『劇団四季』「バケモノの子」の子役が明かす 自分の居場所と俳優としての成長

子どもの居場所 ルポルタージュ #5~前編~ 劇団四季の子役・照井航ノ介さん

ジャーナリスト:なかの かおり

コロナ禍の子どもの暮らしの取材・研究を重ねるジャーナリスト・なかのかおりさんによる、子どもの居場所についてのルポルタージュ連載。

第5弾は、3月までJR東日本四季劇場[秋](東京・竹芝)で上演中の『劇団四季』新作オリジナルミュージカル『バケモノの子』に出演している子役・照井航ノ介さんにインタビューしました。
照井さんにとって、『劇団四季』はどのような居場所なのでしょうか?

(全2回の前編)

ライオンキングの子役「いつかやりたい」

原作は、2015年公開の細田守監督による同名のアニメーション映画で、翌年の第39回『日本アカデミー賞』では最優秀アニメーション作品賞を受賞しています。筆者も小学生の娘と、劇場に足を運びました。2022年の夏休みに予定していた観劇日は、コロナ陽性者が出て中止になってしまい、秋の祝日にチケットを取り直しての鑑賞です。

主人公の子ども時代・蓮/九太役は、歌もセリフも多く、小さな体でひたむきに演じる姿に感心しました。舞台という場で活躍する子役は、どんなことを考え、どんな準備をしているのでしょうか。11月の昼公演後、蓮/九太役の一人・照井航ノ介(てるい・こうのすけ)さんが劇場の一角でインタビューに応じてくれました。

「バケモノの子」で主人公の子ども時代を演じる照井航ノ介さん(左)。  写真提供:劇団四季(撮影・阿部章仁)

舞台で思い切り演じた充実感からか、目が輝いていて、「疲れていないです」という照井さん。小学5年生の男の子です。照井さんが『劇団四季』に憧れたのは、5歳で「ライオンキング」の舞台を見たときでした。

「あの子役をいつか、できたらな。演技をして、お客さんに見てもらいたい、と思いました。シンバが歌う『早く王様になりたい』を家で歌っていました」(照井さん)

サッカーや水泳のスポーツを楽しむかたわら、歌の先生を見つけてミュージカルのレッスンを受けていた照井さん。10歳のときに『劇団四季』の『バケモノの子』の子役オーディションを受けました。蓮/九太役の課題曲を練習して臨んだオーディションは、狭き門。演出家や音楽監督といった審査員が並び、さまざまなリクエストに答えました。

「他の子は、自分よりうまいんじゃないかと思い、大丈夫かなと緊張しました。でも歌ってみると、どうしようという迷いはなくなりました。歌ったり、演技したり、指示を受けてやってみるうちに、こうすればいいんだと発見がありました」(照井さん)

オーディションの最中でも、学びを見つけるなんて、前向きな姿勢に驚きます。

四季の基礎を覚える稽古から

蓮/九太役に合格し、2021年11月から稽古を開始。2022年4月スタートの公演に向けて稽古に励みました。

「合格して、とても嬉しかったです。あの舞台に立てるんだ、というワクワク感がありました」と振り返る照井さん。稽古を始めると、大変さもありました。

「土日はほとんど毎週、稽古がありました。平日も、学校に通いながら参加。最初は大変でした。全然、集中力が続かなくて……。どうしよう、こんな集中力で大丈夫かなって思いました。子役指導の方がついてくれて、一から稽古しました」(照井さん)

初めの数ヵ月は、呼吸法など四季の方法論や開口訓練、セリフ、殺陣や動きの稽古、腕立て伏せなどの体力づくりを行いました。

子どもは周りの人の変化を見ながら成長するため、本来なら子役全員が一斉に基礎練習をするのが望ましいですが、現在は感染予防のため、大人数ではできないといいます。

子役が稽古を重ね、集中力や体力が身につくと、大人の役者と合流し、作品の稽古に飛び込んでいきます。照井さんは家でも、妹に相手役を頼み、自主練しました。

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