「つらい料理」から解放され家族が幸せに!  臨床心理士が伝授する「家ごはんの新常識」

シリーズ「賢人に学ぶ『家族のごはんがしんどい』から解放されるヒント」#3‐2 臨床心理士・公認心理師・中島美鈴さん

臨床心理士・公認心理師:中島 美鈴

手の込んだ料理でも子どもが食べるとは限りません。「食事にロマンを求めすぎると自分がしんどくなるので、『これは子どもが食べる』『これは食べない』と実験を繰り返すように淡々とでいいと思います」と中島さん。  イメージ写真:アフロ
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しんどい家事ランキングでは常に上位になる料理。お手軽レシピや作り置きなど、負担を軽くする手段は多くありますが、それでもしんどいと感じるママパパもいるでしょう。

認知行動療法が専門の臨床心理士・公認心理師・中島美鈴さんに、考え方の「認知」、振る舞いの「行動」の両面から料理がラクになるヒントを教わります。

今回は、料理に関するプレッシャーの外し方について。

※2回目/全2回(#1を読む

中島美鈴(なかしま・みすず)PROFILE
1978年福岡生まれ、臨床心理士。公認心理師。専門は認知行動療法。九州大学大学院人間環境学府の学術協力研究員。著書多数。プライベートでは小学生男子のママ。

小学6年生男児のママでもある中島さん。認知行動療法を踏まえた子育て講座を実施することもあるそうです。  Zoom取材にて

「認知の揺さぶり」でプレッシャーから解放

料理をしんどいと感じる人が、必ずしも料理嫌いとは限りません。もともと料理好きなのに、毎日のごはん作りが義務になって楽しめなくなったケースもあります。

中島さんによるとそれは「毎日のごはん作り」というプレッシャーがかかっている状態。思いきってそのプレッシャーを外すといいと言います。

「まずは、『栄養が摂れる』など健康面の最低限ラインを確保したうえで、夕飯のハードルをいったんグッと下げてみましょう。

仮に最低限ラインを『夕飯を流動食だけど栄養が摂れる“inゼリー(旧:ウイダーinゼリー)”にする』と設定したとします。

そこで、『inゼリーでも生きていける?』『うん、大丈夫』『誰も文句を言わない?』『うん、言わない』と自問自答し、考え方を変えていきましょう」(中島さん)

ハードルを最低限まで下げても「栄養は摂れるから生きていけるし、誰も文句を言わないから大丈夫」とわかれば、「毎日のごはんは簡単なものでいい」と気持ちがラクになると中島さん。

この考え方を見直す作業は、心理療法の一種「認知行動療法」の「認知」に対する揺さぶりのアプローチです。

「自分にかかっていた重いプレッシャーを外してラクになると、少しずつ力が湧いてきます。すると、『でも、固形物を食べたいからバナナまで付けちゃう?』『サラダも買おうかな? でも、レタスを手でちぎるくらいなら私にもできるな』という具合に要素を足すことができます」(中島さん)

このときのポイントは、最初のハードルを大きく下げることです。

「心理学的に言うと、極端な質問をぶつけることは、物事の捉え方や受け止め方の『認知』を揺さぶるのに有効です。

例えば、『普通は1日3食食べるでしょう』と認識していたものに対し『2食の国もあるし、それでも健康だよ』とわかれば、そこで初めて自分の認識に疑いを持つようになります。一度自分の認識から脱してみるのは大切です」(中島さん)

余力がないときの「玄関を開けたら“すっぱだか”作戦」

子どもが園や学校から帰ってきた後は、ごはん、お風呂、歯磨きなど家に帰ってからのタスクがたくさんあり、それを寝る時間までにこなさないといけません。仕事で疲れていたり、今日は料理をする余力がないという日もあります。

そこで中島さんがおすすめするのが、「玄関を開けたら“すっぱだか”作戦」です。

「家に帰ったら、まずはすっぱだかになってお子さんとお風呂に入りましょう。そうすると、ある程度疲れが取れるので、そこから料理に取りかかります。

すっぱだかになる前に少し余力があれば、オーブンや電子レンジに食材をセットして、スイッチを押してから入浴します。すると、お風呂上がりにおかずができているので、なおいいですね」(中島さん)

「炊飯器のスイッチとお風呂のスイッチを同じタイミングで押す」「洗濯機を回しながら夕飯の準備をする」のように、料理に限らず、同時にこなせる家事はあらかじめセットにしてすませてしまうといいと中島さん。

まずは平日の帰宅後に何をしているのかを書き出してみたりして洗い出し、同時にできるものがないか探ってみると良さそうです。

生活のどこに力点を置くかを考える

料理のしんどさをラクにするさまざまなノウハウを身につけると同時に、「がんばりすぎないことも重要」だと中島さんは念押しします。

「『がんばればどうにかなる』という精神論で無理をすると、体に負担がきてしまいます。

お子さんが小さいうちは、『子どもを夜9時には寝かせなきゃ』と早く寝かせることが最重要事項である家庭も多い。そうなると、忙しい平日に夕食をゆっくり楽しむ時間は取れないですよね。

お昼は給食などで栄養が摂れているなら、夕飯はコンビニのおにぎりなどで簡単にすませ、早く寝かせる方向へ力点を置いてもいいと思います」(中島さん)

「家族とゆっくりごはんを食べたい」「ごはんを簡単にすませてくつろぎたい」など、日々の生活で何を大切にしたいかは家庭によって異なります。「ごはん作り」から少し視点を広げて優先順位を考えてみると、注力すべきことが見えてきそうです。

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