「子どもの権利」を守ると子どもの約7割の「自己肯定感」が高く! 69地域に拡がった「子どもの権利条例」想定外の効果
子どもの権利条約批准30周年“子どもの権利”の現在地#3~「子どもの権利条例」がもたらしたもの~
2024.12.28
フリーライター:浜田 奈美
子ども自らからアドボカシーを要請
しかしそこで折よく登場した支援の取り組みがあります。「子どもアドボカシー」です。
子どもが自分の願いや意見を発信できるように支援し、ときには代弁者となる取り組みです。
国内で相次ぐ痛ましい児童虐待事案を受け、国連は2019年、「子どもが自由に意見を表明する権利を確保するように」と日本政府に勧告を出しました。政府は児童福祉法を改正し、「アドボケイト」と呼ばれる「意見表明支援員」が、児童相談所や児童養護施設などで子どもの意見を傾聴し、受け入れることを努力義務化したのです。そして2022年には「子どもアドボカシー学会」も誕生し、民間団体の取り組みも始まりました。
昨今、この「子どもアドボカシー」が、児童福祉以外の現場でも実践されています。一例として、中部地区のある学校の生徒から「民間アドボケイト」の要請があり、進路指導の場に同席したそうです。学校側の勧める進路先と、生徒自身の希望が折り合わず、子ども自身の意見表明を支え、代弁する役割を担ったそうです。
今後はこの「子どもアドボカシー」の観点が、「子どもの権利」を保障するうえでも必要とされていくのかもしれません。
川崎市では子どもの自己肯定感が7割超え
ところで約25年前に川崎市から始まった「子どもの権利条例」ですが、この条例によって、川崎の子どもたちにどんな変化があったと言えるのでしょう。喜多さんの答えはこうです。
「実感としては二つあります。子どもの権利条例を作った子どもたちや条例の恩恵を受けた子どもたちが、どんどん地域の担い手になっていること。そして、時間とともに変動はありますが、子どもたちの自己肯定感が上がったことです」
川崎市の条例施行から4年後の2005年、条例の「成果」を検証したところ、市内の子どもたちの「自己肯定感」が「72.9%」を記録したそうです。内閣府の調査では、日本の若者世代の自己肯定感は5割前後で、世界的にも低い傾向にあることを思えば、破格の高さです。
時間と共に条例の効果には波もありますが、昨年(2023)3月の調査結果でも、自己肯定感を尋ねる「自分のことを好きか」との問いに、「好き」「だいたい好き」と答えた子どもは約7割でした。
つまり10人のうち7人の子どもが、自分に自信をもって元気に生きていることになります。
「子どもたちが参加する権利や自分で決める権利を大切にした結果だと思います。もちろん川崎にも課題はたくさんたくさんありますが、子どもたちのための施策がしっかり実施されることが、子どもたちが笑顔を守れるか否かにつながっていると思います」
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国連子どもの権利条約の批准から30年という時間が立ち、日本の子どもたちの権利をめぐる状況は、本当に少しずつではありますが、「良い方向」へと進んでいるようです。しかしそれでもまだ、子どもたちの声は大人たちや学校現場、社会の中でかき消され、虐待もなくなってはいません。
「10割」の子どもたちが元気で過ごせる日が来るように、一人一人の大人が子どもたちの権利について思いを巡らせ、自分の権利と同等に、誠実に向き合う必要があるでしょう。
取材・文/浜田奈美
浜田 奈美
1969年、さいたま市出身。埼玉県立浦和第一女子高校を経て早稲田大学教育学部卒業ののち、1993年2月に朝日新聞に入社。 大阪運動部(現スポーツ部)を振り出しに、高知支局や大阪社会部、アエラ編集部、東京本社文化部などで記者として勤務。勤続30年を迎えた2023年3月に退社後、フリーライターとして活動。 2024年5月、国内では2例目となる“コミュニティー型”のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)に密着取材したノンフィクション『最後の花火』(朝日新聞出版)を刊行した。
1969年、さいたま市出身。埼玉県立浦和第一女子高校を経て早稲田大学教育学部卒業ののち、1993年2月に朝日新聞に入社。 大阪運動部(現スポーツ部)を振り出しに、高知支局や大阪社会部、アエラ編集部、東京本社文化部などで記者として勤務。勤続30年を迎えた2023年3月に退社後、フリーライターとして活動。 2024年5月、国内では2例目となる“コミュニティー型”のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)に密着取材したノンフィクション『最後の花火』(朝日新聞出版)を刊行した。