映画やドラマなどを「倍速視聴」してしまう人の意外な心理 早稲田大学の教授が分析
早稲田大学の教授・石田光規さんが教える「友だちがしんどい」がなくなる方法(3)
2024.03.20
早稲田大学文学学術院教授:石田 光規
「友だちとの会話に無理して合わせてしまう」「ケンカになるのがこわくて、友だちに自分の意見が言えない」「メッセージの返信に遅れないように必死になる」などなど、友だちとの付き合いで疲れてしまう人が大人も子どもも増えています。なぜそうした「しんどさ」は生まれるのか? どうすればその「しんどさ」は軽くなるのか? 孤独・孤立と人間関係について長年研究している専門家であり、『友だちがしんどいがなくなる本』を上梓した石田光規さんが伝えるヒントをご紹介します。
メリットとデメリットで行動を決める人々
メリット・デメリットを軸に物事を考える人は少なくありません。
だれしも失敗はしたくないので、さまざまな選択肢のメリット・デメリットを吟味して行動におよぶ気もちは理解できます。私もしばしば、そういった考え方をします。
そうした考え方を人間関係にも当てはめる人はいま、少なくありません。
それに基づいた行動のひとつが、映画やドラマなどの倍速視聴です。
いつでも見られるからこそ、コスパが重視される
最近ではアニメ、映画、ドラマなどの映像コンテンツの視聴でも、それを見ることのメリット・デメリット、すなわちコストとパフォーマンスを考慮することが増えたといわれています。
倍速視聴で動画を見て、気に入ったらじっくりと見返す。
あるいは、まず結末を見て、想定どおりだったらすべて見るようにする。
このような視聴方法が流行っているのです。
その背景には、オンデマンドのコンテンツが広まったことで、番組表やお金にしばられず、多数の作品のなかから見たいものを見られるようになったという事情があります。
見たいものを好きなときに見られるからこそ、なるべく少ない時間で、自分にとってよいものを見ようと吟味するのです。
かりに、おもしろくないものであれば、それは自らにとってのデメリット、あるいはコストとしてスキップされてしまいます。
スキップされるのはコンテンツそのものだけではなく、あるコンテンツのシーンなど、かなり細かくなっています。
たとえば、恋愛ドラマにおいて、直接恋愛に関係しないシーンは、結論に不要なものとしてスキップされてしまうこともあります。
「友だちづくり」に入り込むコスパ理論
友だち関係、人間関係にもこのコスパ重視の考え方が入ってきます。
私たちは友だちをつくろうとがんばると同時に、なるべく「よい友だち」をもとうとも考えます(この発想は現代に見られがちなものです)。
そして、あなたがどんな人と友だちになるかは、基本的には自由です。
コンテンツの視聴と同じように、私たちはなんらかのものを「自由に選んでよい」といわれると、自身にとってもっともよいものを選ぼうと考えがちです。だれも損をしたくないからです。
それゆえ、友だちづき合いでは、メリット・デメリットやコスト・パフォーマンス理論が入りやすくなります。
「メリットにならないから、あの人とは友だちにならない」
「コストがかかるから、あの集まりには行かない」
といった理屈です。
コスパ理論は自分にも跳ね返ってきてしまう
問題なのは、友だち関係をメリット・デメリット、コスト・パフォーマンスで判断する考え方は、自分にも跳ね返ってくるという点です。
友だち関係は、思いが双方向で通じることにより成り立ちます。
恋愛関係と同様、片思いではなかなか友だち関係にはなれません。
あなたがメリット・デメリットやコスト・パフォーマンスを考えて相手を選ぶ権利があるように、相手にも同じ権利があります。
そうなると、友だち関係には、それぞれの人がもつ「力の量」が反映されやすくなります。
ここでいう「力」とは、外見的な魅力や、話のおもしろさ、経済的な力、頭のよさ、運動能力といったものです。
こうした魅力に乏しい人は相手にメリットを感じてもらうことができず、つながりの輪に入ることがむずかしくなります。
これが、多くの人が「友だちがしんどい」と感じてしまう理由のひとつなのです。
石田 光規
1973年、神奈川県生まれ。早稲田大学文学学術院教授。東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程単位取得退学。博士(社会学)。著書に、『友人の社会史』(晃洋書房)、『孤立の社会学』、『つながりづくりの隘路』『孤立不安社会』(以上、勁草書房)、『「人それぞれ」がさみしい』(ちくまプリマー新書)。おもな著書に『友だちがしんどいがなくなる本』(講談社)、『「友だち」から自由になる』 (光文社新書)がある。
1973年、神奈川県生まれ。早稲田大学文学学術院教授。東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程単位取得退学。博士(社会学)。著書に、『友人の社会史』(晃洋書房)、『孤立の社会学』、『つながりづくりの隘路』『孤立不安社会』(以上、勁草書房)、『「人それぞれ」がさみしい』(ちくまプリマー新書)。おもな著書に『友だちがしんどいがなくなる本』(講談社)、『「友だち」から自由になる』 (光文社新書)がある。