【小1トイレの壁】「入学前トイレトレーニング」で身につける「排泄習慣」とは 専門家が解説
小1トイレの壁#2~学校での排便~ 「学校でうんちをがまん」で体調に悪影響
2024.03.29
ライター:大楽 眞衣子
新1年生の子どもにとって使い慣れていない学校のトイレ。最初は戸惑う子も多いかもしれません。
学校トイレの7割は洋式化が進んでいますが、地域差がありほとんど和式という学校も。便意や尿意のがまんが続くと体にも大きな影響があります。
「どうしても学校のトイレでうんちするのは苦手」という子の場合、登校前に家で排便する習慣を整えておくことが得策です。入学前に知っておきたい学校トイレ問題について専門家に伺いました。
※2回目/全2回(#1を読む)
目次
便秘問題を抱えている子どもは7割
子どもたちの便秘が増加しています。
「学校のトイレだけが原因ではないですが、何らかの便秘の問題を抱えている子どもが7割程度いるというデータがあります。
トイレへ行きたくなったときにすぐ排泄できるということがすごく大事で、それをがまんしてしまうと便意をもよおさなくなってしまいます。でも学校の休み時間は短いので、その時間にトイレに人が集中します。そうなると、ゆっくりうんちをするというのがなかなか心理的に難しい部分もあると思います」
と話すのはトイレ関連企業でつくる「学校のトイレ研究会」事務局長の冨岡千花子(とみおか・ちかこ)さんです。
同研究会が養護教諭を対象に実施したアンケート調査では、学校でトイレをがまんする児童生徒が半数もいることが明らかになっています。
特に男の子は学校では個室を使いたがらない傾向があり、うんちをがまんしたまま下校し、帰ってすぐにトイレに駆け込むスタイルが習慣化している子も少なくありません。
和式は不人気のため、和式の個室が複数空いていても「洋式だけに行列ができる」というのが現場の実状です。
うんちをがまんし続けると直腸が変形
でもがまんは禁物です。前出のアンケート調査では、トイレのがまんによって腹痛やおもらし、便秘、体調不良、膀胱炎の順で子どもの体に悪影響を及ぼしていることも分かっています。
保健室の先生として30年以上のキャリアを持つ養護教諭の渡邊真亀子(わたなべ・まきこ)先生は、便意をがまんし続けると、子どもでも直腸に便が溜まってしまう恐れがあると警鐘を鳴らします。
「うんちをたくさんがまんすると直腸に便が溜まります。そうすると直腸が変形して大きくなってしまい、便意を感じにくくなります。子どもに一番大事なのは直腸に便を残さないことです」と渡邊先生。
「授業中でも行っていい」を親から子へ伝える
トイレに関する不安の中で、大きな割合を占めているのが“授業中のトイレ”です。
2023年、茨城県の公立小1年の担任が授業中のトイレ使用を強く𠮟責した不適切指導が問題になりましたが、トイレに行きたくなることは生理現象のため、授業中でも担任にトイレに行きたいと申告すれば認められます。
でも周りの目もあって、子どもたち自身は「言い出しにくい」と感じているようです。
大阪府枚方市が2022年に実施した小中学生のアンケート調査(協力:学校のトイレ研究会)によると、がまんする理由で2番目に多かったのが「授業中は行きにくいから」でした。
「トイレに行くことは恥ずかしいことじゃないよ」「授業中でも先生に伝えてから行っていいよ」と親から伝えておくことも大切です。
社会人になっても役立つ 新1年生のためのトイレトレーニング
どうしても学校のトイレで排便することが苦手という子の場合は、ぎりぎりまでがまんして下校するのではなく、「朝食後におうちで排便を済ませてから登校する」という排便習慣を身につけることを渡邊先生は推奨します。
渡邊先生のおすすめは“入学前トイレトレーニング”です。
「トイレトレーニングというと、おむつを外すための2~3歳でやるトレーニングを思い浮かべると思いますが、小学校入学に向けたトイレトレーニングもぜひ挑戦していただきたい。
目的は朝の排便習慣です。胃にものが入ると腸が大きく動き出す胃結腸反射という反射があります。それを利用して朝食のあと、便意があってもなくてもトイレに座らせてみてください。
子どもならうーんといきませてもOK。食後に3分座ってみるトレーニングを2週間は続けてみてほしいです。小学校入学前が一番大事な時期です」(渡邊先生)
朝スムーズに排便できるよう、前日の夜から食べ物を意識しておくといいそうです。
「夜のうちにヨーグルトや乳酸菌飲料、食物繊維の多いフルーツを食べておくといいですよ。この体のリズムは20、30、40歳になっても朝のルーティーンとしてずっと続きますから、とても重要です」(渡邊先生)
子どもの不安に親が寄り添ってあげる
スムーズな排便のためには、リラックスできることも肝心です。緊張していると便意があっても「やっぱりがまんしよう」となってしまいがち。
新しい環境に置かれた新1年生は緊張の連続ですが、少しでも子どもが不安を抱えないよう、親の関わり方も重要になってきます。渡邊先生に入学前後の声かけポイントを教えていただきました。
●4つの声かけポイント●
ポイント1:親が子どもをサポートしている姿勢を示す
「トイレに行くときに持っていくものや不安なことある?」「授業中に行きたくなったら先生に伝えてから行けば大丈夫だよ」などと声をかける。
ポイント2:入学後も気にかける
子どもが帰ってきたら「学校でのトイレはどうだった?」「ちゃんと行けたかな?」と声をかけ、トイレに行けたら褒めてあげる。
ポイント3:緊張や不安を解消してあげる
「先生にトイレに行きたいって言い出せない」「流し方が分からない」などの心配事を聞き出し、一緒に解決策を見つける。「失敗したら保健室で新しいパンツを借りられる」という情報も伝えておくと安心。もしジェンダーの問題で男子女子トイレを使うことに抵抗がある場合は、親が事前に担任などに相談し、男女共用のバリアフリートイレを使うなどの対策を打ち合わせておく。
ポイント4:健康に関する質問をする
「下痢はしてない?」「毎日うんちは出てる?」など会話の中で健康状態を確認する。特に便秘は聞かないと発覚しないことが多いので注意が必要。子どもは1日1回の排便が健康の目安。
「最初は誰でもたくさんの不安があるものですから、子ども自ら不安を口に出して言えることが大事です。失敗しても養護教諭が周囲に気づかれないように拭いたり、きれいなパンツに替えたりしています。ぜひ学校でがまんすることがないよう寄り添ってあげてください」(渡邊先生)
ー・ー・ー・ー・ー・
取材・文/大楽 眞衣子
※小1トイレの壁は全2回(公開までリンク無効)
#1
【参考】
学校のトイレ研究会研究誌18号『学校のトイレの挑戦!』(2015)
●関連サイト
学校のトイレ研究会
大楽 眞衣子
社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」
社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」