「日本版DBSで安心」が一番危ない理由 性加害からわが子を守る「男児への性教育」と「親の介入」[専門家が監修]

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生インタビュー #3「“親が主語”の性被害対策」 (2/3) 1ページ目に戻る

西川口榎本クリニック副院長:斉藤 章佳

男子の性教育にもっと力を入れる

日本版DBS(こども性暴力防止法)によって、子どもに関わる職場から性犯罪歴のある人を排除することには一定の効果があるかもしれません。

しかし、これまで(第1回・2回)伝えたように、摘発事例の約9割が初犯、約7割は学校や塾など“子どもと関わる職場”以外で起きていること(※榎本クリニックデータ)、ゲームやSNSがきっかけのオンライン・グルーミングが増えている、などの現状を踏まえれば、制度が届かない場所のほうがむしろリスクは高いともいえます。

「制度ができたから安心、ではなく、むしろアンテナや感度は今まで以上に高めていく必要があると考えています」(斉藤章佳先生)

とくに斉藤先生が強調するのが、男の子への包括的な性教育の遅れです。

「男の子が性被害に遭うということ自体、まだ社会の中で実感をもって受け止められていないのではないでしょうか。もともと男性は、自分が“性の対象として消費される存在”だという感覚を、幼いころから学ぶ機会が女性と比べて圧倒的に少ないです。

そのため、いまだに性については勝手に覚えるものと考えられており、前提となる知識も脆弱で、明るく元気にふるまうことを周囲から期待されており、プライベートゾーンに関する境界線についても学ぶ機会が少ないまま成長していきます。

だから、狙われやすい。男の子への包括的な性教育は、もっと早く、もっと丁寧にやる必要があります」(斉藤先生)

盗撮やオンライン上の性的搾取、公衆トイレでの被害など、男児を対象にした性加害は現実に起きています。それでも社会全体の感度は、まだまだ十分とはいえません。

日々のコミュニケーションを積み重ねる

性被害に遭ったとき、自らカミングアウトできる子どもは多くありません。さらに「子どもは被害に遭っても、すぐにそれを“被害”として認識できるとは限りません」と斉藤先生は指摘します。

とくに第2回で取り上げたグルーミングの場合、加害者から巧みに口止めされたり、「嫌われたくない」「自分が悪かったのかもしれない」と罪悪感や自責感を抱くように刷り込まれ、誰にも言えなくなってしまうことも少なくないといいます。

急に口数が減る、親を避けるようになる、部屋にこもる時間が増える、スマホも含め何かを隠している様子がある──。

「被害に遭った子どもには、何らかの変化が現れることが多いです。しかし、それは思春期の揺れや一時的な不調として見過ごされてしまうことも少なくない。実際、思春期の子どもは、“秘密のポケット”を作り、親と距離を取るのが自然な時期でもあります」(斉藤先生)

だからこそ重要になるのが、日々の親子コミュニケーションの量と質です。

「コミュニケーションを積み重ねるって、防犯としてはすごく遠回りに思えるかもしれません。でも実は、それがいちばんの近道なんです。

日々の何気ない雑談や会話があるからこそ、小さな変化にも気づけるし、何かあったときに子どもから声を上げやすい関係ができていくんです」(斉藤先生)

日々のコミュニケーションは、変化に気づくためのセンサーであり、同時に子どものSOSをキャッチするための回路でもある。そしてそれは、今日から始められる、とてもシンプルな防犯対策でもあります。

送迎などで親が頻繁に顔を出す

日本版DBSに基づき、子どもの安全確保に取り組んでいると認められた事業者には、認定事業者マーク「こまもろう」が付与されます。

ただし、このマークがある施設でも、リスクがゼロになるわけではありません。そもそも性加害は、「“怪しい人”が起こすものではない」からです。

事業者マークキャプ)「日本版DBS」(こども性暴力防止法)に基づき、国の認定を受けた塾などが表示する「認定事業者マーク」(左)と、学校や認可保育所等が表示する「法定事業者マーク」(右)。2026年12月25日に施行予定。
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「性犯罪は人(動機)が原因で起こるものではなく、機会(チャンス)やその環境によって起こるものです。性加害のリスクを持つ人、ターゲット、そして“安全に加害できる環境”がそろったときに起きる。さらに、そこに権力関係や地位関係が加わると、より起こりやすいです」(斉藤先生)

その前提に立つと、日常的に外部から“見えにくい空間”が生まれやすい学校や家庭こそ、実はもっとも性加害が起きやすい場所だと斉藤先生は言います。学校では先生などの大人から、家庭では親族から性被害にあうケースが多いのです。

では、日本版DBSの認定マークは意味がないのでしょうか。

「そんなことはありません。認定マークがあることに一定の抑止効果はあると考えています。必要な基準をクリアした環境では、性加害は起きにくいと考えていいと思います」(斉藤先生)

実際、わざわざ認定マークを掲げた場所を狙う加害者は、そう多くないだろうとも言います。

「だからこそ、彼らは認定マークのある習いごとや児童クラブなどの場所じゃなくて、もっと外部の目が入りにくい場所でやろうとします。具体的には、大型ショッピングモールのトイレや公園のトイレなどです。

恐ろしいですけど、事実です。彼らがこの世界をどう認識しているのかをちゃんと学んで、それを防犯に生かすしかありません」(斉藤先生)

だからこそ斉藤先生は、認定マークの有無にかかわらず、親が送迎したり、施設に顔を出したりすること自体に意味があると言います。

「外部が介入しやすい風通しのいい場所ほど、性暴力は起きにくい。親が送迎などで出入りしているというだけで、人の目が入り環境は変わります。それ自体が、立派な抑止力になります」(斉藤先生)

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