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卒業式っていつから始まったもの? どんな曲を歌っていた?
きっちりと入退場を行い、校長先生のお話や卒業証書授与、そして卒業式歌・卒業ソングの合唱が行われる卒業式は、日本独特の文化です。その始まりについて、有本先生は次のように話します。
「卒業式は、1876年(明治9年)6月に陸軍戸山学校が行ったことを起源とします。翌年には東京大学も式を執り行っているので、その背景には、近代教育の意義やその成果を広く知らしめようとする国家の思惑があったと考えられます。
ただ、最初のころは式歌を歌うことはなく、軍楽隊が奏楽して式を盛り上げました。初夏の卒業式だったので、季節と相まって明るく賑やかな感じだったでしょうね」(有本先生)
意外と早い! 卒業式歌が歌われるようになったタイミング
「卒業式に歌が歌われるようになったのは、現在のお茶の水女子大学の前身である東京女子師範学校がきっかけです。1879年(明治12年)に同校の第1回の卒業式が行われましたが、そこで歌われたのが最初になります。
新しく作られた曲ではありましたが、当時の日本はまだ西洋音楽を取り入れ始めたばかりでドレミにも馴染みがなかったので、和歌に雅楽的なメロディーをつけたものでした。
ですから、歌うといっても複数の声部に分かれて歌う、現在の合唱とは異なるイメージの音楽でした」(有本先生)
それから時代を経ると「唱歌(のちの音楽)」という教科の教材である唱歌が歌われるようになり、そのなかでも『君が代』や『蛍の光』が卒業式の歌として目立ってきます。
「『蛍の光』と対に思われがちな『仰げば尊し』は、♯(シャープ)が4つもあっただけでなく、8分の6拍子というリズムも明治期の日本人には難しかったので、式で歌われるようになったのは、ずっとあとのことなんですよ。
ところで、『蛍の光』と『仰げば尊し』は、どちらも外国の曲に日本語の歌詞を当てたことをご存知でしょうか。前者はスコットランド民謡で、後者はアメリカに原曲があります。
しかも『蛍の光』は卒業式のために作られた曲ではないんです。それなのに歌い継がれているのは、日本人にとって比較的歌いやすいメロディーだったということと、歌詞が学校生活や別れと相性がよかったのでしょうね」(有本先生)
卒業式が小学校でも行われるようになったのは、1887年(明治20年)ごろのこと。また、日本国中で卒業式が晴れの場であるとともに、別れの場でもあることが一般的になったのは、尋常小学校の卒業が当たり前になり、大半の子どもが卒業式を経験するようになった大正期(1920年代ごろ)のことになります。
現在に近い卒業式のスタイルが浸透し、合唱の持つ力が重要視されて、感動的な式に欠かせない要素になるのは戦後のことです。