49歳男が12歳女児相手に「恋人とセックスした」 性虐待加害者が正当化する“3つの認知のゆがみ”

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生に聞く 小児性犯罪加害者の実態#2「加害者のゆがんだ認知」

大船榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士:斉藤 章佳

「小児性犯罪は、ほかの性犯罪と比べて過去同様の加害行為を複数回行っている者の再加害率は、群を抜いて高いことがわかっている」と斉藤先生。  写真:アフロ

子どもを狙った性犯罪が相次いでいます。防犯ブザーを持たせるなど、子どもを被害から守るためにさまざまな防犯対策を講じている親も多いのではないでしょうか。

しかし、「加害者がどのようなアプローチをしてきて、この世界をどう見ているのかを知らないと本当の意味での防犯にはならない」と話すのは、200人以上の小児性犯罪者の再犯防止プログラムに携わってきた加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生。

今回は、加害者が「そのときどう考えているのか」、小児性犯罪者特有の思考の偏りや再加害率の高さなどについて伺っていきます。

※2回目/全4回(#1を読む

斉藤章佳(さいとうあきよし)PROFILE
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。精神保健福祉士・社会福祉士。現在まで治療に関わった性犯罪者の数は2500人以上、小児性犯罪者は200人以上に及ぶ。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)ほか著書多数

大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳先生。

小児性犯罪者特有の3つの「認知のゆがみ」

『私とYちゃんはつき合っていました。恋人同士だったんです。~中略~愛し合っているなら当然のことでしょう? そりゃセックスもしましたよ。』(『「小児性愛」という病──それは、愛ではない』〈ブックマン社〉より引用、以下『「小児性愛」という病』)

これは、12歳の女児に性加害をした49歳男性の言葉です。

斉藤先生によると、加害者は自らの加害行為を完遂するために、見ていることや感じていることをゆがませて捉え、正当化しているといいます。「相手はよろこんでいる」「求めている」などと都合よく解釈するのです。

これらを「認知のゆがみ」と呼び、大きく3つの特徴があるといいます。

「1つめは『純愛幻想』です。たとえ周りからどんなに批判されても、子どもは黙って受け入れてくれていた(黙る=受容)。子どもの無知や弱さを巧みに利用し、子どもと自分は純愛によって結ばれているというゆがんだ捉え方です。

2つめは『飼育欲』。子どもは何も知らないまっさらな存在であり、自分が教え、育てることで肉体的にも精神的にも成長させてあげることができる、いずれはセックスを経験するのだから先に教えてあげる、これは性教育の一環だなどと考え、対象児童を『ペット化して育て上げる』という感じです。

子どもの生殺与奪(せいさつよだつ)の権を自分が握っているという感覚。実際に手を下すかは別として『騒がれたときは殺してしまえばいい、だって騒ぐほうが悪いんだから』と思っている加害者もいます。

3つめは『支配感情』。彼らがよく言う『かわいい』には、自分の存在を絶対におびやかさないという保証が含まれています。彼らの中には同世代女性とのコミュニケーションにおける挫折経験などから、異性にモテない、または収入が低い、外見が劣っているなどと一方的な劣等感を抱いている人が多い。

しかし子どもはそんな自分を受け入れてくれると解釈し、承認欲求を満たしてもらっている面もあります」(斉藤先生)

クリニックの調査では、彼らの多くは、学生時代にいじめ被害経験があることもわかっています。

「データはまだ少ないですが、117名のうち半数以上がいじめ被害に遭っていました。痴漢・盗撮の加害者と比べると、多いですね。

なかには女子の前でズボンを脱がされる、自慰行為を無理やりさせられるなど、自尊心を根こそぎ削るような男性間での性的ないじめに遭っていた人もいます。

いじめ被害経験、とくに性的ないじめ被害の経験が必ずしも将来の性加害のリスクになるわけではありません。しかし、性犯罪を防止するためのひとつの切り口としては、公教育におけるいじめ問題への適切な介入は非常に重要なポイントかと思います。周囲の大人がなるべく早期発見・早期介入し、適切にケアすることが必要です」(斉藤先生)

やめられない──高い再加害率

小児性犯罪者のもう一つの特徴として挙げられるが「再加害率の高さ」です。

「加害者臨床の現場でも、子どもへの性加害に再加害が多いのは、行為そのものに耽溺(たんでき)してしまい、やめたくてもやめられない状態に陥っているからです。その衝動性と常習性はほかの性犯罪と比べても別格で、彼らは対象児童にあらゆる手段を使って接近します」(『「小児性愛」という病』より)

法務省の法務総合研究所の調査(※1)によると、性犯罪前科2回以上の人は、小児わいせつ型では84.6%に上ることが分かっています。
※1=性犯罪に関する総合的研究(法務省 法務総合研究所)

「これは母数が13件と少ないため、サンプルをもう少し集める必要がありますが、臨床的な感覚でも、通院継続中の再加害によるドロップアウト率は高いという印象があります」(斉藤先生)

加えて斉藤先生は、「事件化するのは氷山の一角」とも指摘します。

「我々は、2018年から、子どもへの性加害を経験した小児性愛障害と診断された人に特化した治療プログラムを実施していますが、ほぼ全員、逮捕がきっかけで来院するんです。

ただし、初めての加害行為から当プログラムにつながるまでの平均期間は約14年。その間にも性加害を繰り返しているので、暗数(表に出ない数)となっている犯罪はとても多いと考えられます。このうち、示談や不起訴などで刑事手続きに乗らないケースを入れると、膨大な数字になることは想像に難くありません。

彼らは『逮捕されないこと』が大事なことなので、第一目標は『バレずにやる』なんです」(斉藤先生)

斉藤先生の著書『「小児性愛」という病』によると、性加害をするために事前の下調べをし、子どもが学校から帰る時間や習い事に出かける時間、どの公園に遊びに行くか、ひとりになるタイミングなどの行動パターンをつぶさに把握しているタイプの加害者もいるそうです。

バレないように加害を繰り返し、逮捕されることでようやく自分の問題に向き合う機会を得る小児性犯罪者。彼らが抱える「小児性愛障害」が精神疾患なのであれば、適切な治療や教育を受ければ治るのでしょうか──。

治療の第一目的は「再犯しないこと」

「小児性愛障害」は治るのか──。この問いに斉藤先生は「ドロップアウトする人も多く、治療定着率は高くない。子どもへの性加害の欲求はずっと消えないため、治るというよりは、自己統制する力をプログラムを通してトレーニングし、やめ続けることはできる」と話します。

斉藤先生が再犯防止プログラムに携わってきた2500人以上の性犯罪者のうち、3年以上治療を継続している長期定着群はわずか100人ほど。1回目の受診後に約半分は来なくなるそうです。

「再加害防止を第一目的としたこの治療プログラムでは、加害行為をしてしまう『引き金(トリガー)』を把握し、リスクが高まったときの効果的な対処法を事前に決めて反復練習しておく『再犯防止計画(RMP:リスクマネジメントプラン)』を継続して作っていくなどの取り組みを行います。ハイリスクな人は、クリニックで週6日、朝9時から夜7時までフルでさまざまなプログラムに参加します。

このプログラムに終わりはありません。加害者は、自分がしたことの記憶を早々に手放すからです。これを加害者臨床では、『加害者は早期に加害者記憶を忘却する』と言いますが、加害行為に及んだことをはじめ、加害発覚後に離婚の話が出たり、仕事を辞めることになったりが起こったとしても、自分にとって都合の悪い記憶って、人間は案外、思い出さないんです。

ですので、再加害しないためにはここへ来て、自分にとって都合の悪い過去の加害の記憶を思い出す作業を繰り返ししていかなければならない。

責任の取り方や向き合い方はそれぞれありますが、当事者によっては一生通院することが被害者に対する最低限の再発防止責任なんだと考える人もいます」(斉藤先生)

性加害経験者たちは、こうして「再加害しない日」を積み上げていくといいます。

専門のプログラムを受講しない限り、ゆがんだ認知で罪悪感もなく犯罪行為を正当化させる彼らは、実際にはどのように子どもを魔の手にかけるのか。

次回は、近年、子どもの性被害を生む背景として問題視されている「性的グルーミング」の、その巧妙すぎる手ぐちについて伺っていきます。

「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手ぐちで迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がなすべきことを提言する『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(著:斉藤章佳/幻冬舎新書)。

取材・文/稲葉美映子

※斉藤章佳先生のインタビューは全4回(公開日までURL無効)
1回目を読む
3回目を読む(2024. 1/11公開)
4回目を読む(2024. 1/12公開)

さいとう あきよし

斉藤 章佳

Akiyoshi Saito
大船榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士

大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 専門は加害者臨床で、現在まで2500人以上の性犯罪者(小児性犯罪者は200人以上)の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、新刊に『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『つながりを、取り戻す。』(ブックマン社)などがある。

大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 専門は加害者臨床で、現在まで2500人以上の性犯罪者(小児性犯罪者は200人以上)の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、新刊に『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『つながりを、取り戻す。』(ブックマン社)などがある。

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。