小児性被害は「魂の殺人」 加害者は「父親に擬態」する ふらいと先生が予防策を伝授

小児科医・ふらいと先生 親が知っておきたい「小児性被害」 #3 テクノロジーでの予防と社会問題として対策する必要性について

新生児科医・小児科医:今西 洋介

現代の子どもたちはSNSを通じて、幅広い交友関係を持っていますが……。  写真:アフロ ※写真はイメージです。

「ふらいと先生」こと、新生児科医・小児科医の今西洋介先生に聞く、小児性被害について。

今西先生は、ご自身も3人の女の子のお父さんとして、小児性被害から子どもを守るために具体的な策をとっていると言います。

今回は、実際に先生が行っている予防策と、子どもたちを社会的に守る方法についてお話しいただきます。

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今西洋介(いまにし・ようすけ)
新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。
SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。
X(旧Twitter)ではふらいと先生(@doctor_nw)としてフォロワー数は13.6万人。

テクノロジーを活用して子どもを性被害から守る

──最近は子どもたちの性被害もSNSがきっかけというニュースを耳にします。とはいえ、子どもがスマホで何をしているのか把握するのは難しく、子どもが大きくなってプライバシーを尊重することを考えると、どうやって予防をすればよいのか悩ましいところです。

今西洋介先生(以下、今西先生):私はよく娘たちに、「自宅の前や玄関の前に、貼り付けられない写真は、人に絶対に送らないこと」と言っています。

仲の良い友達だけだからいいやと、気軽な気持ちで写真を送ったら、翌日クラスのみんなが知っていた、みたいなことは結構あります。SNSに一度投稿した写真は完全には消せません。そういうリスクをしっかり伝えることが大事です。

──子ども同士でやりとりをするLINEなども、親の管理のもと制限をしたほうがよいですよね。

今西先生:いいえ、実はLINEを制限しても、子どもたちはX(旧Twitter)やInstagram、TikTokのアカウントを取得して、そのDMで友達や不特定多数の人とやり取りをするようになります。

ネットが進化していくからこそ、子どもたちはすり抜ける方法も取得できるんです。だからこそ、保護者側も上手にテクノロジーを活用して子どもを危険から遠ざける方法を考えてはどうでしょうか。

ひとつご紹介したいのが、自画撮り被害防止アプリ「コドマモ」です。これは、愛知県警がアプリ開発会社と県内大学と連携して作りました。

このアプリをインストールすると、子どもがわいせつな自撮りをした画像をスマートフォンで保存した際に、AIがその撮影データを判別し、画像を削除するよう促す通知が表示されるとともに、保護者にも通知されます。こういったアプリを活用するのもひとつの方法です。

今西先生の実践方法とは

今西先生:私自身は子どもたちにAirTag(Appleが開発した紛失防止タグ)を持たせるようにしています。リアルタイムで子どもがどこにいるかスマホで確認できますし、電池1個で約1年は持つので、頻繁に充電をしなくてすみます。また、いつも持ち歩くカバンに入れておけば、子どもが身につけ忘れることもなく便利です。

子どもの帰宅時間など、1人になる可能性の高いタイミングでチェックすることを日常化すれば、「いつもと違うルートを歩いている」、「同じ場所で長時間止まっている」という様子が見受けられた場合、「今日はおかしいな」と、異変にすぐ気づくことができます。

とても残念ですが、日本はまだ小児性被害に対して、社会全体で取り組もうという意識が低いのが現状です。だからこそ、まずは各家庭でテクノロジーを活用しながら子どもを守ることが必要です。

加害者が用意周到であることを父親も知ること

──テクノロジーの活用以外に家庭でできることはありますか?

今西先生:父親の防犯意識を高めることも大切です。母親は、性犯罪に対して敏感で、ニュースなどもよく耳に入るのですが、父親は被害に遭いにくいジェンダーだからこそ、どこか自分ごととして捉えにくい傾向があります。

商業施設のトイレに子どもが連れ込まれて被害に遭うというニュースを耳にしたことがあるかと思いますが、父親は事件を把握していても、加害者がどれほど用意周到かということには疎いのです。

この記事を読んでいるお父さん、子どもをトイレで待ち受ける加害者が、あえて子ども用の水筒やリュックを持っているということを知っていますか? つまり、彼らは自分を「父親」に擬態することで、他の大人に「この人はお父さんだ」と思い込ませて安心させるのです。

母親はもちろん、父親だって、トイレ付近を成人男性がうろうろしていたら不審に思いますよね。でも、「お父さん」らしき男性がそこにいることには疑問を持たないはずです。「トイレは気をつけなくてはいけない」という認識があっても、現実にはさらに手の込んだ罠があるということを父親に知ってもらうことはとても大事でしょう。

──どんなに親が目を光らせても、加害者はその裏をかいた行動をとってくる、と聞くと保護者の心構えはもちろんですが、加害者側への対応も必要に思えます。

今西先生:小児性被害は社会で取り組むべき問題です。アメリカのジョンズホプキンス大学の報告で、社会全体で取り組めば小児性被害は100%予防可能と言われています。そして、それには加害者の治療も含まれます。

アメリカの研究者ジョナサン・エイブルの研究で、未治療の一人の小児性犯罪者が生涯に出す被害者数の平均は380人というデータがあります。そして、日本では子どもが性被害に遭う件数ですが、年間1,000人以上と言われていて、実際はこれより多いと推測されます。加害者は加害者で認知行動療法を受けないとこの数字は一向に改善されません。

加害者が小児性暴力の欲求を行動に移すまでに、約10年かかるという報告があって、そのタイミングで公衆衛生学的に介入すべきということが海外の論文では書いています。

小児性被害者のアフターケアが乏しい日本

──加害者の治療の必要性に加え、被害者のケアはどのような体制がとられているのでしょうか?

今西先生:日本は、性被害を受けた子どもたちをサポートする機関が不足しているのが現状です。アメリカにはチャイルド・アドボカシー・センター(Child Advocacy Center)という、性被害に遭うなどさまざまな問題を抱える子どものための施設が900以上ありますが、日本には小児性暴力ワンストップセンターは2ヵ所しかありません。

子どもたちは性被害を受けることで、PTSD(心的外傷後ストレス障害)により、普通の生活が送れなくなることがあり、また性被害を受けると自殺率が5倍になるとも言われています。

さらに性被害を受けて警察へ行ったり、裁判を行う際に、もう一度自分が受けた性被害を何度も詳細に語らなくてはいけないのです。

──アフターケアが不足している上に、勇気を出して警察に訴えても、さらに性被害を思い出しながら語らなくてはいけないとなると、子どもの受ける心の傷が大きなトラウマになるのは想像に難くありません。

今西先生:実はこの子どもの証言がもうひとつの問題だと私は考えています。

小児性暴力の加害者は不起訴処分になることが多いのですが、なぜかというと、加害者である大人が巧妙に証拠を残さないようにすることに加え、被害者である子どもの証言が立件のベースとなるため、子どものあいまいな証言では立件できるケースは少ないのです。

どれだけ詳しく子どもに聞くかというと、「加害者の性器を口のどこまで入れられたのか」などということまで尋ねるんです。恐怖を感じていた小さな子どもが、そんなことを正確に答えられるわけがない。しかも、この話を警察に、そして弁護士に、と何度も聞かれることで、さらに子どもにとってはトラウマが残ってしまうのです。

子どもが性被害に遭わないために家庭内でも予防策を練り、子どもに注意を伝えることはもちろん大切です。でも、私は小児性被害者が増えないように、社会全体の問題として対策しなければいけないと考えています。

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性被害は「魂の殺人」ともいいます。

一瞬の隙に子どもが性被害に遭い、彼らの未来が悲しみから抜け出せないようなものにならないためにも、私たち保護者が今できることを、子どもに対策してあげることが大切です。

そして親である私たちは、性暴力に対して感情的に対応するのではなく、社会問題であると認識を改め、改善されるように今後行動をしていきたいと思います。

取材・文/知野美紀子

今西先生の小児性被害連載は全3回。
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いまにし ようすけ

今西 洋介

新生児科医・小児科医

新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を...