「こども食堂」名付け親に学ぶ「ボランティアをしたい人」への3つのアドバイス

第2回 近藤博子さんに聞く「子どもたちのために何かをしたい人が気をつけたいこと」

ライター:高木 香織

「こども食堂」名付け親の近藤博子さん。これまでの活動を讃えられ、吉川英治文化賞を受賞した。
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現在、全国に7000ヵ所あるという「こども食堂」。「こども食堂」の名付け親である近藤博子さんが、これまでの活動を讃えられて、2023年4月11日に第57回 吉川英治文化賞を受賞されました。

「こども食堂」は、事情があって親が食事を作れない家庭の「子どもが1人で入っても怪しまれない食堂」を縮めたネーミング。食事を出すばかりでなく、学習支援などさまざまな取り組みもしています。そして、その活動は全国に広がっています。

吉川英治文化賞受賞を機に、改めて「こども食堂」の活動の大切さを見直します。「こども食堂」って、なぜできたの? どんなことをしているの? 私たちにもできることがある? そんなことを知りたくて、「こども食堂」の生みの親である近藤博子さんに、子どもたちのために何かしたい人が気をつけたい「ボランティアの心得」を伺ってきました。

だんだん ワンコイン こども食堂(東京都・大田区)

買い物客の悩み事から、地域に必要なことが見えてくる

〈2008年ごろ、歯科衛生士の仕事のかたわら、知人から依頼されて東京都大田区で無農薬野菜を販売する「気まぐれ八百屋だんだん」を開店。土曜日に子どもの宿題を見る「寺子屋」活動を始めたのをきっかけに、大人の学びなおしとして「私も哲学」などの勉強会を始め、やがて夕方の空き時間利用の「みちくさ寺子屋」の活動につながっていった。地域の人々が声を掛け合い、困ったことはお互いで助け合う場を目指した。〉

──さまざまな活動をされていますね。どんな理由で取り組まれているのですか。

近藤博子さん:歯科衛生士として働いていて「歯と食と健康」は密接な関係があると感じていました。この3つをつなげたいと思っていたところに「無農薬野菜を扱う店をやらないか」という話が舞い込んできまして、八百屋を始めたんです。

八百屋開店の前日に、店の名前を考えていないことに気づいて、デザイナーの友人に相談すると、「最近は実家の地方の方言を名前にする店もある」と言うんです。それならと、私の出身の島根で「ありがとう」を意味する「だんだん」を店の名前に選ぼうと決めました。

デザイナーの友人がのれんに大きく「だんだん」と書いてくれました。

デザイナーの友人が書いてくれたパワフルなのれん。思はず店内に入ってみたくなるよう。

「『八百屋だんだん』だとちょっと物足りないね。あなた気まぐれだから、『気まぐれ八百屋だんだん』はどう?」

「あっ、それいいね!」

ということで、八百屋の名前が決まったんです。

でも、「気まぐれ八百屋だんだん」はボランティアではなく商売として始めたので、最初のころは夕食作りが遅くなったりして、家族にも大変な思いをさせたかなと思っています。

──地域へのありがとうの気持ちからスタートされたのですね。どんなお客さまが見えましたか。

近藤さん:何回か買い物にくるうちに、悩み事を打ち明けて身の上話をするようになる人たちがたくさんいたんです。その中に、母親が病気で子どもが食べられない家庭があると聞いたことから、「だんだんワンコインこども食堂」が始まりました。

まず八百屋のスペースがあったから、片隅で食堂がはじめられたんです。「八百屋をやってみないか」と言ってくださった方には、感謝しています。歯科衛生士として家と職場を往復していただけだったら、地域に目を向けることもなかったでしょう。

【ボランティアの心得①】自分ができる小さなことをする

──「だんだんワンコインこども食堂」は、毎週木曜日に開かれています。スタッフの方たちも息がぴったり合って、いい雰囲気ですね。スタッフの方たちは、みなさんボランティアですか。

近藤さん:はい、「だんだんワンコインこども食堂」は、ボランティア活動です。ボランティアとして手伝いたいという方が結構いらっしゃるんですが、あまり人を増やすことは考えていません。ご飯を食べていた子どもたちが育って、手伝いに来てくれているという流れもありますしね。

──「こども食堂」は全国に7000ヵ所も広がっています。それほど子どもたちに何かをしたい大人がたくさんいるということですね。子どもたちのためにボランティア活動をしたいと思っている人が、気をつけたいことはなんでしょう。

近藤さん:一人ひとりは、大きなことはできません。また、大きくする必要もないんです。ご飯を作って食べさせることならできる、お米を持っていくだけならできる。そんな「自分でできる小さなことをする」のがとっても大事です。

「だんだんワンコインこども食堂」スタッフの方たち。息がぴったり合った作業で、お弁当作りが進められていた。

【ボランティアの心得②】まず自分の生活を最優先にして、無理をしない

──子育て中の保護者へのアドバイスがありますか。

近藤さん:子育てしているとき、保護者の人たちは「社会に置いていかれちゃう」「同じ部署に戻れなかったらどうしよう」などと恐怖や焦りを感じていると思います。

ですが、たとえ同じ部署に戻れなくても、仕事に復帰できたことを自分でありがたいと思ってそこで一生懸命頑張れば、必ず実を結ぶと思います。きっと挽回できますから、子育て中は無理しなくていいんですよ。

ボランティア活動は、自分の家族に負担をかけてまでするようなものではありません。子育てそのものが大変なのですから、無理をしないことが大事だと思いますね。

私も3人子どもを育てましたが、子育て中は育児休暇を取りながら仕事していたんですよ。

【ボランティアの心得③】いつでもやめられる、という気持ちで

──ボランティア活動を始めたけれど、だんだんつらくなってくることもありますよね。大変さを感じるようになったら、どうしたらいいでしょう。

近藤さん:「だんだんワンコインこども食堂」が作る食事は、多くの人たちの寄付で賄っています。それはほんとうにありがたいことです。寄付がなかったら、これまで続けてこられたかどうかわかりません。

ただ、もし続けられなくなったら、その理由をみなさまにお伝えしてやめてもいい、とずっと思いながらやってきました。

これまで続けてきたのだからやめられない、とうことはありません。ボランティアでやっていることですから、できなくなったら無理して続けることはないんです。

近藤博子さんとボランティアスタッフのみなさん。お弁当作りや子どもたちに渡すお菓子の袋詰めをしている

──自分の生活を犠牲にしてまで続けなくていい、ということですね。

近藤さん:そうなんです。私は今でも歯科衛生士として働いています。保健所の1歳児や3歳児検診、虫歯予防教室とか休日診療、障がい者歯科検診のお手伝いもします。

最近は、娘が3人の子どもを保育園に預けて仕事に復帰するというので、仕事とボランティアに加えて孫育てもすることになりました。育メンや育じいが注目されていますが、私はこれから「育ばあ」もアピールしていこうと思ってるんですよ。

「だんだんワンコインこども食堂」のスタッフカレンダーにも「育ばあ時間をいただくことがあります」と書き込んでいて、家族の時間を確保しているんです。

──お仕事とボランティア活動をこなしつつ、ご自分の生活もきちんと大切にされているのですね。しなやかで肩ひじをはらないところが、長く続いている秘密かもしれません。

●プロフィール
近藤博子(こんどう・ひろこ)1959年、島根県生まれ。歯科衛生士のかたわら、「だんだんワンコインこども食堂」代表、「気まぐれ八百屋だんだん」店主。2008年、「食と歯と健康をつなげたい」との思いから、無農薬野菜を扱う「気まぐれ八百屋だんだん」を開店。すると、買い物よりも身の上話をする客が多いことに気づく。やがて子どもたちの学習支援が必要と感じ、八百屋の一角を子どもの宿題を見る「みちくさ寺子屋」や勉強会「私も哲学」など、地域の困ったことを助け合う場にする。2010年ごろ、客から親が精神的な病気で食事が作れない子どもがいると聞き、温かい食事を提供する「だんだんワンコインこども食堂」を開く。「だんだんワンコインこども食堂」は、大人も親子も、高齢者も歓迎している。「こども食堂」の活動は、まず豊島区に取り入れられ、やがて全国に広がった。2023年、吉川英治文化賞を受賞。

●聞き手
高木香織(たかぎ・かおり)出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

写真/椎野 充
写真/市谷明美

吉川英治文化賞とは
公益財団法人・吉川英治国民文化振興会が主催する<吉川英治賞>のなかで、日本の文化活動に著しく貢献した人物・並びにグループに対して贈呈される文化賞。他に、吉川英治文学賞、吉川英治文学新人賞、吉川英治文庫賞がある。

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たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。