119番と「浮いて待て!」 子どもを水難から救い、親の後追い沈水を避ける鉄則

海水浴場でも注意は必要 河川・海・ため池・プール「子どもの水難事故」回避マニュアル#2

令和3年、海における子どもの死者・行方不明者は、河川、湖沼池に続き第3位の発生場所です。  写真:アフロ
すべての画像を見る(全4枚)

夏休み中、海水浴を楽しみにしている子どもは多いはず。泳ぐのはもちろん、砂浜でボール遊びをしたり、砂山作りをするなど、さまざまな遊びを楽しめます。

思いきり体も動かせるので、はしゃいでしまう子は多いものですが、夢中で遊んでいると思わぬ事故に見舞われる場合もあります。

また、天候はもちろん、コロナの影響で海水浴場が閉鎖することがあるなど、親が事前にしっかりと情報収集しておく必要もあります。

水辺のトラブルを長年にわたって調査、研究をしている水難学会会長の斎藤秀俊先生に、海で遊ぶときの注意事項などを伺いました(全3回の2回目、#1を読む)。


斎藤秀俊先生のプロフィールーーーーーーー
長岡技術科学大学教授、一般社団法人水難学会会長。工学博士。「水難は神の領域」と考えられていた水域での事件・事故について、工学、医学、教育学、気象学などのさまざまな観点から検証及び研究を行っている。テレビや雑誌、Webにて発表される記事やコメントは、風呂から海、水や雪氷まで実験・現場第一主義に徹したものを公開。全国各地で発生する水難事故の調査や水難偽装・業務上過失事件での科学捜査においても多数の実績を誇る。
【主な著書や監修書】
『最新版 ういてまて(水難学会指定指導法準拠テキスト)』(新潟日報事業社)など

海で泳いでいい場所とダメな場所の差

海水浴に行くと、海水浴場として利用していい場所と遊泳禁止の場所があります。その違いを知っているでしょうか。

「海水浴場として利用していい場所は、監視員がいるところで彼らの目の届く範囲です。遊泳禁止の場所の理由はさまざまありますが、監視員がいないところで、過去に何度か波にさらわれる事故が発生している場所といえるでしょう」(斎藤先生)

遊泳禁止の場所でも波が穏やかだと安全な海岸に見えますが、沖からうねりが入った途端に海の表情は豹変します。禁止区域での遊泳は絶対にやめましょう。

また、海水浴場だとしても、自治体のルールを無視して監視員不在の状態での遊泳も控えるべきです。コロナの影響で海水浴場が閉鎖されていた時期、次のような事故が起こっています。

「2021年8月、茨城県の日川浜海水浴場で当時8歳の男の子が波に流され、児童を助けようと海に入った男性も波に流されました。男の子はサーファーに救助されて軽傷でした。しかし、助けに入った男性は、残念ながら搬送先の病院で死亡が確認されました。

事故前日の朝、実は関東の南東に熱帯低気圧があり、台風などで発生した高い波がうねりとなって、1日遅れで茨城の海岸に到達したと考えられます」(斎藤先生)

遠い場所で発生した天候が1日という時間を経て、ほかの地域に影響を及ぼすこともあります。

夏は台風の多い季節です。「一般には実際の台風の位置よりも、少し遅れて波の影響があると考えるとよいです」と斎藤先生はいいますから、天候にも注意を払う必要があります。

「波にさらわれる」という怖さ

「波に流される」「波に巻き込まれる」「波にさらわれる」というように、水難事故のニュースではさまざまな表現がされています。このうち「波にさらわれる」という言葉を斎藤先生は次のように説明します。

「波にさらわれるというのは、人が海岸を散歩していたり、砂浜で波と戯れて遊んでいるときに水難に遭って使われるイメージです。次は砂浜海岸で人が波にさらわれる様子を調査した動画です。

被験者の2人は赤十字水上安全法指導員で水中での自己保全ができる方たちです。さらに陸上には救助要員も配置しています。調査はあらかじめ地元の海上保安署に届け出をして行っています。波の高さは人の背丈より低い状況です」(斎藤先生)

砂浜海岸で人が波にさらわれる様子

波は砂浜に寄せて、必ず沖に向かって引いていきます。砂が流れていると、人は足をすくわれてなかなか立ち上がれません。  動画提供:斎藤秀俊

「動画の最初のほうで被験者がゴロゴロと転がっている様子が映っていますが、これはワザとではありません。彼の話では『回転を止めようと思ったけれど、止まらなかった』ということでした。

そして波が襲ってきたあと、ほんの数秒で15mほど沖に流されてしまいます。これが波にさらわれるという現象です。専門用語では『戻り流れ』といいます」(斎藤先生)

波にさらわれる事故は、まずは子どもが沖に流され、それを大人が救助しようと追いかけた結果、犠牲になるケースが多発しています。

また、子どもが浮き輪をつけたまま、風によって遠くに流されるケースもあります。この場合も救助に向かった親が子どもに追いつけず、子どもは浮き輪につかまっているので助かるけれども、親は途中で力が尽きて亡くなるという「後追い沈水」が発生しています。

次のページへ 万が一、水難に遭ったらどうすればいい?
18 件