【男の子の性教育】子どもに「初めての射精:精通」をどう教える? 親のサポートを専門医が伝授

「子どものマスターベーション」で親が知っておくべきこと#1 ~精通の教え方編~

泌尿器科医・聖隷浜松病院リプロダクションセンター長:今井 伸

思春期を控えた男子を持つ親なら知っておきたい、精通・射精のこと。中高生に向けた性教育の講演を行う、泌尿器科医の今井先生にお話を聞きました。  イメージ写真:アフロ

幼少期から性教育をしていくことが大切といわれる昨今。

プライベートゾーンや、女子の生理、ジェンダーなどが話題の中心になる一方で、少し置いてきぼりにされているのが「男子のマスターベーション(オナニー)」の話。

「現代の性教育では、もっとも肝心な“射精”についての正しい知識を教えていない。正しく射精を知ることは、より良い性生活を送る基礎になる」と話すのは、聖隷浜松病院のリプロダクションセンター長兼総合性治療科部長で、泌尿器科医の今井伸(いまい・しん)先生。

子どもたちが性について健全な価値観を育み、性犯罪の被害者にも加害者にもならないために、正しい射精教育、なかでもマスターベーションの話は必要で大切なこと。

でも、母親にとったら男子の「射精」は未知な世界。子どものマスターベーションを考える前に、まずは初めての射精である「精通」について、今井先生に教えてもらいました。

●PROFILE 今井伸(いまい・しん)
1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。近著に『射精道』(光文社新書)など。

※1回目/全3回

まずは睾丸から大きくなる

思春期とは、二次性徴が始まって、身体が成熟するまでの期間を指します。性ホルモン分泌量が上昇して性差がはっきりと分かれ、女子は10歳ごろから、男子は12歳ごろには身体の変化が顕著になると言われています。

この二次性徴を迎える前後に、女子には初めての生理である「初潮」が、男子には初めて精液が出る「精通」が起こります。

「男子の二次性徴の過程としては、まず精巣、いわゆる睾丸が大きくなるんです。それに従って精巣が入っている袋の陰囊(いんのう)や、ペニスこと陰茎(いんけい)も大きくなり性器や脇に毛が生え、声変わりが起こります。人によって多少の差異はあるものの、この順番で成長をしていくことが一般的です」(今井先生)

身長がグンと伸びたり、喉ぼとけが出てきたり、筋肉質になったりと、男子の外見に変化が起こってきますが、「身体に大きな変化を感じないうちにも、精通が起こる場合がある」と今井先生は続けます。

男子の精通は、早くて10歳、遅くとも18歳くらいまでには経験するというデータもあります。

「10代後半の思春期は、生涯の中で男性ホルモン(テストステロン)がもっとも分泌される時期。精巣の容量がふえ、精子がたくさん作られるその時期に、精液を外に出すのは当たり前の生理現象です」(今井先生)

精通はどうやって起こるのか

では、初めての射精である「精通」は、いつ、どういったタイミングで起こるものなのでしょうか。

「子どもによっては、友達などから得た知識でマスターベーションをやり始めてみる子もいるでしょう。また、マスターベーションという事象を詳しく知る以前に『なんだか気持ちよくて性器をいじっていたら出てしまった』と射精を経験する子もいる。一方、本人の意思とは関係なく、夢精で精通を経験する子もいます」(今井先生)

睡眠時に勃起をし、射精をするのが「夢精」。性的な夢を見ることで起こると言われていますが、オルガズム(性的快感)を伴わない場合もあります。

「精巣(正確には精巣上体)にたまった精子(精液)をどういう方法で放出したか。夢精の場合は、自らの意思で射精をしたわけでないので、戸惑う子もいるかもしれません。

女子に初潮を伝えるときと同じく、あらかじめ親は『夢精といって、寝ている間にパンツが汚れてしまうことがあるかもしれないよ』と、伝えておくといいですね。同時に下着の洗い方も教えておくと、自分で対処できます」(今井先生)

夢精にしても、マスターベーションによる射精にしても、精通が起こったということは子どもを作る準備ができた、ということ。女子の初潮と同じく、男性には大きなイベントです。

「精通には一人一人のドラマがあります。このころを機に、エッチなことを考えたり、マスターベーションを始めたりと、男子の性生活は変化をしていくでしょう」(今井先生)

精通を迎える前に伝えておくべきこと

今井先生は、著書「射精道」の中で、思春期・青年期・中高年向けの射精の心得をまとめています。近年は「子どもの性教育のために保護者の心構えが知りたい」との要望が増え、保護者編の射精道を考案しました。

今井先生が考案した「射精道(保護者編)」。「大人が恥ずかしがることなかれ」など11の心得はユニークかつ鋭い。  図制作:コクリコ、原案:今井伸

「まずは、性や性器について親が正しい知識を持ち、恥ずかしがらず、淡々と伝えることが大前提。

そのうえで、《三.性器いじりを厳しくとがめるべからず》や《十.オナニーを否定するべからず》などがあります。これらは、幼少期から少しずつ子どもたちに刷り込んでいくことで、性に関する価値観が醸成されます」(今井先生)

また、《五.親がすべてを教えようとしなくて良い》のも、重要なところ。ではどう伝えていくべきかというと《八.客観的事実を淡々と伝えるべし》。

「性に関することって、なかなか話しづらいですよね。あれもこれも親が教える必要はなく、最低限の知識だけ預けてあとは子どもたちに任せてみる、でいいんです。

《七.昆虫や動物の交尾から導入する》ことで、あくまで日常会話で自然に性やセックスについて話していくことが大事なのではと思います」(今井先生)

性に関するベースとなる知識と、「マスターベーションは恥ずかしいことやいやらしいことではない」という価値観が親子にあれば、間違った方法やゆがんだ性生活を送ることにはならないのです。

二極化する性への興味や反応

「僕らが子どもだったころと比べると、現代の子どもたちは性に早熟な子は、より早熟となっている印象ですね。情報も多いし、子どもたちが安易に触れられるコンテンツも増えましたから。

一方で、『性的なものを気持ち悪く感じてしまう』なんていう男子も増えていて、性に対する二極化が起こっていると感じます」(今井先生)

性欲の強い子はエッチなことで頭がいっぱいになり、思春期には一日のうちに何度もムラムラとした気持ちを経験する子も。そんな子たちは次々と刺激を求めていきます。

反対に、性的なものに抵抗を感じる子たちは延々とそういった情報やコンテンツを避けて通るので、性に関する知識が遅れていくのです。

「思春期の有り余る性欲は、発散する以外に解決法がないので、どんどんマスターベーションをしていいんです。それよりも、性に興味のない子、反応の薄い子たちが気がかりですね。将来的にゆがんだ性嗜好を持つことにならないか、という懸念もある。今は、両方に対応する性教育をしていかなければいけないと感じています」(今井先生)

─・─・─・─・

精通が起こった後、男子のマスターベーション生活はスタートします。「一日に何度やってもいいもの」と今井先生。

では、子どもにとって健全なマスターベーションとは一体どんなもの? それって誰が、どのように子どもたちに伝えるの? 

次回は、子どものマスターベーション基礎知識について、引き続き、今井先生へお話を伺います。

思春期、青年期、妊活、中高年、射精障害克服編など、年代に応じた性生活・射精生活の心構え、その問題と対策を解説した今井伸先生の著書『射精道』(光文社新書)。

取材・文/遠藤るりこ

※「子どものマスターベーション」で親が知っておくべきこと は全3回(公開日までリンク無効)
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いまい しん

今井 伸

Shin Imai
泌尿器科医

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe