【子どものうつ病】は小学生~思春期の20人にひとり イライラ・過食・過眠 …「うつ病」のサインを見逃すな! 専門医が解説

子どものうつ病#1 ~子どものうつ病と注意すべきサイン~

北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授、児童思春期精神医学専門医:齊藤 卓弥

齊藤卓弥先生(以下、齊藤先生) 2020年に私と弘前大学が行った研究では、学童・思春期(小学4年生~18歳)の子ども8003人のうち、13.6%に「中等度のうつ症状」があり、このうち3.4%には「やや重度のうつ症状」、1.5%には「重度のうつ症状」が観察されました。

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一般人口を対象とした子どもの自殺念慮・企図を含む抑うつ症状の現況/国立大学法人弘前大学

標準的な学校の1クラス(26~35人)にひとり以上、「やや重度から重度のうつ症状」の子どもがいることになります。12歳以上になると、うつ病の有病率は大人とほぼ同じです。

以前は、世界的に「子どもはうつ病にならない」と考えられていました。落ち込んだり悲しくなったりする“うつ状態”はあっても、まだ自我が確立されていない子どもは、うつ病にはならないと思われていたのです。

子どもも大人と同じようにうつ病になると言われ始めたのは、1970年から1980年にかけてのこと。そこから急速に研究が進み、アメリカでは年々うつ病の子どもが増えているとの報告があります。今、アメリカの精神科医療でもっとも重要視されている問題のひとつが子どものうつ病と自殺で、大きな社会問題になっています。

日本でも2023年にこども家庭庁が発足し、子どもの自殺予防に力を入れています。自殺とうつ病は密接に関係しているところがあり、子どものうつ病に対しても行政の関心が高まっていると感じています。

うつ症状で見逃しがちな「イライラ」「過食」「過眠」

──子どものうつ病は大人に比べて見逃されやすいと聞きますが、なぜでしょうか?

齊藤先生 子どものうつ病の症状は、大人とは違った表れ方をする場合があります。例えば、大人のうつ病は悲しい、ゆううつ、無気力といった「抑うつ気分」が代表的な症状ですが、子どもはイライラしたり反抗的に怒ったり「易怒(いど)的な気分」として表れることがあります。

また、食欲障害は、大人だとだいたいが「食欲不振」ですが、子ども、特に思春期の子は食欲が過剰になる「過食」になるケースも。睡眠障害も大人は「不眠」になりがちなのに対して、子どもは十分に寝ていても過度な眠気が生じる「過眠」をきたすことも多いです。

親からすれば、わが子が反抗的な態度をとり、よく食べて、ゴロゴロ寝てばかりいたとしても、まさかうつ病だとは思わないですよね? 反抗期や思春期特有の行動だと思われる親御さんもいるでしょう。一般的なうつ病のイメージと異なる症状が表れる点は、子どものうつ病が見逃されやすい理由のひとつだと思います。

年齢とともに症状が変化する

──大人のうつ病に比べて、症状に気づきにくいのですね。

齊藤先生 子どものうつ病は、年齢とともに増える症状、減る症状、Uカーブを描く症状があるのも特徴です。

例えば「絶望感」「妄想」は、学童期(6~12歳ごろ)では多くありませんが、思春期・青年期になると増えます。反対に「抑うつ的な表情」「お腹が痛い、吐き気がするなど身体的な訴え」「幻聴」「癇癪(かんしゃく)」は、だんだんと減っていきます。

Uカーブを描く症状とは、学童期は少なく、徐々に増えて思春期・青年期にピークを迎え、成人になるとまた減ってくるもの。「食欲障害」「睡眠障害」、重度のうつ病だと「自殺念慮」が挙げられます。

自殺念慮による自殺行動は思春期・青年期に多く見られる症状のひとつで、リストカットやオーバードーズ(薬の過剰摂取)など、さまざまな形で自分自身を傷つけます。必ずしもそれらがすぐに自殺に結びつくわけではありませんが、「死にたい」と考え、比較的容易に行動に移す危険性も高いです。

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