『劇団四季』「バケモノの子」の子役が明かす 自分の居場所と俳優としての成長

子どもの居場所 ルポルタージュ #5~前編~ 劇団四季の子役・照井航ノ介さん

ジャーナリスト:なかの かおり

舞台に立つたび、客席の反応が違う!

照井さんは基本練習から稽古を経て、2022年6月、初めて本番のステージに立ちました。

「すごく緊張しました。『間違っていないかな』、『この衣装でいいのかな』、と自分の心の声がうるさかったです。10回ぐらい出演したら、慣れてきました。お客さんの反応も毎回違って、笑うところも変わるということがわかりました」(照井さん)

実際の舞台に出るようになると、さまざまな発見があったと言います。

「小道具や衣装も細かく、よくできているんです。大人の俳優さんの、すごさも感じました。他の舞台に出演していて、『かっこいいな』と遠くから見ていた俳優さんと初めて話して、こういう人なんだって知ることができます。

一緒に演じると、俳優さんの気持ちが飛んでくる。役柄によってマイナスな感情だったり、優しさだったり、そのキャッチボールなんだなって実感します」(照井さん)

凝った小道具やカラフルなビジュアルも見どころです。  写真提供:劇団四季(撮影・阿部章仁)

照井さんは、初めは必死だったけれど、自分の役に責任感を持つようになり、「よくできた」、「こうすればもっとできる」と自身を冷静に見るようになりました。舞台に出るときにスイッチを入れて、毎回やり切っています。

『劇団四季』では、子役がそれぞれの学校生活となるべく両立できるようにしています。普通の生活を犠牲にせず、小学生としての体験もできるようにという配慮です。

厳しさもあるけれど舞台は楽しい場

『劇団四季』の舞台は、照井さんにとってどのような場なのでしょうか。

「ミュージカルの世界の中で、最高の場にいると思っています。『劇団四季』の作品は、セリフが聞き取りやすく、お芝居もわかりやすい。稽古も、子役指導の方の教え方が分かりやすくて、やりやすい。もちろん厳しさもありますが、楽しい空間で、思ったことをバンと表現できる場です。

ずっと稽古してきて、みんなとの距離も近くなって、いろんなことを話します。『ここはこうだったね』、『こうしたらやりやすいね』とか正直に言い合えて、信頼関係が作れる。とても恵まれています。衣装さんからも、おもしろかったと声をかけてもらえて。今日のお弁当は何かな、と考えるのも楽しみです」(照井さん)

他の子役からも、刺激を受けるといいます。

「みんな、いろいろな経験をしていて、引き出しを持っています。『劇団四季』に憧れて初めて舞台に立っている子もいれば、他の舞台やテレビの世界で活躍している子、サッカーを頑張っている子……。

お客さんとして舞台を見ているだけでは、『あの子、すごかったな』で終わって出会いもないけれど、いろいろな子と知り合えるのも魅力です。本番後にダメ出しをもらい、ずっと磨き続けています」(照井さん)

照井さんは、今後も蓮/九太役として走り続けます。「バケモノの子」卒業後は、どんな目標があるのか、聞きました。

「いろいろなミュージカルに、出てみたいです。今の役を卒業した後は、別の作品で子役を演じる道もあります。大人になってプロを目指していくと、緊張感はもっと高まり、勉強しなければいけないことも、たくさんあります」(照井さん)

舞台という場でぐんぐん成長し、しっかりとコメントしてくれる照井さん。やんちゃな子どもになる時間も、ちゃんとあります。子役の指導をする遠藤剛さんに聞くと、舞台の子ども時代の一幕が終わった後の楽屋は、集中した後の解放感で「動物園のように、にぎやか」といいます。

照井さんの演じる役は出番が多く、大人の俳優に負けない集中力が必要です。素顔になれる時間が持てないと、のびやかさがなくなってしまいます。お弁当タイムに、照井さんが遠藤さんのおにぎりを、ポータブルスピーカーの上にちょこんとおいておいたというエピソードが、微笑ましいです。信頼関係があってこその、ちょっとしたいたずらですね。

好きなことを照井さんに聞くと、「鉄道が大好き。遠出して、地方の在来線を見に行きます。大阪で『劇団四季』の『オペラ座の怪人』を見た日は、朝7時に品川駅から新幹線に乗って、時間があったから環状線に乗って観光もしました」と話してくれました。

後編では、『劇団四季』の俳優として活躍後、現在は子役の指導にあたる遠藤剛さんのインタビューを紹介します。

取材・文/なかのかおり

後編 『劇団四季』で活躍する子どもたち 子役からの将来を導く指導方法とは? 

なかのかおり
​ジャーナリスト。早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。
主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』(デザインエッグ社)が2022年10月22日発売。
https://www.kaorinakano.info/

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なかの かおり

ジャーナリスト

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki