小児性被害は季節関係なく起こる 特に多い「グルーミング」についてふらいと先生が解説

小児科医・ふらいと先生 親が知っておきたい「小児性被害」 #1 子どもと親しい関係・グルーミングから生まれる性犯罪について

新生児科医・小児科医:今西 洋介

子どもたちの普段の生活の、どこに小児性暴力が隠れているのでしょうか。  写真:アフロ ※写真はイメージです。

今年の夏は残暑も厳しく、またまだ暑い日が続いているため、少し暑さが和らいだ夕方に公園などで遊んでいる子どもたちの姿を見かけます。

小学生以上になると保護者不在で公園に行くことも多く、こうした親の目が届かないときに、子どもたちを狙っている大人がいるのではと、心配になるママパパも多いと思います。しかも、夏は肌の露出が多く、ますます不安に。

「たしかに肌の露出が誘発して小児性暴力が起こるとも考えられます。ただ、小児性被害に限っていえば、決して季節性に関係があるとはいえません」

とは、「ふらいと先生」の名でX (旧Twitter)のフォロワー13万人超えの新生児科医・小児科医の今西洋介先生。

今回は今西先生に、小児性被害が起こる背景と、子どもの生活範囲との関わりについてお話しいただきました。

(全3回の1回目)

今西洋介(いまにし・ようすけ)
新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。X(旧Twitter)ではふらいと先生(@doctor_nw)としてフォロワー数は13.6万人。

夏だから性被害が多いというのは思い込み

──夏場は薄着のままで出かけるため、親としては性被害に遭いやすくなるのではと心配になり、つい「夏だから性被害が増える」という考えになってしまうのですが。

今西洋介先生(以下、今西先生):確かに水辺で性暴力が起きやすいということは言われていて、ニュースなどで性犯罪の事件が起きたと伝えられるトイレや温泉なども水辺ですね。

それに、夏はプールや海などの水場で遊ぶ機会が多いからこそ、夏に小児性暴力が多いと思われているのかもしれません。しかし加害者と話をしてみると、季節はそれほど関係がなく、実際、冬から春も被害の報告が多く聞かれます。

──その時期は、肌の露出はほとんどないですよね? なにが加害者を誘発するのでしょうか?

今西先生:加害者にとって重要なのは、薄着か薄着でないかということより、「確実に子どもがいる」ということなんです。

どういうことかというと、冬から春にかけては受験のシーズン。子どもがいつ、どこにいるということが把握しやすい。しかも、受験の日だと、子どもたちは絶対に遅刻できないので、朝は受験開始時刻から逆算して、ある程度決まった時間に移動します。

つまり、子どもが絶対にいるタイミングを彼らは狙っているのです。冬から春のシーズンに被害が増えるという理由はこれです。

──そんな酷いことが! 悔しいですが、知能犯ですよね。

今西先生:そうです。彼らは間違いなく子どもたちと接触するために策を練っています。

だからこそ、性犯罪などへの意識が高い地域では、中学や高校受験などの日に女性の警察官や父兄の見回りを増やしています。

また、文科省も痴漢被害により入試に遅刻した場合でも、試験時間の繰り下げや別日程への振り替えの対象とすることなど、被害を受けた児童生徒への配慮を伝えています。

「知らない人についていってはいけない」だけではない

──加害者の特性を理解しないと、親としては子どもを守ることができないような気がしてきました。

今西先生:例えば、言い方は悪いですが、「小児性愛者は変質者だから、変質者に遭わないように行動をすればいい」と考えるかもしれませんが、実は一番の加害者は実父であるというデータも出ています(※令和 2 年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 課題番号 17〔一次公募〕: 潜在化していた性的虐待の把握および実態に関する調査)。

小児性犯罪は、大人の性犯罪と違い「グルーミング」の中で行われます。グルーミング(grooming)とは、本来は「動物の毛繕い」という意味ですが、小児性被害におけるグルーミングとは、大人が性的な目的で子どもと親しくなることです。子どもは信頼をおける立場の父親や親戚、先生などから手なずけられる中で親しくなっていき、彼らにだまされて性交やわいせつ行為をされてしまうのです。

──正直、実父からの加害が一番多いというのはとてもショックです。しかし確かに、母親としては、父親や先生が「するはずがない」と思い込んでいる節があります。

今西先生:学校などで注意喚起のひとつに、「知らない人についていってはいけない」と教わると思うのですが、小児性犯罪を犯すのは知らない人だけではないんです。安全だと思っていた場所で、知っている人から加害を受けるということも起こり得るという認識を改めて持ってほしいと思います。

──親しい人からの加害は、子どもにとっても受け止めがたいでしょうし、なによりどうやって大人に伝えればいいか悩んでいる子もいるはずです。

今西先生:そうですね。例えば実父から被害を受けていた子どもは、自分の体が汚らわしいという考えを持つようになったり、加害を受けていることをお母さんに言うと、お母さんが悲しむだろうということまで考えたりする子もいます。

また、自分が被害を訴えると、加害者に迷惑が及ぶのではと思ってしまう子もいるんです。それほど子どもはグルーミングの中に入り込んでしまうのです。

──大人が受ける性被害の、その対象が子どもに移っただけと捉えてしまいがちですが、小児性被害は、大人による心理的な操作や、そこから受ける子どもの複雑な心の傷についても考えていかないといけないのですね。

今西先生:子ども自身は被害を受けているけれど、信頼している人からの行為だから被害と思えない一面もある。だからこそ、親御さんは子どもが発しているサインをしっかりと受け止めてあげてほしいですね。

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2023年8月某日、とある塾講師が小学生の教え子たちを盗撮し、小児性愛の仲間たちにその写真と共に個人情報までも公開するという悍(おぞ)ましい事件が発覚しました。

「薄着の季節は性被害に遭いやすい」、「知らない人についていくのは危ない」という大人が受けている刷り込みを、つい子どもにも同じように伝えてしまいがちです。

しかし、この事件からも分かるように、小児性暴力では、危険と考えられる場所や人だけから被害を受けるわけではないのです。だからこそ大人は、子どもにわかりやすく説明してあげることが大切ということにあらためて気がつきました。

そしてもうひとつ、大人ができるのは子どもを守る制度を作ることかもしれません。

「子ども家庭庁」は、子どもたちを性犯罪から守ることを目的として、教育や保育の仕事に就く際に、性犯罪歴がないことの証明を求める「日本版DBS」を導入することにしています。そして、現在この制度は学校・保育の施設のみが対象となる見通しです。

しかし、先ほどの事件は塾で起きたもので、この対象からは外れてしまいます。子どもを性犯罪・性暴力から守るためには、塾や無償ボランティアなど、子どもに関わるすべての職種に適用されるべきではないでしょうか? 

現在、今西先生も発起人として国に対し、「日本版DBS」の制度が適用される施設を拡大しようという署名運動が行われています。

署名運動についてはこちら(2023年8月現在)

子どもを守れるのは大人しかいません。

だからこそ、子どもが安全に暮らせる社会作りに私たちが一歩踏み出してみることもひとつなのかもしれません。

現在の日本では「警察に被害が届けられている小児性被害は氷山の一角」と今西先生はおっしゃいます。このような現状を知り、私たち保護者は何ができるのかを知るため、次回2回目では、なぜ小児性被害が発覚されにくいのか、その理由を探ります。

取材・文/知野美紀子

今西先生の小児性被害連載は全3回。
2回目を読む
3回目を読む。
(3回目は2023年8月28日公開。公開日までリンク無効)

いまにし ようすけ

今西 洋介

新生児科医・小児科医

新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を...