられなくなってしまうらしい。そんなとき、ばかを言うでない、あんたは大切である、こんなに愛されていると教えてやるのは親の役目。今からあなたみたいにかわいがっていれば、そのへん、まちがいありません〉
(引用:「西日本新聞」連載「比呂美の万事OK」1998年4月~2002年6月掲載分より。引用:伊藤比呂美著『伊藤比呂美 万事OK 新潮社版』2002年、新潮社)

20年前に出た本だが、近ごろ流行りの「自己肯定感」の重要性を説いてくれている。「自分は子どもに甘すぎるのではないか」と悩んでいる親は、いっぽうで「節度」や「加減」を常に意識しているとも言える。ということは、際限なく甘いわけではないはずじゃ。

もしかしたら「甘やかしてはいけない」という気持ちが強くなりすぎて、理屈優先でがんばって厳しく接したりするほうが、子どもに困った影響があるかもしれない。

教育学者・汐見稔幸は意識的な距離感を重視

最後は、そろそろ3歳になる甘えん坊の息子がいるという母親からの相談。自分がつい甘やかすから息子が甘えん坊になったのかもしれないと思っている。「心を鬼にして独り立ちをさせるべきでしょうか?」という相談に答えるのは、教育学者の汐見稔幸さん。

「2歳代くらいまではべったりしていてもそんなに心配はありません」と言いつつ、親が先回りして手や口を出してしまうことの危険性を説きます。

〈子どもの方もプライドが出てきていますので、あんまりお母さんにべたべたも恥ずかしいという気持ちもそろそろ出てくるはずです。(中略)今までは子どもに任せておこうという気持ちが少なすぎたのかもしれないと少し意識的に、距離をとってあげてほしいと思います。(中略)無理に突き放すのではなく、少しずつ自分でできるように親の方で配慮して、これくらいは自分でできるはずだ、と思ったことについては「やってごらん」と温かくそばに付いていてあげる。できたら「あら、できたじゃない」と評価して、自信を育てていく。それが大事だと思います〉
(引用:ほんの木編『お母さんの悩みをスッキリ解決 子育て・幼児教育50のQ&A』2007年、ほんの木)

心を鬼にする必要はないが、心の中に「ちょっと待って。まだ口を出さないで」とブレーキをかける “もうひとりの自分”を住まわせることを考えてみてもいいかもしれん。

汐見先生は、子どもがちょっと失敗するたびに「だいじょうぶ~?」と親がコミットし過ぎると、少しずつ親から離れるチャンスが奪われるとも言っている。

あれこれやってあげることが「親の愛情」ではない。それはわかっていても、頭の中にブレーキ役のもうひとりの自分を住まわせて、しかもそのアドバイスに素直に従うのは、なかなかの難事業である。

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