摂食障害は子どもにも増加 命をおびやかす「神経性やせ症」(拒食症)の現実とは[専門医が解説]

#1子どもの摂食障害「神経性やせ症」~増加の背景と原因~

内科医・一般社団法人日本摂食障害協会理事長:鈴木 眞理

行事や大会が中止に…コロナ禍で心が疲れた子どもたち

──子どもの神経性やせ症が急増した理由はどこにあるのでしょうか。

鈴木先生:コロナ禍をきっかけに、国内では約1.6倍、世界的には約2倍に増加したと言われています。コロナ禍の間は楽しみにしていたさまざまな行事や大会が中止になり、外出制限で友だちと会うこともできなくなりました。

「やりたかったことができない」「がんばってきたのに報われない」といった喪失感や孤独感によって、子どもたちにストレスがかかったことが背景にあるでしょう。

低年齢化が進む要因にはSNSも

──もともと神経性やせ症は思春期に発症しやすかったものの、コロナ禍以降は小学生低学年がかかる事例も増えたようです。なにか理由があるのでしょうか。

鈴木先生:大きな要因のひとつが、SNSがもたらすルッキズムの影響です。今は幼いうちからスマートフォンを持ち、SNSに触れています。そこで毎日のように目にするのが、「細くてかわいい」ことを理想とするような投稿です。

「やせている=正しい」「太っている=だめ」といったメッセージが、無意識に刷り込まれていくのです。とくに、まだ自分の価値観が育っていない年齢では、「やせないと認められない」といった極端な思い込みになりやすく、それが近年の子どものダイエット意識の高さにつながっています。

ただし、ダイエットをしたからといってすべての子どもが神経性やせ症になるわけではなく、いくつかの発症要因があります。

遺伝・性格・教育環境が大きな要因

──神経性やせ症が発症する背景には、どのような要因があるのでしょうか。

鈴木先生:神経性やせ症はストレスとの関連が深い病気です。ストレスが限界を超えると、まず“食べられなくなる”という身体の反応が起こります。

食べられなくなると脳にも栄養が行きわたりませんから、ものごとを正しく認識する力が弱まります。するとモヤモヤした不快感や、つらい気持ちを感じにくくなったり、ほかの子よりもやせていることで達成感を感じたりと、次第に気分がよくなるのです。

ただし、ストレスの根源となっていた問題や状況はなにも改善していません。そうするとまたモヤモヤを感じ、「ならばもっと体重を減らさなきゃ」という気持ちが強まり、さらにやせる行動を繰り返していきます。

このようにストレスを抱えきれずに神経性やせ症になってしまう人は、もともと以下のような傾向を持っているケースが多いです。

① 遺伝による影響
神経性やせ症につながる遺伝子の存在が分かっています。実際に病院に来る子どもたちからも「家族に摂食障害の経験者がいる」と聞くことも多いです。

② 子どもの性格傾向
「一度決めたことは絶対に守る」といった完璧主義や、「これをやらなかったら、とんでもないことになる」という強い恐怖感を抱きやすい子どもは、どうしてもストレスがたまりがち。“いい子”に見える子ほど注意が必要なのです。

③ 生まれ育ってきた環境
「弱音を吐いてはいけない」「最後までやり遂げなければならない」──このような価値観で教育を受け続けた子どもたちは、本来助けを求めるべきタイミングでSOSを出せず、ストレスに押しつぶされて発症するケースもあります。

神経性やせ症は、「困ったからやせたい→やせても問題は解決しない→やせたい」の無限ループになるという。  出典:『摂食障害がわかる本 思春期の拒食症、過食症に向き合う』
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