「日本版DBSで安心」が一番危ない理由 性加害からわが子を守る「男児への性教育」と「親の介入」[専門家が監修]

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生インタビュー #3「“親が主語”の性被害対策」 (3/3) 1ページ目に戻る

西川口榎本クリニック副院長:斉藤 章佳

社会が変わるべきこと──排除ではなく治療と更生

日本版DBSは、子どもを守るための重要な仕組みです。ただ斉藤先生は、「性犯罪歴のある人を排除する」だけでは根本的な解決にはならないと訴えます。

「性犯罪歴のある人を、子どもに関わる仕事から排除すること自体には、一定の意味があります。でも、それで性被害そのものがなくなるわけではありません。

そもそも日本版DBSは、初犯を防ぐ仕組みにはなっていませんし、実際、性加害の多くは、学校や塾など“子どもと関わる職場”以外で起きています。

さらに言えば、この制度には、性加害者の治療や、その後どう社会に戻し包摂していくのかという視点が、ほとんど組み込まれていません」(斉藤先生)

子どもを守ることと、性加害者が再び社会の中で生き直していくこと──。この一見相反する両極を、どう両立させるのかという問いこそが、いま社会に突きつけられている本質的な課題だと、斉藤先生は指摘します。

斉藤先生は、再犯リスクの重大なトリガーとして「孤立」と「社会からの排除」を挙げます。

「孤立の逆は、つながり。社会からの排除の逆は、社会の包摂です。小児性加害の経験のある人が治療につながり続け、正直な話をできる場所があり、社会の一員として組み込まれている感覚を持てることが、再犯防止にはとても重要です。でも現状、日本ではここが全然整っていないんです」(斉藤先生)

そのうえで、こう続けます。

「過去に性犯罪歴がある人が、ずっと治療プログラムにつながり続けること。それは、もう二度と同じことを繰り返さないための“再発防止責任”として、社会が求めてもいいことだと思います。

そのうえで、子どもに関わらない場所で働く、というかたちであれば、社会的にも納得されやすいのではないでしょうか」(斉藤先生)

社会から排除されれば、更生や社会復帰の道が閉ざされ、孤立を深めることになる。そしてその孤立こそが、かえって再犯リスクを高めてしまいます。

排除するのか、受け入れるのかという二者択一ではなく、「社会がどう関わり続け共存するか」。性加害をめぐる問題は、私たち一人ひとりと社会全体で考えていく必要のあるテーマです。

「自分の経験を話す」専門知識がなくてもできる性教育

斉藤先生は、性暴力対策には「一次予防・二次予防・三次予防」があると説明します。一次予防は、啓発と教育です。

「SNSなどで見聞きしたような断片的な情報ではなく、正確な情報を本や教材などからインプットし、子どもといっしょに学ぶことが大切です」と斉藤先生は言います。

そしてもう一つ、大事なのが、親自身の経験を語ることです。

「私自身も中学生の息子に、同じころに何をしていたか、何を考えていたかを話します。どんな恋愛をしていたか、何に悩んだか。自分の経験を語ることは誰にでもできるし、それ自体が性教育になるんです。

そもそも日本の男親って、自分の性を語る言葉を持っていない人が多いと感じます。私の父親もそうでしたから、同じ年頃のときに父親が何を考えていたのか、どんな恋愛をしてきたのか、失敗も含めて聞いてみたかった。そういう話って、知識よりもずっと子どもの心に残ると思うんです。

性教育の“性”は、生きるの“生”でもあります。性教育は、『生きる力』を育てることにもつながるんです」(斉藤先生)

二次予防は、早期発見・早期介入・早期治療。ここは制度や司法の仕組みなど、国レベルで整えていく必要がある領域です。「日本版DBSも、その一部として位置づけられるかもしれません」(斉藤先生)

三次予防は、再発防止。性加害者が治療プログラムを継続していける環境を作っていくことが中心になります。

「一次予防・二次予防・三次予防がきちんと機能してこそ、性暴力への対策ができている社会といえます。まずは、その前提を皆さんに知っておいてほしいです」(斉藤先生)

日本版DBSは、子どもを守るために欠かせない仕組みです。同時にそれは、制度だけに頼らず、家庭や社会が何を補い、どう支え合っていくのかを考えるための出発点でもあります。

制度に安住するのではなく、親がより感度を高め、家庭で一次予防を意識し、社会が治療や更生、再発防止の仕組みを育てていく。

その積み重ねの先にこそ、子どもたちが安心して育つことのできる社会があるのではないでしょうか。

取材・文/稲葉美映子

斉藤章佳先生が共著の漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信出版局)。性加害の入り口や背景から、子どもが自分も他人も大切にしながらよりよく生きる「包括的性教育」を漫画でやさしく解き明かす。
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斉藤 章佳
さいとう あきよし

斉藤 章佳

Akiyoshi Saito
西川口榎本クリニック副院長、精神保健福祉士、社会福祉士

専門は加害者臨床で、25年以上にわたりアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 現在まで治療に関わった性犯罪者の数は3500人以上、小児性犯罪者は300人以上。プログラム・ディレクターとして、性加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)、共著に漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信出版局)などがある。

専門は加害者臨床で、25年以上にわたりアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 現在まで治療に関わった性犯罪者の数は3500人以上、小児性犯罪者は300人以上。プログラム・ディレクターとして、性加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)、共著に漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信出版局)などがある。

稲葉 美映子
いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。