「やさしい先生」こそ要注意? 日本版DBSでは防げない「グルーミング」と「男児性被害」の深刻な実態[専門家が監修]

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生インタビュー #2「性加害が起きる構造」 (2/3) 1ページ目に戻る

西川口榎本クリニック副院長:斉藤 章佳

「日本版DBS」(こども性暴力防止法)は、子どもと接する業務に就く人について、過去の性犯罪歴(刑の終了から最長20年)を確認し、現場に「前科のある人」が入り込むことを防ぐ制度です。

学校や認可保育所など公的施設には対応を義務づけ、学習塾や放課後児童クラブなどの民間事業者には任意の認定制度が設けられています。

日本版DBSによって、職業を通じた性加害は一定程度、減っていくかもしれません。ただ、性被害には、そもそも表面化していない被害が数多く存在しているという現実もあります。

なかでも深刻なのが「性的グルーミング(以下、グルーミング)」だと小児性加害者を臨床現場で300人以上見てきた斉藤章佳先生は警鐘を鳴らします。

性被害の文脈で使われるグルーミングとは、子どもと信頼関係を築き、関係性を巧みに利用しながらまるで特別な関係があるかのように思い込ませて、性的な接触をする加害行為のこと。

加害者は一見すると「親切な大人」「面倒見のいい指導者(先生)」であることも多い点が、この問題をより厄介なものにしています。

「まさかあの先生が」グルーミングは見抜けない

「加害者は性的意図を隠しながら関係性を構築していくため、それがグルーミングであると気づくのは、正直とても難しいんです。

外見だけでは、本当に善意で献身的に働く先生と、グルーミングをする先生の区別は専門家でもつきません」(斉藤先生)

斉藤先生によると、グルーミングは、ターゲットとなる子ども本人に対してだけでなく、その親や周囲の環境にまで及ぶことがあるといいます。

「加害者は、親や同僚、友人など周囲を取り巻く環境ごと手なずけていきます。『まさかあの先生が!』と思わせるような人間関係を、緻密につくり上げていくんです。

彼らに共通している特徴は『やさしさ』です。ある被害者は、加害者のことを『陽だまりのような人』と述べていて、事件後も加害者を擁護するような発言をしていました。

生徒から人気があって、保護者の評判もよく、同僚や上司からの信頼も厚い。そういう人物像こそ、グルーミングを行いやすい典型的な加害者像であるといえます」(斉藤先生)

グルーミングは多様な手口があるとした上で、その「やさしさ」や「献身」は、子どものためではなく、性加害をするために戦略的につくられたものだと斉藤先生は指摘します。

「最初から性的な行為が始まるわけじゃありません。受容・傾聴・共感で巧みに関係性をつくり、報酬を与え、境界線を少しずつ越えていく。グルーミングは“点”じゃなくて“線”、つまりプロセスなんです。

一連の流れがあって、気づいたときには、すでに支配と被支配の関係ができあがっています。被害者の子ども本人が性暴力だと認識できず、周囲も気づきにくいんです」(斉藤先生)

だからこそ斉藤先生は、「知識として、子どもと保護者が一緒にそのプロセスを学ぶことが必要」と強調します。

「おすすめは漫画です。グルーミングは文章だけで説明しても、どうしても伝わりにくい。

例えば、拙著『娘をグルーミングする先生』(LScomic/KADOKAWA)では、“真面目そうで熱心な”塾講師が、少しずつ生徒との距離を縮め、支配していく過程を漫画にしました。

親子で一緒に、こうした構造を漫画で学んでいくのが今のところいちばんいい方法だと思っています」(斉藤先生)

斉藤先生が監修した漫画『娘をグルーミングする先生』(LScomic/KADOKAWA)。ある日、「塾の先生と結婚したい」と言い出した高1女子。身近な信頼関係の中で進むグルーミングの怖さを描いた一冊。
すべての画像を見る(全7枚)

こうした“見えにくい被害”の入り口は、いま、学校や塾の中だけにとどまっていません。“現場の外”に広がっているというのです。

SNS時代の新しいグルーミングのかたち

ゲームやSNSを通じて子どもと知り合い、実際に会って性加害に及ぶ──。近年は、そうした「オンライン・グルーミング」の手口が非常に増えてきています。

「オンライン上では、年齢や立場を偽ることも容易です。いつでも・どこでも・だれとでもつながれるぶん、より多くの対象児童にアクセスし釣り糸を垂らすかのごとく罠を仕掛け、グルーミングをしながら性加害に及びやすいという印象があります」(斉藤先生)

警視庁の啓発サイト「なくそう、子供の性被害。」(※1)によると、令和6年にSNSに起因した事犯では、被害児童と被疑者が知り合うきっかけとなった最初の投稿者は、約7割が被害児童側でした。

しかも、その投稿内容の内訳を見ると、「プロフィールのみ」「趣味・嗜好」「日常生活」「友達募集」など、一見すると犯罪に巻き込まれるとは考えにくいものが約半数を占めています。

※1=「なくそう、子供の性被害。」/警視庁
関係統計「少年非行、児童虐待及び子供の性被害 広報資料」

被害児童数は減少しているものの高い水準で推移。令和6年の小学生の被害児童数は、平成27年に比べて3倍以上に増加していることにも注目したい。  出典:「なくそう、子供の性被害。」(警視庁)
増加傾向にある「重要犯罪等」のなかでは、不同意性交等、不同意わいせつ及び略取誘拐がその大半を占める。  出典:「なくそう、子供の性被害。」(警視庁)
「SNS に起因する事犯」では最初の投稿は被害児童からが約 7 割。投稿内容は「約半数が、一見して犯罪に巻き込まれにくい内容だ。   出典:「なくそう、子供の性被害。」(警視庁)

こうした投稿の中で、加害者はターゲットを見定めていきます。特別に危険な投稿をしていなくても、日常的な発信の延長線上で、見知らぬ大人とつながってしまう。そうしたリスクが、いまの子どもたちの身近なところにあるのが現実です。

男子トイレで横から盗撮

32 件