自分自身を創りあげていくという崇高なお仕事をやり終えた子どもは、ほめるという大人の評価やご褒美が不要になる
ほめたりご褒美をもらったりということに慣れてしまった子どもは、それがないと、当然ですがやらなくなります。常に大人の顔色をうかがったり、評価を気にしたりするようにもなります。
特にご褒美は、どんどん高いものを要求するようになります。また、ちょっとうまくいかなかったり、失敗したりすると、極端なまでに落ち込んだり、もうやらないとふてくされてしまいます。
もし、こうした状況になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか。モンテッソーリ教育では子どもの活動をお仕事と呼ぶことについては、第1回でお伝えしました。自分自身を創りあげていくという崇高なお仕事をやり終えた子どもは、ほめるという大人の評価やご褒美が不要になるのです。
モンテッソーリは子どもたちがお菓子や飾りといった褒美を突き返す、といった様子を著書にたびたび書いています。
実は私も同じ経験をしたことがあります。ずっと以前ですが、公共の場所を借りて母子のモンテッソーリ勉強会を開いていたときのことです。
時間にも限りがあるため、余裕をもってお仕事を切り上げてもらおうと、お仕事のあとは、おやつタイムにしていました。
その日もそろそろ時間だからと、おやつを準備してベルを鳴らし、「終わった人からおやつにしましょう」と子どもたちに声をかけたのですが、その日に紹介した紐を結ぶというお仕事に夢中になっている子どもたちは、見向きもしません。
しばらくたって、ようやく1人、2人と自分で区切りをつけた子どもがおやつを食べに来ましたが、1人だけは一心不乱に紐を結んでいます。みんながおやつを食べ終わって帰り支度を始めた頃、ようやく紐をほどいて片付けました。
食べなかったおやつを手渡そうとしても受け取らないので、お母様に渡して帰ってもらいましたが、そのときの子どもの顔は満ち足りて輝いていて、まるでおやつよりもずっと素晴らしいものがある、と言っているかのようでした。
手と五感を使う活動のすすめ
すぐにうまくいくようにはなりませんが、ぜひ、手と五感を十分に使う活動を親子で一緒にしてみましょう。
4歳過ぎでしたら、ほとんどの家事ができます。
食事をなかなか食べないことがお悩みなら、食に関わる作業を積極的にさせてあげましょう。自分がちぎったレタス、自分が切ったニンジン、自分でよそったご飯は、格別においしいものです。
また、お母様やお父様からも「おいしいね。ありがとう」のひとことがあれば、それこそ次へのモチベーションとなるでしょう。子どもは本来、奉仕の心を大人以上に持っていて、人の役に立つことを好むものです。
シールが好きならば、トイレに行かなくとも、たくさんのシール貼りを準備して、繰り返し貼らせてあげましょう。
丸と丸をぴったり合わせて貼る、色に規則性を持たせるなど、知性を働かせる要素がたくさんあり、さらには数的な要素もありますから、子どもは、もっとやりたい、もう1枚やる、と活動することができるのです。
こうして外的動機付けではなく、自らの内面の教師に従ってお仕事をした子どもには、ほめ言葉も褒美もいらなくなるのです。
賞罰という外的抑圧で動くのではなく、自分というものをしっかりと持った子ども、個が確立された子どもというのは、そういう子どもです。
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田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。