「食薬」で女性特有の不調・子どもの食習慣を改善 漢方薬剤師の知恵

漢方薬剤師・大久保愛さんが教える「食薬」のススメ#1~食薬と産後トラブル~

漢方薬剤師:大久保 愛

漢方カウンセラーとして年間2000人以上の、不調に悩む人達に応えてきた大久保愛さん。  写真提供:大久保愛

毎日摂る食事にひと工夫加えて、心と体の健康を目指す「食薬」を提案している漢方薬剤師の大久保愛さん。

著作『1週間に1つずつ 心がバテない食薬習慣』『1週間に1つずつ 体がバテない食薬習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)は、累計9万部を超えるベストセラーシリーズです。

体力勝負でもある子育てで、「疲れが取れない」など何かと体調トラブルに見舞われがちなパパママたちに取り入れて欲しい「食薬」についてお話を伺いました。(全3回の1回目)

東洋医学×西洋医学で食べて不調にアプローチ

大久保さんが提案する「食薬」とは、漢方×栄養学×腸活を組み合わせた〝体を整える食事〟のこと。

古来からの経験則に基づいた漢方の考え方と、科学的知見に裏付けされた西洋医学である栄養学、そして栄養素を体に取り入れるための重要な器官である腸内の環境整備という三本柱から成り立っています。

「たとえば漢方では、子どもの喘息やアトピーに対してはまず腸を整えることから始めます。

漢方薬の有効成分の多くは、糖類がくっついている状態なので、そのままだと十分に吸収されません。しかし腸内細菌が正しく働くことで糖類が分解され、有効成分が体内に吸収されて初めて効果が発揮されるのです。

栄養素の吸収についても同様で、腸内細菌の状態がカギとなります。これら細菌たちの状態は、食事がダイレクトに影響を与えるんですよ。

食薬と聞くと、『薬膳』などをイメージして少し難しい印象を受けるかもしれませんが、身近な食材で簡単に取り入れることができます。

冷えが気になる時はいつもの飲み物にシナモンを加えるといった感じで、今の体の状態に適した食材を、普段の食事に追加する(または控える)だけ。

西洋医学の薬のような即効性はないのですが、習慣化することで元気な体をつくることができます」(大久保さん)

幼少期の食習慣は将来の食生活を左右する

東洋医学には、両親から受け継ぎ、人間が成長・発育していく原動力である「先天(せんてん)の精」と、主に飲食を通じて得られるエネルギー「後天(こうてん)の精」という概念があります。

人間の生命活動は、両者が補い合いながら維持されると考えられており、その「後天の精」が作られる際に重要なのが食事なのです。「とりわけ大切にしてほしいのが、幼少期の食習慣です」と大久保さんは話します。

「味覚は幼少期にある程度決まるものなので、大人になって好んで食べるものって実は子どもの頃と大きくは変わらないんです。

また、ファストフードやお菓子をよく食べるお母さんに育てられた子どもは、自立後も同様に食生活が偏りがちになるケースが多いですね」(大久保さん)

それでは幼い子どもの食事にも食薬を意識したほうがよいのでしょうか。

「子育てに食薬を取り入れることは、子どもの今の健康状態を良くすることにもつながりますが、自立後の食習慣や健康状態にも良い影響を与えます。

実は、生活習慣が体に与える影響は、遺伝の10倍以上とも言われているんです。なので、『自分自身を守るスキルを子どもに与える』という意味でも、子どもが小さい頃から食習慣を整えていく必要があると思います」(大久保さん)

子どもに加えて、とくにママは積極的に食薬を取り入れてほしいと大久保さんは続けます。

「女性は、生理や妊娠、出産、更年期などでホルモンバランスが崩れやすく、心身ともに不安定な状態に陥りがち。男性と比べてメンタル面を安定させるのがとても難しいんです。

ホルモンの変動が大きいからこそ、やはり食事でバランスを整えることが大切です」(大久保さん)

産後の体調不良に「味噌汁」を使おう

ここからは、産後に起こりやすい体調トラブルごとにおすすめの「食薬」食材を紹介していきます。食材を紹介する前に、まず伝えておきたいことがあると大久保さんは言います。

「産後の体調不良には、〝お味噌汁〟を上手に活用しましょう。お味噌汁のメリットは、腸内環境を整えてくれる発酵食品であること・簡単に作れる・体が温まり健康効果が上がる・どんな具材を入れても味が整いやすい……などが挙げられます。

そして、悩み別に具材を変えていけばよいのです。具材として一番おすすめしたいのが乾物です。いつものお味噌汁にそのまま追加するだけでOK。味に深みを与えてくれるので、数種類をストックしておくと便利ですよ」(大久保さん)

「乾物は栄養価の高いものが多く、日持ちもしてかさばらないので本当に便利。ぜひ活用してみてください」(大久保さん)。Zoom取材にて

食薬① 睡眠不足には「干しエビと胡麻」

では、悩み別に食材を見ていきましょう。
まず最初に伺ったのは「睡眠不足」です。昼夜を問わない授乳やミルク、おむつ替えなど初期の育児には付きものですよね。

睡眠時間が不足すると成長ホルモンの分泌が低下して、体が修復されにくくなりストレス耐性も下がってしまうというつらい状態に……。そこで、取り入れたいのが「干しエビと胡麻」です。

「ストレス耐性が下がると、副腎(ふくじん)からコルチゾールが過剰に分泌されてホルモンバランスが崩れ、副腎自体も疲れてしまいます。

副腎とは、腎臓の上にあるさまざまなホルモンを分泌する臓器のこと。ミネラル豊富な干しエビと胡麻が、この副腎の働きを整えてくれます。胡麻は、栄養の吸収率がいいスリ胡麻がおすすめです。

また、干しエビに含まれているアスタキサンチンは、睡眠不足により大量に発生する活性酸素を除去してくれる抗酸化作用も期待できます。活性酸素は増えすぎると正常な細胞を傷つけてしまい、疲労が溜まりやすくなるんです」(大久保さん)

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