松尾依里佳 母譲りの“超ポジティブ思考”が実現させた「京大現役合格」

ヴァイオリニスト・松尾依里佳さん「私の“音育”」#1 ~音楽と学業の両立編~

人生を変える恩師との出会い 表現する楽しさに目覚め「音楽の道」へ

しばらくはお母さまが情報を集めたヴァイオリン教室を転々とした松尾さんですが、14歳のとき、子どもへの指導に定評があり「ヴァイオリンの小児科」と呼ばれる工藤千博先生との出会いがありました。

「工藤先生は『表現したい』という内なる原動力を引き出してくださる方。レッスン中は工藤先生が情景を説明しながら美しい音色を聴かせてくださって、そのうちに『自分でもこんな音色が出せるようになれたらな』と思うようになったんです。

小学校の卒業文集で将来の夢を『音楽家になりたい』と書いていたものの、私の演奏した音楽を聴いた誰かが幸せになってくれたらいいな……という想いが漠然とあるだけでした。それが工藤先生と出会ったことで『ヴァイオリンで音楽の道に進みたい』と明確になりましたね」

松尾さんの人生に大きな影響を与えた工藤先生。門下生の中で14歳という年齢は比較的遅いほうで、「もっと工藤先生の教えを乞いたい」と思ったことが後の進路にも関わってきたと語ります。

「音楽家になるという目標を持ちつつも、高校は音楽学校ではなく地元の進学校へ入りました。音楽学校に入ってしまったら、その学校の先生に教えてもらうことになります。工藤先生に師事し続けるため、高校だけでなく大学も地元の総合大学へ進学することに決めたんです」

総合大学へ進学という音楽家としては珍しい進路選択をした松尾さん。さらに驚くべきは、彼女が進学先に選んだのが難関国立大学として知られる京都大学だったことです。

「高校2年生で進路を考えたとき、工藤先生に教わり続ける環境に身を置くのであれば、地元の総合大学へ進学するのがベストだと思いました。“総合大学”と決めたときに、おもしろい人が多そうなイメージがあって、ノーベル賞受賞者を輩出するなど世界をリードする京都大学が頭に浮かんだんです。京都の街で学生生活を過ごしたら自分の創作活動にもいいかも、なんて思い描きました」

「家族は、当時は私のヴァイオリンの練習に合わせて生活をしてくれていました」。  写真:小林岳夫

持ち前のポジティブ思考と集中力で京都大学に現役合格

当時の成績からはまったく見合わない志望校だったとしながらも、松尾さんが京都大学受験に挑戦することに決めたのは、お母さま譲りの超ポジティブ思考があったからだといいます。

「高2の冬休み、工藤先生に『1年間だけレッスンをお休みさせてください』と初めて伝えました。レッスンの課題をクリアするだけでも大変なので、受験勉強との両立は難しいと思っていたからです。中途半端にやるより1年でバシッと決めようと頑張りましたね」

とはいえ、ヴァイオリン中心の生活を送っていた松尾さんにとって、勉強一色の日々になることに迷いや苦難はなかったのでしょうか。

「数学は幼い頃から好きで、苦手意識はありませんでした。でも、社会のような暗記科目が全然ダメ。国立大学の受験科目に社会が必要なことすら知らなかったので、模試で問題を解かずに範囲不足で判定不可となってしまったことも。勉強するって受験科目を調べることからなんだな……なんて思いながら必死でしたね。

昔から『ヴァイオリンだけ』『勉強だけ』と偏らずにバランス良くやってきたのが功を奏したのか、効率よく勉強するのは得意だったと思います。いかに集中して身になる勉強をするかが重要、と自分に言い聞かせて、気持ちを奮い立たせていました」

ヴァイオリンのレッスンでつちかってきた集中力の高さと、それまで音楽と学業を両立させてきたバランスの良さが、受験勉強という分野でもいかされたのだといいます。

「自分ならではの勉強法として、参考書はさまざまな種類のものを買っていました。一般的には、1冊の単語帳を何周もして穴を埋めていくやり方が良いと言われますよね。でも私には、視覚から入る情報やイメージで自分の記憶にいろいろな角度からフックをひっかけていく方法が合っていました。

勉強を進めていくなかで、『今の自分の弱い部分はどこか』ということを常に意識していましたね。言わば、『自分に合った参考書選びのプロ』。自分さえ気持ちよく勉強できればいいので、『これを使えば私は絶対にできる』と自己暗示のような感じでした。

高2の冬の教科範囲不足のH判定、高3の春のE判定からスタートして、高3の秋には合格圏内のB判定まで何とか伸ばすことができました。B判定に到達した後も、さらに過去問を解いたり、論述問題に取り組んだりするなど、京都大学に特化した勉強をしていましたね。ときには自分を追い込みすぎて、いつのまにか部屋の中で気を失って倒れてしまったことがあります。今でも当時の経験を思い返すと『18歳の頃の自分に努力で負けているな』と頑張ることができます」


取材・文/柳未央(シーアール)

※松尾依里佳さんインタビューは全3回。次は21年8月2日8:00〜公開です(公開日時までリンク無効)。
【第2回】「道なき道」の先にあった夢のステージと人生の転機

12 件
まつお えりか

松尾 依里佳

ヴァイオリニスト・タレント

ヴァイオリニスト、タレント。大阪府出身。1984年1月14日生まれ。4歳よりヴァイオリンを始め、これまでに工藤千博氏に師事。2004年、京都大学在学中にステージデビューをし、これまでにさまざまな演奏活動を行う。2008年7月10日にファーストミニアルバム『First Gate』をリリース。以後、タレントやコメンテーターなど幅広く活躍。報道番組「キャスト」(朝日放送)テーマ曲「Unlimited View」や、東日本大震災を受けて作曲された楽曲「Color of Still ~祈り~」など、計4曲を収録したマキシシングル「Unlimited」発売中。

ヴァイオリニスト、タレント。大阪府出身。1984年1月14日生まれ。4歳よりヴァイオリンを始め、これまでに工藤千博氏に師事。2004年、京都大学在学中にステージデビューをし、これまでにさまざまな演奏活動を行う。2008年7月10日にファーストミニアルバム『First Gate』をリリース。以後、タレントやコメンテーターなど幅広く活躍。報道番組「キャスト」(朝日放送)テーマ曲「Unlimited View」や、東日本大震災を受けて作曲された楽曲「Color of Still ~祈り~」など、計4曲を収録したマキシシングル「Unlimited」発売中。