【さんぽセルと西原さん騒動】教育学者が見る子どもを軽視する大人たち
教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#4〜「個」の尊重と小学生の信頼関係〜
2022.06.25
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳
大人の考えを押し付ける時代は終わり 意見表明権で親子ともに考え進む日本に!
「こども基本法」により、学校でも、日本の大人たちも、今まで以上に意見表明を大切にしていく動きが広がることが期待されます。
日本では、一斉一律で授業をし、決まった正解を短時間で出す、知識注入型の教育をまだまだ重視する学校もあります。
しかしそうした決まりきった学びを押し付けられてきて、自分自身の考えや正解を出す力「エージェンシー」を持てなかった大人たちが、小学生の発明をバッシングする残念な人になっているのではないでしょうか?
そしてそんな大人たちばかりではなく、小学生の発明に素直に関心したり、応援する大人たちも増えています。
日本の教育も「エージェンシー」に注目するようになり、子どもたちがそれぞれに考え、表現できる「主体的で対話的な学び」を大切にするようになっています。
「失敗」という言葉がない小学校
最後に、私の子どもが通う小学校のことを、自慢させてください。
この小学校では、子どもたち同士が対話しながら作品を作り上げる表現活動に小学校6年間を通じて取り組んでいます。
先生たちも子ども同士も、お互いの思いを言葉にしたり、言葉以外でも表現し対話し、受け止めあうことを大切にしています。
いわば学校全体の様々な場面で、子どもたちの意見表明を大切にしている学校でもあります。
その活動の中で、あるとき校長先生が「この学校に失敗という言葉はありませんね、みんなの努力や挑戦が素晴らしいです」と子どもたちに向かっておっしゃったのです。子どもたちも担任の先生たちも、その場にいた保護者もとてもうれしい一言でした。
子どもたちが挑戦してうまくいかないことを「失敗」ととらえるのではなく、「努力や挑戦」として前向きにとらえ、子どもたちを育む大人の姿勢がこの言葉に込められています。
子どもの意見や声、挑戦を尊重することで、子どもたちは、大人たちと信頼関係を深め、失敗など気にせず、どんどん前向きに挑戦するようになっていくのです。
子どもの意見表明権は、大人によって子ども・若者の声が封じられ、閉塞し、子ども・若者から元気が奪われている日本が、前向きに進化していくための、もっとも重要な子どもの権利です。
子どもが大人に安心して意見やアイディアが言え、大人もそれを聞き、子どもと大人でともに考え進むことができる日本になったとき、「自分の行動で国や社会を変えられる」と信じる子ども・若者が、元気に活躍してくれるようになると思いませんか?
小学生はそのような子どもたちの「エージェンシー」を育てる上でとても大切な時期なのです。
子どもの意見や声に耳を傾け、親が子どもに目線を合わせ、「失敗」ではなく「努力や挑戦」なのだととらえ、励ますこと。
みなさんも、子どもたちの声や意見を聞き、ともに考え進みながら、子どもたちと「エージェンシー」を育んでみませんか?
※この記事は子どもたちの同意を得て執筆・公開されています。
末冨 芳(すえとみ かおり)
日本大学文理学部教育学科教授。専門は教育行政学、教育財政学。2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画、現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。
末冨 芳
日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。
日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。