8歳長女は「理由のない不登校」&3児ワンオペで疲弊 ママの本当の悩みをスクールカウンセラーが解明
公認心理師・スクールカウンセラーが語る 学校での悩みは何を相談していい? #3 不登校児と親へ同時カウンセリング
2023.08.31
公認心理師:中井 ようこ
スクールカウンセラーとして、コロナ禍で800件以上の相談を受けた公認心理師・中井ようこさんの「スクールカウンセラーが語る 学校の悩み相談」連載。
3回目では、「理由のない不登校」に悩んでいた親子のカウンセリングケースを紹介します。
(※プライバシー保護と秘密保持の原則にのっとり、実話を基に構成しています)
公認心理師
中井ようこ
小学校の養護教諭として15年間勤務。
退職後は、公認心理師の資格を取得し、スクールカウンセラーとして従事。コロナ禍では800件以上の相談を受けた。アドラー心理学の知識も活かし、子どもや保護者の気持ちに寄り添ったかかわりを大切にしている。
不登校と3児ワンオペに疲弊するママとの出会い
「子どもが突然、学校に行くのを嫌がるようになる」。
「登校時間になると頭痛や腹痛がおきる」。
このようなケースを経験したというママパパもいるかと思います。
もし、自分の子どもが登校しぶりや不登校になったら、どう対応すればいいのでしょうか? 今回は、不登校になった長女ちゃんと、3児のワンオペ子育てに疲れ切ったママBさんの親子のケースをご紹介します。
Bさんは8歳、3歳、0歳を育てるママです。GW明けに、小3の長女が、「学校に行きたくない」と言い出しました。それまでは友達といっしょに楽しそうに学校に通っており、長女ちゃんが困ったことや悩みを訴えることはなかったそうです。
それから毎朝、下の子たちを連れて長女の登校に付き添い、どんどん疲弊していくBさん。その様子に気づいた担任の先生が、スクールカウンセラーを紹介しました。
0歳の末っ子とともに、はじめて相談室を訪れたBさんは、身なりに気をつかえないほど疲れ切っていました。夫の長期出張によってワンオペ育児が続いており、娘の不登校についてひとりで悩んでいたのです。
「どうして学校に行きたくないのか理由を言わないんです。もう、どうしたらいいのかわからなくて……」と、今まで我慢していたものがあふれだすように、Bさんは話し始めました。
担任の一言で崩れたママの心
スクールカウンセラー・ヨウコ(以下、スクールカウンセラー):一番上のお子さんが登校しぶりになっているとお聞きしました。
Bさん:長女に理由を聞いても「わからない」というばかりで困っています。先日、担任の先生からは、
「クラスや学校では何も問題はみつかりません。最近、下のお子さんが生まれたと聞いています。それで娘さんは寂しい思いをしているのではないでしょうか。家でしっかりと話を聞いてあげてください」
と言われました。まるで、自分が責められているような気分でした。(涙ぐむ)
スクールカウンセラー:それはつらかったですね。
Bさん:(涙をふきながら)長女が学校に行けないのは、私のせいなのでしょうか?
確かに、長女には寂しい思いをさせているかもしれません。ちゃんと話を聞いているつもりでしたが、長女にとっては足りなかったのでしょうね。
下の子たちは元気にがんばってくれているのに、なぜ長女はこんなにも手がかかるのか。本当はこんなことを思ってはいけないんですけど、長女をかわいいと思えないんです。(再び涙ぐむ)
スクールカウンセラー:3人もお子さんを育てている中、よくがんばっていらっしゃると思いますよ。まわりに子育てを助けてくれる人はいますか?
Bさん:もともと我が家は転勤族でした。実家は遠く、まわりに頼れる人はいません。コロナの関係で夫が転職し、今年から長期出張になったので、普段はひとりで育児をしています。
「誰かに助けてほしい」と思っても、もともとコミュニケーションが苦手で、悩みを話せる友達もいないんです。夜になると、担任の先生の「家でしっかりと話を聞いてあげて」という言葉が頭に浮かび……。私って孤独だなと思えて、心が折れそうです。
スクールカウンセラー:つらい経験を、よく話してくださいましたね。Bさんも長女さんも幸せになれる方法を、一緒に考えていきましょう。
カウンセリングを経て親子の心の距離を縮める
最初の相談から数日後、Bさんは再び私、カウンセラーのもとを訪れました。長女さんの登校しぶりは改善されておらず、硬い表情で0歳の子を抱いていました。
スクールカウンセラー:前回のBさんとの相談の後、長女さんへのカウンセリングをしました。そのときの様子をお話ししますね。
長女さんはやはり「どうして学校に行けないのか、わからない」と言っていました。
学校に行くと、冷や汗をかいたり、声が出にくくなったりするそうです。それが怖くて行けないのかもしれないと話していました。
もうひとつの悩みが「自分のせいでママを困らせてしまっていること」。長女さんもBさんと同じように、自分を責めているようでした。
Bさん:そうだったのですか……。(しばらく無言になり、涙が頰をつたう)
スクールカウンセラー:娘さんもBさんと同じく、コミュニケーションが苦手なようですね。きっと、学校などの外の世界では、思った以上に心のパワーを消耗するのでしょう。でも、長女さんは「どうしたらいいのかわからない」と。
Bさんが抱えているお気持ちに、少し似ていますね。
Bさん:はい……。わたしもPTAの会合や学校の行事とか、外で誰かと話すことにストレスを感じます。娘と同じように、冷や汗をかくことも。
どこかでストレスを発散したいんですけど、今は子育てが忙しくて、家の中でもくつろげません。自分の時間がないので、息がつまりそうで苦しいですね。
(ハッと気づいた顔をする)そうか、娘も同じように苦しんでいるんですね……!
スクールカウンセラー:今の娘さんの気持ちに、最も共感してあげられるのは、Bさんかもしれません。ぜひ、ご自分の悩みも長女さんに話してみてください。
Bさん:はい、帰ったら、長女とゆっくり話してみようと思います。すごく大切なことに気が付くことができました。
その後、積極的に親子の会話を増やしたというBさん。自身の生い立ちや、性格の悩みなどを長女さんに話すようになったといいます。すると、娘さんも「友達の会話にどうやって入っていったらいいのかわからない」など、学校での悩みを話してくれるようになりました。
お互いの悩みに、それぞれが共感できるようになったのでしょう。カウンセリングを重ねるうちに、少しずつ親子に笑顔が増えていきました。
ママの回復とともに不登校が改善し始める
Bさんはその後、1年間にわたって8、9回程度、カウンセリングに通い続けてくれました。スクールカウンセラーが親子への寄り添いを続けるうち、Bさん親子にある変化が表れました。
Bさん:実は、来月から1歳になる末っ子を保育園に預けて、パートで働こうと思っています。
スクールカウンセラー:そうなんですね! 何か心境の変化があったのですか?
Bさん:長女に「ママは元気だよ」というメッセージを送るためです。長女とたくさん会話をする中で「わたしも外でがんばってみようかな」と思い始めました。
もちろん、パートに出ることは長女にも相談しました。すると「ママすごい! がんばって!」と応援してくれたんです。
とても驚きました。長女を学校に行かせるために、私はいつも家にいなきゃいけないと思い込んでいたんです。でも、それは違ったんですね。私の元気な姿をみせることで、長女を安心させてあげることが大切だと気がつきました。
スクールカウンセラー:長女さんの様子はいかがですか?
Bさん:それが、週に何日かは登校できるようになりました。すごく驚いています。
きっかけは、学校以外に登校できる「適応指導教室(※注1)」や「フリースクール」の見学に行ったことです。職員の先生方が親身に話を聞いてくれて、娘もうれしそうでした。
「学校だけじゃない、他にもちゃんと居場所はある」と、親子で安心できたことが大きかったのかな。
スクールカウンセラー:それは良かったです。娘さんの心のエネルギーが回復してきましたね。Bさんの心はどうですか?
Bさん:おかげさまでわたしも元気を取り戻してきました。コミュニケーション下手のわたしが、たくさんの気持ちを吐き出せたのはこの相談室のおかげです。ありがとうございました。
スクールカウンセラー:本当によかったです。またいつでも話にいらしてくださいね。お待ちしています。
(注1)
※適応指導教室(教育支援センター)とは、不登校の子どもを対象に学校以外の場所や校内に設置されている施設。教員や心理師などのスタッフが、子どもたちの心の居場所づくりをするとともに、興味や関心に応じた体験活動や相談を通じて、社会的自立と安定した心を育てるための活動を行っている。
適応指導教室に通うためには、在籍する学校への相談が必要で、スクールカウンセラーを通じて紹介することも可能。一定の要件を満たした場合は学校の出席日数にカウントされる制度もあり。
Bさん親子へのカウンセリングは終了しましたが、その後も何か悩みがあるとBさんは相談室を訪れてくれました。
「ここで悩みを話すと、自分の気持ちを整理できるんです」と話すBさんは、初めて会ったときとは別人のように明るくなっていました。
長女ちゃんの不登校がきっかけで、子どもだけでなく、自分自身とも向きあえるようになったBさん。娘さんにとっての「安心」をキーワードに考えることで、親子の絆が深まったケースでした。
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子どもたちを取り巻く環境が大きく変化する中で「理由のない不登校」が増えています。なぜ学校に行けないのか、原因がわからない焦りから、親子関係が悪化してしまうケースが後を絶ちません。
子育ては親だけの問題ではありません。我が子の考えがわからず、どうしたらいいのか迷ったとき、決してひとりで抱え込まず、誰かに相談をしてください。幸せな親子関係を築くためのヒントがつかめるかもしれません。
あなたの近くにもスクールカウンセラーがいます。何か悩んでいることがあれば、勇気を出して話してみてくださいね。
文/中井ようこ(メディペン)
スクールカウンセラー記事は全3回。
1回目を読む。
2回目を読む。
メディペン
医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen
医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen
中井 ようこ
小学校の養護教諭として15年間勤務。退職後は、公認心理師の資格を取得し、スクールカウンセラーとして従事。コロナ禍では800件以上の相談を受けた。アドラー心理学の知識も活かし、子どもや保護者の気持ちに寄り添ったかかわりを大切にしている。
小学校の養護教諭として15年間勤務。退職後は、公認心理師の資格を取得し、スクールカウンセラーとして従事。コロナ禍では800件以上の相談を受けた。アドラー心理学の知識も活かし、子どもや保護者の気持ちに寄り添ったかかわりを大切にしている。