子どものアレルギー「部屋がきれいだと増える」? 専門医が明かす「清潔すぎる環境」の弊害
子どものアレルギー予防を考える #2 子どもにとってアレルギー予防に最適な環境とは?
2024.03.05
小児科専門医・アレルギー専門医:岡本 光宏
アレルギー対策として現在、多くの家庭で空気清浄器は当たり前のように使われています。ダニやほこりなど、アレルギー症状の原因を減らすために、何かと手をつくしたいと考える親御さんも多いことでしょう。
しかし、「清潔すぎる環境がアレルギー増加の一因になっていると考えられます」とは、おかもと小児科・アレルギー科の岡本光宏先生。
2回目では、アレルギー予防における子どもにとっての最適な環境について、岡本先生に教えていただきます。
(全2回の後編。前編を読む)
岡本光宏(おかもと・みつひろ)
日本小児科学会小児科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。
2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院などを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。
2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。
爪を嚙んでいる子どもはダニアレルギーが少ない
──前回では、アレルギー予防と動物の関係についてお話しいただきました。今回はアレルギー予防に最適な環境についてお伺いします。昨今、過度に清潔な環境が、アレルギーの増加につながっているという話を耳にしますが、これは本当でしょうか。
岡本光宏先生(以下、岡本先生):いわゆる「衛生仮説」というものですね。1989年にイギリスの疫学者によって提唱されたもので、「乳幼児期に衛生的な環境で育った子どもは、微生物などにさらされる機会が少ないため、免疫系の発達に影響を受け、アレルギー疾患を引き起こしやすくなる」と言われています。
要するに、きれい好きであるがゆえに、アレルギーが増えている可能性があるということです。これはあくまで仮説ですが、近年ハウスダスト(ダニを含む)アレルギーが増えていることを見ると、私は清潔すぎる環境がアレルギー増加の一因になっていることは間違いないだろうと感じています。
そして、衛生仮説を裏付ける根拠として、爪を嚙んでいる子どもはダニによるアレルギー性鼻炎の発症が少ないという研究結果もあるんですよ。
──それは驚きです。爪を嚙むことは親として何としてもやめさせたいと思うものですが。
岡本先生:もちろん、爪を噛むこと自体を推奨しているわけではありません。とびひができたり、歯並びに影響が出たりと、さまざまなデメリットもありますから。
しかし、爪を嚙んでいる子どもは、週に1回などではなく、気づくと常に嚙んでいますよね。つまり、爪の間にあるほこりをなめることによって、抗原曝露(こうげんばくろ・アレルギーの原因となるアレルゲンとの接触)が促されて、結果的にダニアレルギーの発症率が下がる傾向にあるというわけです。
アレルギーの観点だけで見れば、爪嚙むことに対し「百害あって一利なし」ではなく、「一利」くらいのメリットがあるとも言えますね。
見極めるポイントは「子どもが困っているかどうか」
──しかし、アレルギー予防には、アレルギーの原因となるハウスダストを除去することが重要だと言われています。実際のところ、子どもにとってどのような環境が正しいのでしょうか。
岡本先生:そこが難しいところです。アレルギーの予防に関しては、発症前と発症後で考え方が大きく変わります。例えばアレルギーにはアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ぜんそく、鼻炎などありますが、一度、鼻炎で考えてみましょう。
先ほどの話のように、アレルギー発症前であれば、子どもの免疫系の発達のためにいろいろな菌に触れたほうが望ましいと言われていますから、必要以上に清潔にしすぎる必要はありません。
一方で、アレルギー発症後であれば、アレルゲンを取り除くために、部屋はきれいな環境を維持することが重要です。特にダニを含むハウスダストは、アレルギー症状を悪化させるため、ダニの温床となりやすい寝具やカーペット、クッションなどこまめな掃除や手入れが必要になります。
ただし、アレルギーというのは、ある日を境にして発症するため、厳密にいつ発症したのかというのは把握することが難しいのです。
──確かに、人によって症状の出方は異なりますね。
岡本先生:例えば、子どもが鼻水を出した瞬間にアレルギー性の鼻炎なのか、というとそういうわけではないですよね。子どもの場合は、冷気の刺激だけでも鼻水が出てくるケースもありますから。普段、私が診察をする中でも、「この鼻水の症状はアレルギーですか? それとも風邪ですか?」と質問を受けることがありますが、どの理由で鼻水が出ているのかわからないケースが正直多いです。
つまり、アレルギーの発症前なのか、発症後なのかがわからない以上、アレルゲンを除去するために部屋をきれいにしたほうがいいのか、それとも清潔にしすぎる必要がないのか、一概には言えないということです。
――何か具体的に判断する基準はありますか?
岡本先生:一つ言えるのは、子どもが「困っているかどうか」で判断するという方法だと思います。
例えば、衣替えの際、洗っていない服を着た子どもが、ハウスダストが原因で目が痒くなったり、咳が止まらなくなってしまったりした場合、これはアレルギー症状が出ていますので、しっかりと服は洗ったほうがいいですよね。
一方で、久しぶりに出してきた服を着ても何も症状が出ない子どももいる。つまり、全員が一律にアレルギー症状が出るわけではないため、「アレルギーを予防するために、服を洗わなければならない(ハウスダストを除去しなければならない)」と考えなくてもいいわけです。
症状がなければ、無理に掃除を頑張らなくてもいい
──アレルギー症状が発症する前後で対応が異なるということはよくわかりました。しかし、子どもがアレルギーを発症していなくても、アレルゲンとなるダニやほこりなどのハウスダストを除去するために、一生懸命掃除をされている親は少なくないはずです。
特に、親がアレルギーを持っている場合、子どもがアレルギーでつらい思いをしないように、発症前から気をつかっているケースも多いと思います。
岡本先生:おっしゃるとおり、アレルギーは環境と遺伝の両方が影響するため、親御さんがアレルギーを持っている場合、お子さんに発症するリスクはあります。ただし、環境においては衛生仮説という観点から、清潔にしすぎる必要はありません。そしてもし、子どもがアレルギーを発症したとしても、それは確率の問題であり、親が責任を感じる必要はないと、私は思っています。
─そうすると、「子どものアレルギー予防のために」清潔にしていた行動について、実はそこまで気を使いすぎる必要はないのかもしれないですね。
岡本先生:もちろん、きれい好きな方が、子どものために部屋をきれいにしてあげることに対し、私は否定をするつもりは一切ありません。家族が快適に過ごせるように掃除をすることはいいことですよね。そうではなく、アレルギー予防のために、親がしんどい思いをしながらも、毎日エアコンのフィルターを掃除したり、毎日布団を干したりというのは、やりすぎかなとは思っています。
結局、「子どものために」という理由で過剰に清掃をする必要はなく、子どもが困っている場合に適切な対応をすることが良いかと思いますね。
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アレルギーを発症しないようにと、常に清潔な環境を保とうと頑張りすぎている親御さんに対して、岡本先生は「子どもが困っていなければ、無理をしなくても大丈夫ですよ」と、温かい言葉をかけてくださいました。
先生の言葉によって、常に清潔にしていなければならないというプレッシャーから解放された親御さんも多いのではないでしょうか。
岡本先生、ありがとうございました。
取材・文/山田優子
子どものアレルギー予防の記事は全2回。
前編を読む。
山田 優子
フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。
フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。
岡本 光宏
おかもと小児科・アレルギー科院長。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床研修指導医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命処置法インストラクター。 2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院、明石医療センターを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。 2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。 著書に『研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン』(中外医学社)、『小児科ファーストタッチ』(じほう)など。 サイト「笑顔が好き」 https://pediatrics.bz/
おかもと小児科・アレルギー科院長。日本小児科学会小児科専門医、認定小児科指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、臨床研修指導医、日本周産期・新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命処置法インストラクター。 2009年奈良県立医科大学部卒業。同年神戸大学大学院医学研究科小児科学分野に入局。姫路赤十字病院、明石医療センターを経て、2019年より兵庫県立丹波医療センター 小児科医長。 2023年7月、兵庫県三田市で「おかもと小児科・アレルギー科」を開院。新生児から思春期の心の疾患まで幅広く診察している。3児の父として、子育てにも積極的に関わる。 著書に『研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン』(中外医学社)、『小児科ファーストタッチ』(じほう)など。 サイト「笑顔が好き」 https://pediatrics.bz/