【さんぽセルと西原さん騒動】教育学者が見る子どもを軽視する大人たち

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#4〜「個」の尊重と小学生の信頼関係〜

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

子どものことを発信する前に本人確認を

西原理恵子さんの子育て漫画については、お子さんが嫌がるにもかかわらず、作品にしたこと、それを西原さん本人だけでなく出版界の大人たちも容認してしまったことの問題も指摘されていると、前述の記事で精神科医の片田珠美さんが整理されています(※2)
※2=書かないでと言った…西原理恵子の娘『毎日かあさん』無断描写に苦痛訴え物議(Business Journal)

子どもの意見を確認もせず、勝手に作品にしたり、SNS発信したりしている人たちは、それが子どもにとって時として危険な行為であることを認識しておいていただきたいものです。

そして、子どもさん自身の意見を確認していただきたいのです。

親にすら自分の意見を軽視される子どもたちは、「自分は人に誇れる個性がある」と自分自身の良さを認めることができるでしょうか?

私もこれまで子どもたちのことを、本や寄稿で書くときには、必ず子どもたちに「こういう本やウェブサイトで、あのことを書いてもいい?」と許可をとって書いています。

いまのところダメとは言われていませんが、ダメというものは書かないのが当たり前です。

写真・動画を撮影するときも、物心ついてからは、子どもたちが嫌がれば撮らない、「写真撮っていい?」と許可を得て撮る、ということを原則にしてきました(動画撮ったけどいい? と事後確認するときもあります)。

「動画撮って」「写真撮って」と頼まれるときには、もちろん撮影します。

「個の尊重」を大切に 親子でも違うから面白い

子どもの意見表明を大切にする、といっても親の気に入るような意見を言わせているのでは意味がありません。

私自身は、親子の間での信頼関係を作ること、そして親子は別の意見を持つ「違う人間である」ということ、を前提に子どもの意見を聞いてきました。

子どもたちに関わるときに、私自身が大切にしてきたのは、子どもたちに様々なやり方で「あなたが大好きだよ」と伝えることです。

小学生はかわいらしい乳幼児の時期を過ぎて、しっかりとした主張もできるようになってくる、とても興味深い発達段階です。

しかしともすれば乳幼児期に意識していた、声かけや言葉かけが、子どもの成長に安心してしまい、おろそかになりがちな時期でもあります。

「大好きだよ」と言葉にして言うときもありますし、何か楽しいことや良いことをしたときには、ニコニコと笑顔で気持ちを伝えることもあります。

悲しいことがあったときに、ぎゅっと抱きしめたり、おでこや頭をなでることもあります。

お手伝いを頼んでも、ダラダラして動かないときには、さすがに怒ってしまうときもありますが。

しかし、日常の信頼関係が、親に対する、子どもの率直な意見表明を支えます。

また親子は別の意見を持つ「違う人間である」という考え方は、「個の尊重」ともいわれる考え方です。

同じニュースを見ていても、同じ映画を見ても、面白いと感じるところや好きなキャラクターは違うし、感じとるものも違う、だから家族も人間社会も面白いのです。

それが「個の尊重」です。

子どもが自分自身の個性や意見を持ち、必ずしも親の予想や期待通りではないかもしれないけれど、それを表現してくれることは、親への信頼の証しです。

「子どものくせに生意気だ」などという考えではなく、「この子、面白いこと言うなぁ」と子どもの声に耳を傾けてみてください。

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